日々の生活を彩るワインを自分らしく楽しむフィガロワインクラブ。イタリア人ライター/エッセイストのマッシが、イタリア人とワインや食事の切っても切り離せない関係性について教えてくれる連載「マッシのアモーレ♡イタリアワイン」。現在イタリア取材のため、再び一時帰国中のマッシ。暑い夏を乗り切る「ジェラート×ワイン」という耳寄りな現地トレンドをお届け!
今年の夏、新しい美食のトレンドが誕生した。それは、ジェラートとワインの組み合わせだ。このトレンドはヨーロッパの主要都市から始まって、Z世代を中心に人気を集めているよう。コーンやサクサクのグラノーラではなく、ワイングラスに入ったジェラートを楽しむスタイルで、すでに味や見た目、楽しさを融合させたバイラル現象になっている。
酸っぱいレモンのソルベに甘さ控えめのプチビニエ(イタリア版のシュークリーム)。口の中でワインとデザートのそれぞれの冷たさが心地よく混ざり合い、より爽やかな味わいを楽しめる。
ワインとジェラートの組み合わせはロンドンからパリまで、デザートの「新しい楽しみ方」として注目されている。ワインとジェラートと聞いたら立ち上がらずにはいられないイタリア人としては、このトレンドが神様レベルの感動だと言っても過言ではない。
とはいえ、このペアリング自体は実は新しい組み合わせではない。デザートワインとジェラートの組み合わせは、洗練されたソムリエやパティシエの間ではすでに知られていた。たとえば、バニラクリームにソーテルヌを合わせたり、ヘーゼルナッツのジェラートにペドロ・ヒメネスのシェリーをアフォガートのようにかけたりといった定番は、高級デザートの世界では確固たる地位を築いている。
甘いものには甘いもの、クリーミーさを打ち消す酸味、そして視覚を刺激する色彩の組み合わせ。ひと口ごとの味わいをワインが引き締め、ハーモニーを生み出したり、計算されたコントラストで驚きを与えたりしていた。
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SNSは「グラスに入ったジェラートとワイン」を定番として広めるきっかけになった。2025年の食のトレンドはTikTokやInstagram、YouTubeなどのソーシャルネットワークから生まれて、遊び心にあふれた、型にはまらない食の形を生み出したのだ。ワインとジェラートをただ合わせるだけでなく、グラスに入ったジェラートに直接ワインを注ぎ混ぜる。
マッシが味わったズグロッピーノ。ソルベット・アル・リモーネ(レモンのソルベ)を添えて!
これは、ヴェネツィアの「Sgroppino(ズグロッピーノ......ソルベット・アル・リモーネをベースにプロセッコやウォッカを加えたイタリアのヴェネツィア発祥のアルコール混合飲料)」を大人向けにアレンジしたようなフロート。
・ロゼとストロベリージェラートは、フルーティーな軽やかさを好む人には「ミルクシェイク」のようになる。
・マルベックをバニラジェラートにかけると、ベリーの香りがするクリーミーなデザートに変わる。
・レモンシャーベットがプロセッコの泡と出会うと、イタリアの伝統がグルメな形で再解釈される。
ジェラートが溶けることで食感が変化して、口の中でワインが進化して、ひと口ごとに新しい物語が語られる。まるで、味わいの小さな旅をしている気分だ。
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この組み合わせがこれほどまでにうまくいくのはなぜだろうか? 実は、ジェラートとワインのハーモニーには技術的な理由がある。
・ジェラートの脂肪分が赤ワインのタンニンの影響を和らげ、よりまろやかで親しみやすい味わいになる。
・ジェラートの冷たさがアルコールの認識を抑制し、フルーティーな香りとアロマを引き出す。
・さらに、ひと口ごとに口の中がリセットされるようで、これまで感じられなかった新しいニュアンスを受け入れる準備ができる。
確立された組み合わせと大胆な挑戦で、いくつかの組み合わせはすでに定番化されている。「ロゼと赤いフルーツのジェラート」、「モスカート・ダスティとレモンシャーベット」、「ルビーポートワインとチョコレートとピーナッツバターのジェラート」などだ。
グラスの底のフルーツの鮮やかな赤とクランブルのザクザクした食感、上に乗ったジェラートの濃厚な甘さがとてもマッチしている。白ワインと一緒に食べるとフルーツの酸味や甘さをより感じられる。
そして、より大胆な組み合わせもある。「ゲヴュルツトラミネールとジンジャージェラート」と「セミドライリースリングと抹茶グリーンティージェラート」だ。これらはスパイスとフレッシュさのバランスが魅力的。ランブルスコはその爽やかな泡立ちで、ダークチョコレートの甘美さを包み込む。カナダのアイスワインは、塩キャラメルジェラートの完璧な相棒になる。
杏仁のリキュール「アマレット」とみかんを合わせたジェラート。
皆さんも、ファションのように食のブームを楽しまない? その時の楽しさやおいしさを自分や親しい人と分かち合うのも、このトレンドの魅力のひとつ。この夏は、「ジェラートとワイン」で決まりだ。
1983年、イタリア・ピエモンテ生まれ。トリノ大学大学院文学部日本語学科修士課程修了。2007年に日本へ渡り、日本在住17年。現在は石川県金沢市に暮らす。著書に『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(2022年、KADOKAWA 刊)
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