こんにちは、フォトグラファーの吉田パンダです。前回に続いて、シチリアワイン紀行後編。今回も文明の交差点、シチリアを旅しながらワイナリーを訪ねましょう。シチリアというと海のイメージが強いかも知れませんが、山がちで起伏の激しい内陸部をドライブするのが実は楽しかったりします。写真は山間部にある人口1100人ほどの小さな村、Novara di Sicilia。昼食休憩に立ち寄ってみました。
街角に飾られていたレッド・ゼラニウム号←勝手に名付けた。
通りを歩いていると、葉巻を咥えたおじいさんがちょっと来いと手招きします。おとなしくついて行ってみると、どうやらチーズを買っていけということらしく(言葉が通じない)、買うとも何とも言っていないのに包み始めるシニョーレ。えー、まだ旅の途中なのに、結局1.3kgのカチョカバッロを買ってしまいました←押し売りに弱い。
ガイドブックに載っていないような、町や村を歩くのが好きです。『検索より探索』というコピーが以前ありましたが、何かを確認するのではなく、未知の中に身を置いてみたくなります。
『旅』の語源には諸説ありますが、旅=他日で『他の日を生きる』、つまり『別の人生を生きる』という説が自分はけっこう気に入っています。何もかも調べて、予定通りに名所を巡るのは『別の人生を生きている感』がないんですね。時には予約した星付きレストランよりも、あてもなく入ったカフェで食べる豚チーズサンドイッチが激旨だったりするほうが楽しかったりしますよね、ね? ああ、もう今回はワインじゃなくて、ビールでいいか←それはダメです。
今度はゆっくりご飯食べに来ます!
広場のカフェはこちら。
Macelleria Antonella
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さて、今回のシチリアワインもヴィットーリア地域から。ひとつ目のワイナリーはCasa Grazia。ブランドカラーが、シチリアの海をそのまま映したような青です。
寝転んでいたシェパードはお母さんで、何匹か仔犬たちがワイナリーの廻りを歩いていました。ここはいいところに違いない←おい、ワインどうした。
名前を聞いたら、まだ名無しくんだそうです。
犬を撮っている間に試飲が始まってました。すいません、すいません。
ひと目見て印象的だったのがボトルデザイン。神話、民話をモチーフにしたラベルがどれも綺麗なんです。
ワインのデータを書いたカードもこの通り。持って帰って額に入れたら良いかも、と思えるほど。
ワインはシチリアの固有品種以外にも、いわゆる国際品種にも力を入れています。シラー、カベルネ・ソーヴィニョンなど。どのワインも完成度が高く、たとえて言うならスペックの高いイケメン←は?。感じが良くて、何でもソツなくこなして高身長、仕事もできるし着こなしにも清潔感がある。フレッシュで爽やかなドライモスカート、フルーティな笑顔あふれるフラッパート、フレンチオークで香り付けしたシラーは、まるで品の良い香水を身にまとっているかのよう。誰かの家でホームパーティがあってシチリアワインを買っていくなら、どれを選んでもきっと皆に喜ばれるワインです。ちなみに前回からの個人的推し品種、フラッパート100%ワインのネーミングは「LAETITYA」ラテン語のレティシアから取られていて、意味は「魂の喜び」だそう。やっぱりね。
「ワインは自分たちの子どものような存在よ」と語る、オーナーのマリア・グラッツィア。あ、イケメンのお母様ですね、初めまして。
そして、取材が終わったらチームの女性にだけ花束が用意されているという気配り心配り。なんていうイケメンでしょう! あれ、でもあたしにはないのかしら!?
Casa Grazia
https://casagrazia.com/en/
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さて、次のワイナリーに移動する道すがら、羊の群れに遭遇。シチリアあるあるな一場面。
プールの水面が夕暮れ色に染まる頃、羊の群れを乗り越えて到着しました。最後にご紹介するのは、ワイナリー兼ホテルでもあるFeudi del Pisciotto。
公式webサイトのトップ動画を見ていただければわかりますが(←頼った)、葡萄畑に囲まれた小高い丘の上にある18世紀の古いファームをリノベーションした素敵ホテルです。
撮影でここに来るのは二度目なのですが、犬猫も泊まれるこの天国にいつかプライベートで来てみたいと思っています。
朝食テラスでは黒猫に遭遇。コニチハ。
宿泊したのは新しく改装された棟で、簡易的に壁で仕切られた大きなスタジオタイプ。ベッドサイドにはジャグジー付きのバスもございます。
こちらは試飲の準備をする、醸造責任者のマルコ・パリジ。いや、もうロケーションがすごいから。
「マダム、グラスの中にはシチリアの夕焼けを注ぎました」なんて言われたら、飲む前から満点です←誰がマダムじゃ。
そしてワイナリーにはレストランも併設していて、ここもまたお洒落なんです(語彙)。
落ち着いた内装の店内。
小高い丘、降り注ぐ地中海の陽光、松林に囲まれた夕暮れのプールサイド、18世紀の石造りの館、ジャグジーのある落ち着いた部屋、繊細な料理、、と単語を並べるだけで、ここで造られるワインがどんなものかお分かりいただけるかと思います。そうです、『大人』です←いや、全然わかりません。つまり、初夏の夕暮れに似合うリラックスを誘うシャルドネ、絹のような口当たりの上にスミレや赤い果実の香りが広がって、18世紀の余韻の中にわずかな苦味が残るチェラスオーロ・ディ・ヴィットリア、というように。
バレンティノなど、さまざまな有名デザイナーとコラボしたラベルでも知られるFeudi del Pisciotto。写真のチェラスオーロ・ディ・ヴィットリアとフラッパートには、どちらも軽く樽が効かせてあり味わいのスパイスになっています。
Feudi del Pisciotto
https://www.feudidelpisciotto.it/
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さて、ここまで長々とシチリアワイン紀行にお付き合いいただきありがとうございました。自分にとってシチリアの魅力をひとことで言うなら、それは『郷愁』です。さまざまな文化が交差していった足跡がそう思わせるのか、アフリカから吹き渡る熱をもった南風にさらされるからか、黄色い花に覆われて緑の大地に点在する廃墟のせいか、はっきりはわかりませんが、「全てのものが還る場所」というイメージをいつもこの場所に感じていて、グラスの中にも同じものを探しています。そういえば、画家のサルバドール・ダリもこう言っていました。『誰であれ味わうということを知るものは、もはやワインを飲まずに"グラスの中の秘密"を味わっているのだ』、皆さんはグラスの中に何を見つけるのでしょうか。シチリアワインの秘密、ぜひ味わってみてください。
取材協力: Assovini Sicilia
写真家。長年住んだパリを離れ、現在フランスはノルマンディー地方にて、犬猫ハリネズミと暮らしている。庭づくりは挫折中。木漏れ日とワインが好きで夢想家、趣味はピアノ。著書に『いぬパリ』(CCCメディアハウス刊)がある。instagramは@taisukeyoshida