持ち主の美学を表す、あの人の愛用品。
Lifestyle 2022.05.19
フィガロジャポン7月号(5月19日発売)「美しい手仕事」では、シャネルやディオール、エルメスなどパリのハイメゾンのアトリエや手仕事の技が息づく逸品、パリのインテリアを彩る職人仕事、暮らしを豊かにする手仕事の道具などを紹介。ここでは「持ち主の美学を表す、あの人の愛用品」をお届け。感度の高い人たちが何を選び、何を愛用しているのかをご紹介します。
暮らしの中にある手仕事には、使う人の美学も詰まっている。作家との出会いや旅先での思い出など、ひとつひとつに豊かなストーリーがある。6人のセンスのいい人たちが愛用している美しいものを紹介。なぜその手仕事に強く惹かれるのか、教えてくれた。
01
井伊百合子
(スタイリスト)
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山野アンダーソン陽子のタンブラー
photography: Yayoi Arimoto
私が惹かれるのは、繊細さと力強さが共存している手仕事。手あてされたものには、機械では生み出すことができない揺らぎがある。そして、作品自体が呼吸をしているような温度を纏っていて、手仕事のそういったところに魅力を感じる。
山野アンダーソン陽子さんとは、作られたガラス作品よりも先に、ご本人と出会った。とてもチャーミングな人で、その考え方から学ぶことも多く、そんな彼女の作品を見てみたくなって、個展へと伺った。山野さんは、実用的なものだけではなく、ガラスというフィルターを通して、さまざまな表現に挑戦している作家だ。オブジェクトとして、そこにあるだけで強い力を放つ作品たちから、いつも新たな視点を教えてもらっている。
タンブラーも、同じ形のものはひとつとしてない。その豊かな表情に愛おしさを感じた。 中に注ぐものを選ばない、汎用性があるのも優秀だ。ロングカクテルや、夏にはレモンスカッシュなど、ドリンクの色によって、また異なるガラ スの表情を楽しんでいる。
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02
太田莉菜
(モデル・女優)
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梅本勇のうつわ
photography: Yayoi Arimoto
梅本勇さんのうつわに出合ったのは、谷中のギャラリー、ココン。2階の喫茶で実際に使わせてもらい、なんて美しいうつわなんだろう! と、惚れ惚れ。それから彼のうつわを収集し始め、20点は持っている。
独特な青色に惹かれて購入した取っ手付きのうつわは、スープや総菜を入れるのに使い勝手がいい。眩しいほど鮮やかな黄色の皿は、おやつでよく使うが、和菓子も洋菓子も合わせやすく、日々の何気ない食卓を明るくしてくれる。鮮やかな釉薬のうつわたちは、私を元気にしてくれる宝物みたいな存在だ。ひとつひとつが宝石のようにキラキラと輝いて、物語を持っている。きっと細やかで複雑な工程を経て作られたのだろう。そんな背景まで想像して手にしていると、自分を豊かに感じられる。
手仕事に惹かれるのは、その作り手にしか表現できない世界観を知った時、そして、そのものを手にしている自分を豊かに感じられる時。微細な歪みや配色のパターンなど、ひとつとして同じものはない。異なる表情から、自分に合うものを探すのは時間がかかる。でもその丁寧に選ぶ作業でさえ、豊かな時間だと思う。
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03
細川亜衣
(料理家)
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横山秀樹のガラスの鉢
photography & text: Ai Hosokawa
北イタリア・ベルガモ。服作りの工房で働く友のアパートで、差し出された一杯の水。イタリアの家庭や食堂で使う、味気ない量産品のコップとは違う手触りにはっとする。口に触れた瞬間、硬く、冷たいはずのガラスが柔らかかった。それは、横山秀樹というガラス作家の名前を知った、記念すべき瞬間だった。
その後、しばらくして私は熊本へ嫁いだ。東京の家を離れる少し前に、突然、秀樹さんからお電話をいただいた。亜衣さんの料理を食べたいので、場所を用意するから作りに来てもらえませんか。ベルガモの友が繋いでくれた縁だった。唐津で焼き物を生業とする一家の、世にも美しいお宅で料理をさせていただく光栄。市場を歩き、食材を見繕う。会に集まってくださった秀樹さんの友人たちはみな温かで、私は家族に見守られているような気持ちで料理した。
会の後、ほっと一息ついたところで、秀樹さんからゲスト全員へグレーの泡のグラスが贈られる。薄墨を思わせる独特の色、ガラスの中で弾ける無数の泡。なんというガラスだろう。なんというグラスだろう。
そして、私と夫には、ずっしりと大きな箱。開けてみると、さまざまな大きさと形の透明のペアグラスがぎっしりと入っている。ひとつとして同じものはない揺らぎ。ぽってりとした厚みと、重たくはないが、どっしりとした安心感がある。
あの日から、私の使うガラスは秀樹さんのものばかりになった。グラス、鉢、皿、瓶、ランプシェード。秀樹さんのガラスは、少しずつ、少しずつ、私の生活を染めていった。日々、水を飲む。料理や菓子を盛る。花を生ける。灯りを灯す。朝から晩まで、私の時間の中に秀樹さんのガラスはある。ひとりの人間の、ひとつの家族の毎日を変えるガラス。それが横山秀樹のガラスなのだ。
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04
井出恭子
(YAECA デザイナー)
