IQとは無関係、子どもの学力を高める粘り強さを育む方法?
Lifestyle 2022.01.22
文/ジュリア・レナード(マサチューセッツ工科大学脳・認知科学博士課程)
親は難なく目的を達成する姿よりも、試行錯誤する場面を幼児に見せるべし。米MITの認知発達の専門家が教える。
四苦八苦して成功した大人を見た幼児は自分も努力する確率が高くなる。 photo: iStock
あなたは家でトマトソースをつくろうとしているが、トマトの入ったプラスチック容器がどうしても開けられない。
底の留め具が外れず、あなたはもっと強く引っ張る。過去に似たような容器は何回も開けたはずなのに、このタイプの容器は初めて。1分ほど奮闘した後、あなたは手を止めて考える。
このまま押したり引いたりするべき? それとも誰かにやってもらったほうがいい? あるいは、生トマトは諦めて缶詰を開けるべきか?
私たちは常にこのような決断を行っている。何にどれだけ労力を費やすべきかという決断だ。
1日に使うことのできる時間とエネルギーは限られているから、何にどれくらい努力するかを決断しなければならない。
筆者のような認知発達の専門家は、人が努力に関する意思決定をどう行うかに関心を持っている。なかでも、絶えず新しい状況に遭遇する幼児は、どのように努力の程度を決めているのだろう?
努力の重要性は、日々の時間配分に関する決断にとどまらない。最近の研究では、IQとは無関係に、自制心と粘り強さが学業成績を高めることが示されている。
努力に関する個人的な信念さえも、学業成績に影響を与えることがある。「努力は成果につながる」と考えている子どもたちのほうが、「能力は固定された特性だ」と考えている子どもたちよりも良い成績を収めたという研究結果もある。
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疑問の答えを探るため、筆者の研究チームは、生後15カ月の幼児たちに、次に挙げるふたつのいずれかを見せた。
一方は、大人が容器からおもちゃを苦戦しながら取り出すなど、目的達成のために努力している場面。もう一方は、大人が難なく目的を達成する場面だ。
その後、幼児たちに初めてのおもちゃを渡した。上部の大きなボタンを押したら音楽が流れるように「見える」おもちゃだ(実際は、このボタンを押しても何も起こらず、隠しボタンを押さなければ音楽が流れない)。
まずは、幼児から見えないように隠しボタンを押しておもちゃを作動させ、音楽が流れるおもちゃであることを見せつける。そして、幼児とおもちゃを残して部屋を出て、幼児がボタンを押しておもちゃを作動させようと試みた回数を観察した。
2度の実験で、参加した幼児は合計182人。このうち、大人が成功するまでやり抜く姿を見た幼児は、大人が楽に成功するのを見た幼児に比べて、ボタンを押した回数が約2倍多かった。
つまり、大人が努力の末に成功した例を見ただけで、幼児は努力の価値を学んだということだ。
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あえて努力を見せる効果。
この実験結果の興味深いところは、幼児が大人の行動を、ただまねただけではないという点だ。幼児は努力の価値を「一般化」し、「新しい課題」に当てはめた。
幼児が見た大人は、ボタンを押してみせたり、音楽を鳴らしてみせたりしたわけではない。幼児は、努力を要する大人の行動(容器から物を出すなど)を見たことから、新しいおもちゃにも粘り強さが必要なのだろうと自ら学んだのだ。
しかし、何かがうまくいかなくて努力している親は、ほとんどの場合、自分の目の前にある作業に集中しており、子どもに努力の価値を教えようとはしていない。
大人がわざわざ手本を見せていない場合でも、幼児は努力の価値を学ぶことができるのだろうか?
この疑問の答えを出すため、私たちは、子どもに目配せしたり話し掛けたり、といった働き掛けを一切せずに、もう一度実験を行った。
その結果、努力の末に成功した大人を見た幼児のほうがやはり、自分の課題に真剣に取り組んだ。ただし、大人が働き掛けを行わなかったこちらの実験では、その効果ははるかに弱かった。
「困難に直面したときの粘り強さ」は、どうすれば育むことができるのか。教育者や保護者はその答えを知りたいと考えている。
私たちの研究からは、幼児が粘り強さを大人の手本から学ぶことができることが見て取れる。幼児は、周りにいる人を注意深く観察し、その情報を努力の指針にしている。
ただし、幼児は単に、何ごとも頑張らなければならないと学ぶわけではない。大人と同様、幼児も努力について合理的な判断を下す。
頑張って成功した人を見たら、幼児も一層努力する。一方、難なく成功した人を見たら、努力する価値はないかもしれないと推測する。
では、親はどうすればいいのだろう?
今回の実験結果が、家庭でもそのまま通用するわけではないだろう。しかし、努力すれば成し遂げられることに挑戦させたいのならば、まずは子どもに努力と成功の手本を見せるといいかもしれない。
最後に、今回の研究は、親は常に物事を簡単に悠々とやって見せなければならないわけではない、ということを示唆している。
今度トマトの入った容器を開けるのに苦労した時は、その汗をあなたの子どもに見られても大丈夫。むしろ、見られたほうがいいかもしれない。
Julia Leonard, Ph.D. Student in Brain and Cognitive Sciences, Massachusetts Institute of Technology (MIT)
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
text: Julia Leonard