ソウルバンド「WONK」のボーカルであり、また料理人としても活動する長塚健斗。清住白河にあるナチュラルワイン専門のワインバー「WINESTAND TEO」のオーナーとしての顔をもつ彼が、料理とワインのペアリング、そして日本の食について考える新連載、長塚健斗の「やっぱ酸なんだよな〜」。
シェフ、ソムリエ、ワインジャーナリストがどのようにワインと食事のペアリングを考えているのか? フィガロワインクラブ副部長のカナイを聞き手に、その雰囲気をお伝えしていきます。
編集カナイ 1993年、横浜出身。フィガロデジタル編集部グルメ担当、「ワインクラブ副部長」(自称)。2023年、J.S.A.認定ワインエキスパートを取得。大学時代、元週刊プレイボーイ編集長で現在はエッセイスト&バーマンの島地勝彦氏の「書生」としてカバン持ちを経験、グルメの洗礼を浴びる。和牛を扱う飲食店に就職した後、いろいろあって編集部バイトから編集者に。周囲からは「どう考えても長塚さんより年上にしか見えない」と評判。
長塚 さて、本日はワインスタンド TEOからお送りしてます。「ワインと食材について、改めて考える」をテーマにした連載にしたいな、と思ってます。
カナイ 長塚さんと知り合ったの、3年くらい前ですかね。連載「Musick Sketch」の担当をやっているのでWONKのことは知っていたんですが、まさか最初に会うのがインタビュー現場じゃなく、インポーター主催の試飲会だとは思いませんでした(笑)。
長塚 僕も「なんで雑誌の人がこんな飲食店向けの試飲会来てるんだろ」と思ってました(笑)。その後、お店に来てもらったり、ディナーの席でご一緒したり、レシピの記事を書かせてもらったりして。先日、西荻窪の自然派ワインを扱うビストロ、オルガンで一緒にディナーした時に、料理とワインのペアリングを楽しみながら、ふたりで「やっぱ酸なんだよな〜」と声が揃ったことで今回の連載を、と。
カナイ 世界にはいろいろな料理がありますけど、世界中で食中酒として飲まれているのがビールとワイン。ビールは苦味と爽やかさ、そして炭酸の爽快さで料理を進めますけど、ワインは酸味によって口を引き締め、タンニンが脂を流してくれることで食事を進めてくれる。
長塚 シェフやソムリエが、どんな基準でワインを選んでいるのか、それがわかると自宅や飲食店でのワインのセレクトにも役立つんじゃないかと思ったんです。
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カナイ というわけで、今回は夏に向けて酸味の強い白ワイン、「ふたりとも好きな産地」を、ということでチョイスしました。フランス、ロワール川流域のサンセール。川沿いに粘土質、白亜の石灰岩(キンメリジャン)、火打ち石(シレックス)という土壌が複雑に重なりあう土地柄で、ソーヴィニヨン・ブランの銘醸地として知られています。今回の生産者はセバスチャン・リフォー。自然派ワインの愛好家でも特に人気なイメージがありますね。
長塚 今回合わせてみたいのは、僕がレシピを考案したTEO定番のレモンパウンドケーキ。ソーヴィニヨン・ブランの酸味と柑橘系の味わい、そしてハーブの香りにレモンケーキが合うんじゃないか、と思いました。早速キュヴェ「アクメニネ 2013」をグラスに注いでみましょう。香りはハチミツ系。色調はゴールド系。
カナイ 香りの時点でかなり複雑性が出てますね。紅茶のニュアンスとかも......。
長塚 (ひと口飲んで)うん、やっぱり複雑! 情報量が多いワインです。皮の渋みとかもニュアンスがあるし、余韻も長い。
カナイ 余韻の奥に薫香も。サンセールという産地、ソーヴィニヨン・ブランという品種の特性である爽やか、爽快と言う期待をいい意味で裏切りますね(笑)。レモンパウンドケーキ、いただきます。......おや、合わない、とまではいかないんですが、思ったよりレモンの苦味がしっかりと立ちますね。資料を見て納得です、貴腐ブドウ(※)を30%使用。