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テッド・ミューリングの茶こし
テッド・ミューリングの茶こし¥55,000 /ヤエカ ホーム ストア(tel: 03-6277-1371)
photography: Yayoi Arimoto
知り合いのピアスを見て、なんて美しいのだろうと、ひと目惚れした。それが、ニューヨークのジュエリー作家テッド・ミューリングとの出合いだった。テッドは、植物の種や貝殻など、自然界に見られる有機体をモチーフにジュエリーを作っている。そのものの切り取り方は不思議で、とてつもなく惹かれてしまう。
彫刻のようなジュエリーは、アクセサリーを纏うというよりも、彼の作品を身に着けるという感覚だ。ずっと憧れの作家だったが、金属アレルギーの私にはピアスを身に着けることができず、茶こしを作っていると知って、すぐに自宅に招き入れた。
波打ち際の泡をモチーフに作られた茶こしは、厚さ1ミリのシルバーに大小の細やかな網目が施され、息を呑むほどの美しさ。道具というゴールを目指して作られたものではない、装飾的で精密な仕上げがジュエリー作家ならでは。薄く繊細な茶こしを扱う手の動きは自然と柔らかく女性らしく、立ち居振る舞いを美しく見せる。この茶こしでお茶を淹れていると、まるで熟練の茶師になったかのような錯覚を起こし、お茶の時間を豊かにしてくれる。
自身の弟子の店にしか作品を置いていなかったテッドだが、その後、念願叶って、白金高輪のヤエカ ホーム ストアに卸してもらえることになった。テッドの部屋を作り、ジュエリーからテーブルウェアまで、さまざまな彼の作品を紹介している。
私が惹かれるのは、どんなに手が込んでいても、緻密な構成でも、シンプルに仕上がっているもの。テッドの茶こしも、装飾的ながらミニマルな佇まいだ。シンプルというのは最も難しく、より美しく作らなければならない。そして、そこに何かしら強い真髄を秘めているならば、その手仕事をさらに輝かせると思う。シンプルにこそ、美しさが表れる。
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05
小島聖
(女優)
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小山剛の木のうつわ
photography: Yayoi Arimoto
7年前、西麻布のギャラリー、アールにて、小山剛さんの個展で購入した木のうつわ。小山さんを知ったきっかけは、知り合いが作品を持っているのを見かけたこと。それから、ゆっくりと見てみたいとずっと思っていた。
私は、気になるものは必ず見に行って、手に取って触ってみる。見た目や素材で選ぶのではなく、手に取って、欲しいと思うかどうか、その感覚で決める。この木のうつわは、軽くて柔らかな丸み。木の質感を残しながらも、肌になじむ感じが好きだった。手に持つと、卵みたいにすっぽりと収まる。蓋をしていると、つるんとした陶器のようにも見える。お菓子を入れておくのもいいなと思いながら、鍵入れとして、玄関先に置いておくことにした。いまも、毎日必ず、このうつわに触れている。
作家ものと同時に、家に並ぶのは、カヤックで訪れたアラスカの民族のバスケットや秋田の伝統工芸品など、脈々と受け継がれてきた素朴な手仕事のもの。触った時に手になじむこと、そして自然の気配がすること。そんな素朴な手仕事に、強く惹かれてしまうのかもしれない。
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06
在本彌生
(フォトグラファー)
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ベトナムの刺繍ランチョンマット
photography & text: Yayoi Arimoto
ひと昔以上前、ベトナムのホーチミンシティで買い求めたランチョンマットは、手刺繍のクロスステッチでカトラリーが描かれている。モチーフのキッチュさや綺麗な色使いに心掴まれた。
絵柄の可愛らしさに相反し、刺繍が巧みなところもニクいのだ。何度も何度も、使って洗って、リネンがくたっとなった頃には、本当に自分のもとで育ったと感じるだろう。いまのところ、まだそこまでにはいたっていない。
この刺繍を刺したのは、どんな人だったのだろう。ふと、そんなことを考える。家族の世話や家事の合間に、部屋の隅っこの小さな椅子に腰掛けて刺繍をする女性が思い浮かんだ。絵柄が可愛いだとか、キッチュだとか、そんなことよりも、正確に美しくこの仕事を仕上げることに集中していたことだろう。
私がそれを買い求めたことも、彼女には関心のあることではないのだろうが、私は、彼女がこの布と糸と針に関わった人生の一時を手に入れたということ。もっとたくさん使って愛でて育てよう。
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フィガロジャポン2022年7月号(5月19日発売)
ART DE VIVRE
美しい手仕事。
¥880 CCCメディアハウス刊
いいものに囲まれて日々を暮らすことは心地いい。いいものとはどういうものなのかをきちんと学ぶのも、美しく生きるために大切なこと。パリの老舗メゾンが紡ぐ手仕事の技が息づく逸品が生まれる場所を訪れたり、英国王室が愛用する品々の歴史を探求したり。サステイナブルな要素を含みながら、アートオブジェのような個性を纏ったインテリアや、暮らしの中で、実用的でありつつも美しく、長く使える生活道具を見直すこと。私たちの周りには、美しい手仕事があふれている。いま一度、そんな営みから生まれた物語と触れ合う機会を。
*「フィガロジャポン」2022年7月号より抜粋。