「No Means No」。女性が自分を守るために知っておきたい、3つのバウンダリーリストとは?

Lifestyle 2024.11.18

性のありかた(セクシュアリティ)やセックス・ポジティビティに対する理解を深めた前回。次に「境界線」について考えたい。性科学やジェンダーに詳しいジャーナリストの此花わかが、女性が自分を守り、自律した人間として生きていくために必要な3種類の境界線について解説する。

「No Means No(ノーと言えばノー)」と「Yes Means Yes(イエスはイエス)」。

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「No Means No」は性的な誘いに対して、"例え最初に同意をしていても、いつでもその同意を撤回し、Noと拒絶しできる"こと。フェミニズム運動において歴史的に使われてきた言葉だ。ただしこの「No Means No」という概念は、「ノー」と言えない状況にいる人々や「ノー」を言語ではなくボディランゲージを通して伝えている人々を守ることができない、という批判もある。確かに、相手との権力勾配、心理的状況、恐怖など様々な理由で人はノーと言えないときがあるだろう。

こういった背景もあり、近年、性的同意に関する表現は「Yes Means Yes(イエスはイエスを意味する)」というものに変化しつつある。これは「積極的なイエス(同意)」という意味で、気が乗らないイエス・しぶしぶ言うイエス・無理じいされたイエスに「性的同意はない」という意味だ。

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この考え方は、2008年に出版された『Yes Means Yes!』(著:ジャクリーン・フリードマン、ジェシカ・ヴァレンティ)が広め、2017年にはスウェーデンが性行為にはこの「積極的なイエス(同意)」を必要とするという法律を定めた。

日本でも昨年2023年から「不同意性交罪」が行使されているが、日本ではこの「積極的な同意」に基づいた性的同意がきちんと理解されていないように思える。日本の性教育は不十分である上に、そもそも日本社会は上下関係が厳しく、他人に「ノー」と言えない文化があるからだ。

「出る釘は打たれる」「和を以て貴しと為す」などの言葉があるように日本では自己主張よりも、そもそも私たちは大抵のことに「イエス」と言っていないだろうか。

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自分がする・されると嫌なこと=境界線。

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境界線は、「自分の好きなこと・嫌いなこと・限界」を指し、自分と他人を分ける境のこと。英語ではBoundary(バウンダリー)と言い、"個の確立"を大切にする欧米の文化では一般的に浸透している概念。

この境界線を理解するには、まずは「自分がする・されると嫌なこと」「この一線を越えてしまったら自分が自分自身ではなくなってしまうこと」を明確にすることから始まる。そうすることで、自分のイエスも浮き彫りになる。

境界線には、身体的、性的、感情的の3種類がある。自身の境界線を理解し、それを他者が尊重することで、健康的な関係が築かれて自分の人生や体に対する自己決定権が保障される(※)。具体的にどんなものがあるか見てみよう。

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1. 性的境界線

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性的境界線は、個人が性的行為に同意するか、そして性的行為のどこまでが自分の許容範囲であるかを決定する境界線。メディアやAVなどが長年女性に押し付けて来た期待やジェンダーロールに縛られないためにも、女性ははっきりとした性的境界線を確立することが重要。

性的境界線が尊重されないとき、人はストレスやトラウマを抱えてしまう。パートナーとの間でこの境界線についてオープンに話し合い、双方が同意することで、心身ともに満たされた関係が築ける。

まずは自分が性的にされて嫌なことを自問自答してみよう。

1. 同意なしにスキンシップをされるのは苦手?
2. 性的関係をもつときにされると嫌なことは?
3. パートナーが他の人と手をつなぐ、キスをするなどを「浮気」と捉える?
4. 性的な写真や内容を含むメッセ―ジを送られると不快?
5. 性的な話題は苦手?
6. デートの初期段階で性的な関係を求められるのは嫌?
7. パートナーが自分の目の前でAVを見るのは嫌?
8. パートナーが他の人の性的魅力を話すのは嫌?
9. 相手に性的な過去について聞かれるのは嫌?
10. パートナーの過去の性的経験は聞きたくない?

