大人になった息子と母親の適切な距離感とは?

Lifestyle 2024.03.02

人生で最初に接する女性であろう「母親」ーー大人になった息子は、母親との絆をどのように定義すればよいのだろう? ポスト「#MeToo」の時代、大人になった息子と母親との関係を定義することは、互いが自分の居場所を見つけるためのバランスゲームのようなものだ。息子と母親との関係について、フランスの「マダム・フィガロ」がさまざまな人にインタビューした。

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大人になった息子は母親との絆をどのように保つ? photography: Oliver Rossi / Getty Images

2024年2月までパリのアートセンター、ル・バルで開催されていた展覧会「À partir d'elle. Des artistes et leur mère(母からの旅立ち。アーティストたちとその母親)」。作家エルヴェ・ギベールの文章、映画監督ピエール・パオロ・パゾリーニの詩、エッセイスト、ポール・グレアムの写真、アーティスト、アンリ・サラの映像、ボディアートで有名なミシェル・ジュルニアックが母親に扮(ふん)し、母を抱きしめる写真など、1960年代から現代までの約20名のアーティストたちの作品を紹介した。

母親を共通のテーマとしたこれらの作品は、哲学者ロラン・バルトの言葉のもとに集められた。もともと私事についてあまり語らなかったバルトだが、母の死の翌年の1978年、「母親に関する本を書かない限り、私はずっと辛いだろう」と綴っている(『ロラン・バルト 喪の日記』(2009年に死後出版))。そして1979年の春、母を喪失した悲しみを直接的に語った『明るい部屋: 写真についての覚書』を執筆した。この著書をきっかけに、知識人たちは母親について語るようになった。

母親との絆について、ロマン・ガリは、フランス文学で最も有名な一節を書いた:「母親の愛により、人生は夜明けに決して守られることのない約束をする」(『夜明けの約束』、1960年)。

成人した息子にとってさえ、母親は依然として疑問の対象のようだ。今回の展覧会のキュレーター、ジュリー・エローは「私たちがよく知っていると思っている母親はいまだに謎。意識的、意図的な解明を必要とするイメージではないでしょうか?」と問いかける。母親の物語は、歴史の中でどのように受け継がれているのだろうか? 我々は本当に母親を理解しているのだろうか? そして、母と息子の関係が良い場合にのみ、彼女を理解することができるのだろうか?

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母親の影響力

劇作家のワジディ・ムアワッドは、独自の方法で母親というテーマを取り上げている。ムアワッドは昨年秋『Mère(原題)』(Actes Sud刊)を出版。2021年パリのコリーヌ劇場で初演されたこの戯曲で、彼は母を主人公にし、母の目線を通して彼の人生を変えたレバノン内戦中の亡命生活を回想する。「母は架け橋だ。母との対話がなければ、その橋を渡ることはできない。もし対話がなければ、我々は親の岸に留まったまま。しかし対話の後、初めて橋を渡り、向こう岸の友達や愛、そして残りの人生と出会うのだ。死後、母は対話のきっかけとなった」。当時19歳だった彼は、母の死後、二度と泣かなくなったという。

ジャーナリストのクロード・アスコロビッチと、彼がインタビュー中「エブリン」としか呼ばなかった彼の母とを結びつけたのは別の戦争だった。彼の母親は4歳の時、オランダからドイツのベルゲン・ベルゼン強制収容所に強制送還された。

60歳のジャーナリストのアスコロビッチは、母の人生について交わした会話や書簡をまとめた著書『Se souvenir ensemble(原題)』(Grasset刊)を出版。その中で、母親について理解できたと認めている。母が第二次世界大戦の最後の証人のひとりとして、あらゆる場所で悲劇を語るのを見て、何年もイライラしていたというアスコロビッチは、いまでは「過去への探求が彼女の強さの一部」だと認めている。

