マッシのアモーレ♡イタリアワイン 単なる食前酒ではない⁉︎ イタリア人に欠かせない「アペリティーヴォ」とは。

Gourmet 2024.09.03

日々の生活を彩るワインを自分らしく楽しむフィガロワインクラブ。 イタリア人ライター/エッセイストのマッシが、イタリア人とワインや食事の切っても切り離せない関係性について教えてくれる連載「マッシのアモーレ♡イタリアワイン」。今回はイタリア人がディナー前に行う「アペリティーヴォ」の文化についてのコラムをお届け!

>>前回:イタリア人はフランス産ワインを飲まない!? 国民に根付く5つの共通認識とは。


「開く」という言葉に由来する、食事前の大事な儀式⁉︎

頑張った1日の終わり、ディナーの時間に近づくと、イタリアでは欠かせない大事な習慣が始まる。仕事の疲れや空腹を感じるその瞬間に、イタリア人を待っているのが「アペリティーヴォ」だ。日本でよく聞く食事前の「とりあえず、ビール」と同じように見えるかもしれないけど、実は深い文化が含まれている。イタリア人にとって、アペリティーヴォは単なる食前酒ではなく、生活の一部であり、人生そのものだ。

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イタリアを代表するカンパリや、シチリアのオレンジを使ったアランチェッロ、カプリ島のレモンを使ったリモンチェッロなど地方名産のフルーツを使ったリキュールまで、その土地を代表するリキュールがイタリア中に存在する。

イタリアといえば、世界的に有名なワインの産地として知られているけれど、ビール、リキュール、蒸留酒など、多種多様なアルコール飲料も盛んに造られている。それぞれの地域に独自の飲み方や文化もあって、アルコール好きにとってイタリアは魅力的な国といえるだろう。おそらく、アルコール飲料が苦手な方でも最高に楽しめると思う。

「アペリティーヴォ」という言葉の由来はおもしろくて、知らずに楽しむのはもったいない。アペリティーヴォはラテン語の「開く」を意味する「aperire」に由来する。リキュールは14世紀頃、蒸留技術の向上とともにイタリアで流通し、当初は消化を助け食欲を増進させるための薬用酒として用いられていたようだ。しかし、すぐに夕食前の習慣として広がり、イタリア人のライフスタイルに根付いた。いまやイタリアのアルコール業界では確立したジャンルとして認識されていることを考えると、「アペリティーヴォはイタリア人そのものを表す文化」といっても過言ではないんだ!

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イタリア人の情熱や人生が詰め込まれた、「日々を癒やす瞬間」。

なぜ、人々はこんなにアペリティーヴォを愛するんだろう? 僕も含めてイタリア人は、アペリティーヴォをこよなく愛している。この愛が、どうやらイタリアを訪れる観光客にも伝わってきているらしい。イタリアのメディアの調査によると、なんと海外からの観光客の7割がアペリティーヴォを「地元の特産品を味わい、街や村の魅力的な場所を訪れる絶好の機会」だと思っている結果が出ているようだ。

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アペリティーヴォでは軽食とともに、リキュールやスパークリングワインなどを楽しむ。

アペリティーヴォは、地域特有の質の高い食材を使った料理を、おいしいお酒とともに楽しむだけではない。屋外で家族や友人、その場にいる人々と会話を楽しみながら、歴史的建造物が建つ街並みや、空気の香り、聞こえる自然のBGMを心から堪能できる。そしていちばん大事なのは、日常のストレスを忘れられること。アペリティーヴォの空間そのものが、日々の疲れを癒やすものであり、イタリア人としての情熱や人生が詰め込まれているものなんだ! この魅力に、イタリア人だけではなく、世界中の人が虜になっているんだね。

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アペリティーヴォは、女性を大切にする文化から始まった?

ところで、いくらイタリア人がおいしい物好きとはいえ、夕食の前になぜアペリティーヴォで軽食を食べるのか気にならない? 実は、僕の故郷であるトリノのピエモンテでこの習慣が始まったんだ。

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ピエモンテで撮影した、アペリティーヴォにピッタリなサラミやパンを販売している屋台。
 

ピエモンテでアペリティーヴォのときに軽食が提供されるようになったのは、女性への配慮が大きな理由のひとつと考えられている。当時、女性が空腹状態でアルコールを飲むことは、健康面や社会的観点から好ましくないと考えられていた。そのため、軽食を用意することで、女性も安心してアルコールを楽しめるように工夫したんだ。ここからイタリア全国に広がったという。女性を大切にする文化が根付いているイタリア人ならではのきっかけだね!

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アペリティーヴォとは、日常から少し離れた「特別なひととき」のこと。

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イタリアで撮影したアペリティーヴォの一例。太陽が最後のきらめきを見せる中、軽食とともに楽しい時間が始まる。
 

どんなに疲れていても、どんなことがあっても、イタリア人がアペリティーヴォを諦めないのは、その背後に人生や文化と深く結びついた多くの魅力があるからだ。生活のリズムとして、アペリティーヴォは1日の終わりを告げ、そして、自分らしさを無限に発揮できる時間になる。リラックスして、社会的な立場や関係性がフラットになり、会話がより楽しくなるだけでなく、食欲が増して夕食への期待も高まる。ただ友だちや家族とお酒を飲み、おつまみを楽しむだけではなく、日常から少し離れ、特別なひとときを作り出すんだ! 普段の生活からかけ離れた高級感ではなく、自分にとっての特別感があふれる場を作る。そこに入れば生きている大切さ、人生の短さ、相手の大切さが目で見えてくるよ。こうして、楽しい時間の中で高まるテンションが、イタリア人にとって明日へのエネルギーを与えてくれるんだ。

イタリアのアペリティーヴォ2.JPG
凝った料理でなく、オリーブやポテトチップス、ポップコーンなども定番!

「それって、イタリア人はただワイワイするのが好きなだけじゃん!」と思っている方へ。それは正解だ(笑)。ただ、それだけじゃないことも分かっておいてほしい。イタリアで行った調査によると、イタリア人の大半(61%)は、アペリティーヴォを「新しい人との出会いや、重要な情報交換、そして人生の大きな決断を下すための大切な時間」として有効活用している。中には、アペリティーヴォがきっかけで恋に落ちたり、仕事が決まったりする人もいるほど、イタリア人の生活に深く根付いているんだ。 

イタリア人としていつも感じているのは、アペリティーヴォは人生の中でいちばん効果的な教科書のようになっていること! 子どもの頃から大人たちがお酒の場で楽しむ姿、泣き笑い踊りながら人生の貴重な1ページを作っていることを、体験しながら学んできた。イタリアだけではなく、日本でも再現して、ぜひ大切な仲間と好きなカクテルを飲みながら新しい空間、そして新しい自分を作っていこう!

マッシ:1983年、イタリア・ピエモンテ生まれ。トリノ大学大学院文学部日本語学科修士課程修了。2007年に日本へ渡り、日本在住17年。現在は石川県金沢市に暮らす。著書に『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(2022年、KADOKAWA 刊)
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