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2. 身体的境界線

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身体的境界線とは、他人が自分の体に触れる範囲や方法を自分で決める権利。これはすでにパートナーシップを築いた親密な関係においても重要であり、互いに尊重し合うことが求められる。たとえば、相手がどれだけ近くに立つことが許されるか、抱きしめられることが快適かどうかなど、さまざまな身体的な境界線がある。

身体的な境界線を守ることは、個人の自己肯定感を高め、ポジティブな自己イメージを保つ要因ともなる 。親密な関係を築く中で自分が快適と感じる身体的な距離を認識し、互いの境界線を守ることで相互信頼が育まれていく。

このような質問を自分にしてみて、身体的境界線を把握しよう。

1. 話しているときに近づきすぎてくると圧迫感を感じる?
2. 肩や背中を急に叩かれるのは不快?
3. お尻や胸など、パーソナルな部分に触れられても大丈夫?
4. 体に触れられるタイミングや場所は、自分で決めたい?
5. 手をつなぎたくなるタイミングはどんなとき?
6. マッサージなどで強く触られるのが苦手?
7. 公共の場でスキンシップを取られると恥ずかしい?
8. 自分の頭や髪の毛を触られるのは苦手?
9. 初対面で体を密接に近づけられるのが嫌?
10. 太った、やせた、こうしたらよい、など自分の外見についてコメントされるのは嫌?

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3. 感情的境界線

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感情的境界線は、感情的に自分が嫌だ、ここまでしか許せないという限界線のこと。親密な関係では、相手と感情をシェアすることが求められるが、自分の境界線を越えてしまうとストレスになってしまう。たとえば、相手の期待に応えようと自分の心を押し殺してしまう経験をしたことがある人は多いだろう。

だからこそ、自分の感情的な境界線を守ることは、我慢せず、"対等な関係"を築くことにもつながる。反対に、感情的な境界線が曖昧になると、共依存をしたり過度な自己犠牲をしたりしてしまい、長期的な関係を築けなくなりがち。

以下のような質問を自分にしてみて、感情的境界線を言語化してみよう。

1. 信頼関係ができてからじゃないと悩み事は話したくない?
2. 相手の愚痴や感情をすべて受け止めるのは疲れる?
3. 自分の考えや意見を否定されると傷つく?
4. 相手が感情的になったり口論になったりすると、まずは距離を置きたくなる?
5. 親しくなる前に深刻な悩みを打ち明けられるのは重く感じる?
6. 恋人が他の人と二人きりで出かけるのは嫌だ?
7. 自分の感情に余裕がないときは他人の相談に乗りたくない?
8. 友人や恋人との関係で「無条件のサポート」を期待されるとプレッシャーを感じる?
9. 意見や感情を共有するのは、信頼できる少数の人とだけにしたい?
10. 恋人の過去の恋愛体験を聞きたくない/聞かれたくない?

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境界線が重なる部分が大きければ大きいほど、相性がよい。

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自分、そして自分を取り巻く人々の境界線を知ることは相性を図るツールにもなる。他人と自分の境界線が重なる部分が大きければ大きいほど、相性がよいということなのだ。婚活やリレーションシップに迷っている人は、表面的な"条件"や"スペック"などよりも、相手と3種類の境界線が重なるかどうかを基準にしてみよう。

もし、「はっきりと嫌ではないが、チャレンジしてもよいかも」と思う曖昧な境界線があり、それに対して相手も「積極的な同意」があれば「2人のチャレンジリスト」に入れてもよいだろう。

覚えておいてほしいのは、3つの境界線は流動的で変わるのが当たり前だということ。昨日イエスだったものを今日ノーと心変わりしても一向に構わない。境界線が変わることもあるのでパートナーとは常にオープンなコミュニケーションをとろう。

次に大切なのは、「これをしてしまうと自分が変わってしまう」「これは嫌だ」という境界線は、家族やパートナーにも越えさせないこと。相手が越えてこようとしたら、「ここを越えてしまうと自分が自分ではなくなるので、私の境界線を尊重してほしい。もちろん私もあたなの境界線を大切にする」と伝えよう。なぜなら、自分自身のノーを大事に守ることで、私たちは初めて相手のノーを尊重することができるから。

自分のノーを明確に言語化することは同時にイエスを知ることにもなる。そして、そのイエスが「しぶしぶ・嫌々のイエス」なら、それは「積極的な同意」ではなく「性的同意」とは言えないことを肝に銘じておこう。

text: Waka Konohana photo: Shutterstock

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