※貴腐ブドウ......貴腐菌(ボトリシス・シネレア)が付着したことによって実が縮み、甘みが凝縮されたブドウのこと。
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長塚 うん、ベストマッチではなさそう。レモンパウンドケーキだったら......(冷蔵庫からワインを探す)昨日までグラス用に開けてたんですけど、こっちですかね。最近、気に入ってかなり仕入れました。
カナイ 南オーストラリアのリースリングですね。(ひと口)ライム、レモンの香りもあって、引き締まった酸味がレモンケーキに合いますね。
長塚 (ひと口)うん、間違いないですね。うーん、フレッシュ系の方が焼き菓子に合うのか......。ペアリングはやっぱり実践してみないとわからないことが多いですね。
カナイ セバスチャン・リフォーの方は貴腐ブドウを使ってるということで、昔、「貴腐ワインと牡蠣」というのが合うと聞いたこともあるのですが。
長塚 あ、スモークの牡蠣ならありますよ。サンセールの火打石の感じに合うかもしれないですね。(牡蠣のオイル漬けを取り出す)......うーん、やっぱ違うかな。フレッシュな牡蠣だと合うかもしれないですね。
カナイ うーん、ちょっと燻製の感じが違うかもですね。ワインの香りの方向性が、レモンというよりオレンジとか、金柑とか、ちょっと肉厚な柑橘のニュアンスというか。あ、そうだ、長塚さんにお土産あるんでした。(保冷バッグから取り出す)はい、これパリ出張に行った同僚からもらったトリュフバターです。

長塚 お、ありがとうございます!......んー、開けただけでトリュフ香りますね。ちょっとバゲットあっためましょうか。(トースターでバゲットを炙る)はい、どうぞ。
カナイ ああ、キノコの香りいいですね......。塩味のバランスも含め、これ単体でセバスチャン・リフォー、いけますね。
長塚 (バターを眺めつつ)! パスタいいかもしれない。カーチョ・エ・ペペ、どうですか?
カナイ トリュフ風味! 最高ですね。ぜひぜひ。
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カナイ (カウンターでグラスを傾けながら)そもそもなんですけど、長塚さん、なんでシェフになろうと思ったんですか?
長塚 (キッチンでパスタを茹でながら)子どもの頃から、台所に立つの好きだったんですよね。最初は母親と一緒に、みたいな感じで。で、カナイさん世代近いからわかると思うんですけど、ちょうどその頃から漫画の『ONE PIECE』が始まるんですよ。そしたらシェフのサンジにめちゃくちゃ憧れちゃって......(笑)。紳士的で、料理ができて、しかも強くて、めちゃくちゃカッコいいな、と思っちゃって。料理の道に行きたくて、父親とも喧嘩して(笑)。同時に子どもの頃、バイオリンもやってたので音楽も好きで。高校の頃からバンド組んでて、こっちにもとてつもなくハマりこんで。
カナイ 修行としては、フレンチビストロで?
長塚 料理を習った人が、有名フレンチレストランで料理長や副料理長の経験があった方で。その方にクラシックを叩き込まれたんですよ。なんやかんやで大学卒業後に都内でビストロの立ち上げに参加して、料理長としてお店に入りました。その頃、「オルガン」の紺野真シェフのペアリングに出会って、自然派ワインのおもしろさを見つけて。WONKのメンバーと出会って、バンドとして伝えたいことも大きくなったんですけど、同時に食が伝えられる感動を大事にしたいって思いはずっとあって。それがいま、キッチンに立ち続けてる理由ですね。(フライパンでパスタを和えて)......はい、できました!