ふたりは記憶の欠落部分を埋め、特定の真実を再構築し、ある意味でそれぞれの存在を再配置したのだ。「親はどんな存在なのか? それは、小さな子どもたちに、自分の子ども時代の話をする人たちのこと。それまで母親と息子はそれをシェアしたことはなかった。あるいはあまりきちんと話しをしたことがなかった。こちらから『母さん、もっと話をして』と問いかけるまでは......。私たちが一緒に生活してきた中で、平和な年は1度しかなかった」と彼は綴っている。

しかし、この著書を出版したからといって、彼らのコミュニケーションが根本的に変わることはない。「私はいまでも、性やプライベートなことについては母に話すことはない」と、ジャーナリストは述べている。次の小説のテーマとなっている肉体疲労や年下のパートナーとの関係における年齢差の不安についても、彼が母親に語ることはない。

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ポストMeToo時代の母親像

MeTooをきっかけに、社会は大人になった少年たちに変化を促すようになった。とりわけ女性との関係において変革が求められる現代社会において、彼らは母親からどのようなメッセージを受け取るだろうか? こうした動きは、母親と息子の関係にも変化をもたらしているのだろうか? この関係の変化には、まだ探求すべき難しい領域が存在する。

ヴァレリアンは40歳になって、そして残酷で辛い別れを経て、初めて母親と恋愛について語った。彼の母親は、自身の結婚生活にダメージを与えた不倫について彼に打ち明けた。ある意味、初めての経験だった。「いままで、そんな話をするほど母と親しくはなかった。そして、私は母から私を心配する権利を奪った」とヴァレリアンは振り返る。音楽家レオ・フェレが「時の流れに」で歌ったように、母親が「あまり遅くならないで、風邪をひかないで」と声掛けする時期が終わった後、母と息子の間に何が残るのだろうか?

ファッションビジネスを経営するヴィクトワールは、25歳と26歳の息子たちに、「幸せでない」と感じたらいつでも夫と別れ、経済的に独立し、キャリアを築き、そして良い母親であり続けることができることを示してきた。しかし、特定のトピックについては、息子たちが母親のもとに来るのを待つことにしている。というのも、話をすることが逆効果になるのではないかと心配しているからだ。

「MeTooは彼らに非常に強い影響を与えました。彼らはいろいろなものを読み、追いかけ、ある時私にその話題を切り出しました」とヴィクトワールは語る。社会的な出来事は母親の言葉よりも強い影響を持つ。しかしそれでも、少し時間を置いてから、母親と語り合うことは意味があると考えている。

「母はまるでひとりの女性のように語ってくれた」とヴィクトワールの息子のひとり、クレマンは説明する。「母は私に必ずしも不愉快で非道ではない浮気や誘惑の形も存在し得る、と言ったんです。怖がることはないと。彼女の価値観を誰よりも知っているぼくは、その言葉を聞いて少しホッとしました」

母親と息子の適切な距離とは? どんなふうに付き合えば良いのか? 

母親と成人した息子の関係においては、生活の変化に伴う波や感情のムラを受け入れることが重要だ。たとえばニコラは50歳で子どもを授かってから、母親と距離を置くようになった。以前は母親と毎日話していたが、子どもを持つようになると「母から押し付けがましい助言があり、距離をとるようになった」と話す。

ニコラは母親に「あなたがとやかく言うことではない。自分たち夫婦のやり方でやる」と伝えた。同時に、「権威の源としての母親が衰退していくのを目の当たりにしたのです。このことを考えると、とても悲しくなるし、母を抱きしめたくなる。しかし、母にスペースを与えすぎると、彼女はそれを奪い、私たちを困らせて、イライラさせるんです」

当然、母と息子の関係に魔法の公式など存在しないが、母親と息子の関係は、遠すぎず、近すぎず......。バランスを取ることが重要だ。ラッキーなことに、両者には良いリソースがある。芸術、演劇、文学の中にそのヒントを見つけることができる。

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text: Lisa Vignoli (madame.lefigaro.fr) translation: Hanae Yamaguchi

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