ポーランド×大阪、スターシェフによる一夜限りのディナー体験記。
Gourmet 2025.10.14
万博イヤーとなった2025年。さまざまな国の文化を楽しく、気軽に体験できる絶好の機会。中欧に位置するポーランドもまた、パビリオンを出展した国のひとつ。偉大なる音楽家を生み出した国だけあり、パビリオン内のコンサートルームでは度々ショパンのピアノ曲を演奏するリサイタルが行われた。
文化、芸術ともに豊かなポーランド、実はグルメシーンでも脚光を浴びている。そのことを感じさせるワルシャワのレストラン、Nolita(ノリータ)のヤツェク・グロホヴィナが大阪・関西万博に合わせて来日。高田裕介シェフ率いる大阪のラシームと、一夜限りのフォーハンズディナーを開催した。
初めて競演したふたりのスターシェフ。左から、ラシームの高田シェフ、ミシュランの星を持つノリータのグロホヴィナシェフ。
9月21日、万博での「ポーランド観光・スポーツウィーク」に合わせフォーハンズディナーが実施されたのは大阪市内にあるラシーム。ラシームといえば、長年ミシュラン2ツ星を持ち続け、「アジアのベストレストラン50」でも8位にランクインする大阪きってのファインダイニング。この日のディナーコースは、ラシームのシグネチャー「ブータンドッグ」からスタートした。
漆黒の球体が美しい「ブーダンドッグ」。さっくりと軽やかな衣を纏った、ブーダンノワールをアレンジしたアミューズブーシュ。
続いて登場したのはグロホヴィナシェフによる前菜「フォアグラ ボンボン」。金箔に覆われたその煌びやかなビジュアルに驚くが、食べてまた驚き。金箔の下にはハチミツの酒、ミードでマリネしたフォアグラが。さらにポーランド生まれのウオッカ、ズブロッカや味噌でアクセントを加えている。
その後、高田シェフによる「トマト&ビーツ タルト」「ボタンエビのマリネ」の2品がテーブルに。むっちり甘やかなボタンエビはかんずりでマリネ。コクのある辛味を口に残したまま、鮮やかなタルトをひと口。スライスしたトマトの下には豆腐と味噌を使ったクリームチーズが潜み、ふんわりとした食感とまろやかさが口中で心地よいクッションのように感じられる。
見た目もキャッチーな「フォアグラ ボンボン」。金箔フォアグラの上には、ポーランドでよく食べられる野イチゴが。ドライにしたキノコをパン粉のようにしてちらして。
高田シェフの前菜「トマト&ビーツ タルト」「ボタンエビのマリネ」。トマトの上に散らされたフレッシュなスターアニスが、オリエンタルな香りをプラス。
---fadeinpager---
その後、フランを高田シェフ流にアレンジした、タマゴダケの出汁といただく黄金イクラとピーナツ、ギンナンの逸品を味わい、再びノリータの料理へ。
メニュー名は「Dumpling」。一見水餃子のようにも見えるが、これはポーランドの郷土料理「ピエロギ」をシェフがアレンジしたもの。薄く伸ばした生地に肉や野菜、チーズを詰め込んで茹でるのが一般的だそう。出汁と一緒に口に運べば、つるんと生地が舌触りよく、キノコの旨味もたっぷり。一緒に提供された肉寿司のような一品は、グロホヴィナシェフお気に入りの日本食材、A5和牛を使ったもので、牛肉の下にはザワークラウト。実はこの酸味のある発酵食品がポーランド料理の鍵。シェフは前菜でも味噌を使うなど、訪れたゲストを驚かせていたが、キャベツやビーツ、キュウリの発酵液を料理に使うことも多いそう。
「Dumpling」として供されたのがこちら。キノコのピエロギ(右)を食べた後、和牛&ザワークラウトの一品(左)を食べると、ザワークラウトの酸味で口中がさっぱり。
---fadeinpager---
続いての料理は、ポーランドの発酵文化をまさしく体現したもの。ライ麦の発酵液を使った国民食、ジュレックスープを華麗にツイスト。燻製ウナギにポーランド産キャビアをのせ、そこにアラ出汁をベースにしたジュレックスープを。初めて食べる料理にもかかわらずどこかホッとするのは、日本も発酵大国だからからかもしれない。漬物に通ずる心地のいい酸味が印象的だ。
ウナギの旨味、キャビアの塩味、ライ麦の発酵液の酸味が合わさる「燻製ウナギのジュレック」。
同じく高田シェフも日本の発酵文化を感じさせるものを提供。発酵のもとである麹に、豆乳、カカオニブのソースを使った、湯葉とゴーヤ、サンマの温かい料理だ。
続く肉料理は、北海道産子羊にニシンを合わせたユニークなひと皿。2品目のメインは、ミルフィーユ状に重ねた鹿肉に、ポルチーニの旨味と香りを凝縮したムースのようなソースとピクルスを添えた肉料理。最後にふたりのシェフ共作というチョコレートスフレでコースを締め括った。
---fadeinpager---
ワインペアリングもユニーク。「ドン ペリニヨン ソサエティ」の一員である高田シェフ。乾杯は「ドン ペリニヨン ヴィンテージ 2015」(左)。フォアグラの前菜に合わせたのは、ノリータで提供されているゲヴュルツトラミネール(左から2番目)。肉料理にはカベルネ・フランで造られたポーランドの赤ワイン(右)も提供された。
キッチンでコミュニケーションをとりながら、お互いの料理を見て、食べてそれぞれ刺激を受けたふたりのトップシェフ。フォーハンズディナーを終え、グロホヴィナシェフは「日本のローカル食材の発見に繋がった」と振り返った。もともと発酵料理が根付いているポーランドだが、自家製味噌を作るなど、日本をはじめ東アジアの発酵カルチャーに精通しているグロホヴィナシェフにとって、今回の滞在はより刺激になったようだ。高田シェフは彼の料理に初めて出合い、ポーランドの発酵文化、酸味の取り入れ方を知り、体感できたと話す。
コラボディナーを通してポーランドのいまがわかる特別な時間。美食をデスティネーションに、ポーランドを訪れる旅人は今後増えていくに違いない。