カナイ 「カーチョ=チーズ」と「ペぺ=胡椒」、ローマ発祥のシンプルだけど奥深いパスタですね。
長塚 本当はレモン汁をちょっと使いたかったんですけど、いま店のやつを切らしてて(笑)。どうぞ。
カナイ トリュフバター、しっかり香りますね。うん、ボリューム感があって、スパイス感もいい。
長塚 (グラスをひと口)あ、これだ! めちゃ合う。
カナイ マジっすか、どれどれ......あ、本当だ! ちょっとオイリーなパスタにこのワインのボリューム感が負けてなくて、しかも酸味のバランスがめちゃくちゃ取れてる! さっきまでのペアリングにあったような違和感、全くないですね。
長塚 レモン汁を使いたかった酸味の代わりを、ワインが補ってくれてる感じですね。うん、これいいわ。
カナイ なるほど、酸味を補うってことか......。そういえばこの間、シチリアの生産者が来日した時にディナーに行ったんですけど、二次会にご一緒した先で彼が「アーリオ・オーリオ食べようよ」って言ったんです。向こうにも、締めのラーメンならぬ「締めパスタ」の文化があるんだって感動しました(笑)
長塚 アーリオ・オーリオもカーチョ・エ・ペペも、冷蔵庫に残ってる材料で作れるものだから、ホームパーティの時に「締めパスタ」、いいかもしれないですね(笑)
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トリュフ香る、締めのカーチョ・エ・ぺぺ
【材料】2名分
スパゲッティ(1.7mm) 160g
トリュフバター 30g(仕上げ用に+5g)
パルミジャーノ・レッジャーノ(すりおろし) 40g ※ペコリーノ・ロマーノがあればベター
黒胡椒(粗挽き) 小さじ1
パスタの茹で汁 60〜80ml
塩 適量(茹で湯用)
<ガーリックオイル用>
ニンニク(潰すor薄くスライス) 1片
オリーブオイル 大さじ2
【作り方】
1.ガーリックオイルを作る
小鍋か小さめのフライパンにオリーブオイルと潰したニンニクを入れ、弱火でじっくり香りを移す(焦がさないように)。
香りが立ったら火を止め、ニンニクは取り除いておく。→あとで大さじ1程度使用。
2.パスタを茹でる
塩分1%の湯でスパゲッティを表示より1分短く茹でる。
3.黒胡椒を炒る
フライパンで黒胡椒を軽く乾煎りして香りを立たせ、茹で汁60mlほどを加えて火を止める。
4.チーズ&トリュフバターを乳化
火を止めたまま、すりおろしたパルミジャーノ・レッジャーノとトリュフバター20gを加える。
トングや泡立て器で、チーズが完全に溶け乳化するよう混ぜる。必要に応じて茹で汁を追加。
5.パスタとガーリックオイルを和える
茹で上がったパスタをフライパンに加えて和えながら、ガーリックオイル大さじ1を回しかける。
全体をなじませ、最後に残りのトリュフバター10gを加えてコクと香りをプラス。
6.仕上げ
皿に盛り、追い黒胡椒・追いパルミジャーノをかけて完成。
【ポイント】
香りをより立たせたい場合は数滴のトリュフオイル or トリュフ塩を加えても◎
WINESTAND TEO
ナチュラルワイン専門ショップ&バー
東京都江東区常盤1-4-9
(清澄白河駅 徒歩8分/ 森下駅 徒歩9分)
営)17:00〜01:30 L.O.(金)
15:00〜01:30 L.O.(土・祝前日)
15:00〜22:30 L.O.(日、祝)
休)月〜木、祝後日 ほか不定休あり
※年末年始、大型連休は営業時間変更となる場合がございます。
店舗公式Instagram(@winestandteo)をご確認ください。
※予約(貸切除く)・DM・現金支払いは受け付けておりません。
※貸切のお問い合わせはメールにて
Instagram

1990年東京都生まれ。4人組ソウルバンド「WONK」のボーカリスト。料理人としての一面も持ち、大学在学中よりイタリアンやフレンチの有名店出身のシェフの下で本格的に修行を開始、都内ビストロの立ち上げに料理長として携わる。現在も商品開発やイベントを開催し、CHEF-1グランプリ2023にも出場。所属レーベルEPISTROPH では「winestand TEO」「Bar phase」2つの飲食店をプロデュース。
instagram: winestand.teo