ソウルバンド「WONK」のボーカルであり、料理人としても活動する長塚健斗。東京・清澄白河にあるナチュラルワインバー「WINESTAND TEO」のオーナーでもある彼が、ワインの向こうに浮かぶ風景や、その余韻を料理と音楽、そして言葉で描いていく。1本のワインから立ち上る感覚をたどりながら、ひと皿と、それに寄り添う5曲のプレイリストを届けていく連載、長塚健斗の「酔いと余韻」。今月のテーマは、彼自身が関わって造った、ある1本のシードルから。
林檎の味わい深さを突き詰めたシードル
長野県麻績(おみ)村にある林檎農園「石耕園」で、仲間たちと数本の木を所有させてもらっている。それらの木になる秋映(あきばえ)という、夜を含んだような赤の林檎と、同園で育つシナノスイートという、甘くてジューシーな品種の2種類をブレンドして、新潟の「ハッコーショオ(旧ドメーヌショオ)」で仕込んだのが、僕らのシードル「Our Tree 2024」。3月に瓶詰めし、瓶内で5ヶ月。
夏にようやくリリースされた「Our Tree 2024」は、香りは濃密だけど、口当たりは軽やかで甘やか。そしてなにより、芯に一本の苦味が通っている。どんな林檎ジュースでも決して出せない、シードルらしい味わい深さがある。甘すぎず、可愛すぎず、でもしっかりと"秋のはじまり"のような印象がある。
このシードルに合わせた料理が、「豚バラ肉のビール煮込み」。スパイスを効かせた濃厚なビール煮込みの中に、ほんのりとした苦味と脂の旨味。
そこにシードルの柔らかで甘やかな香りと酸がすっと差し込んでくる。合わないはずがない、と分かっていたが、カチっと合わさった気がした。
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林檎の旨味を引き立てる、豚バラ肉のビール煮込み
【材料】約4人分
・豚バラ肉(ブロック)約600〜700g(2〜3cm厚にカット)
・タマネギ 1個(スライス)
・セロリ 1/2本(粗みじん)
・ニンジン 1/2本(粗みじん)
・ニンニク 2片(潰す)
・オリーブオイル 適量(炒め用)
・ビール(ヴァイツェン) 約300ml(肉がひたる量)
・ブイヨン(なければコンソメでも可) 約100ml
・ローリエ 1枚
・タイム 生なら1/2パック(乾燥なら3つまみ)
・ガラムマサラ (INDIAN等のカレー粉でも可) 大さじ3
・黒胡椒(粒または荒挽き) 少々
・塩 適量
・ハチミツ または ブラウンシュガー 仕上げにお好みで
【作り方】
1.下準備
・豚バラに軽く塩をして一晩マリネ(できるとベター)
・大きければ角煮用くらいの大きめにカットして扱いやすくすると良い。
2.焼き付け
・鍋にオイルを熱し、しっかり水分を拭き取った豚バラの表面をしっかり焼き色がつくまで焼く。
・肉を一度取り出し、同じ鍋でニンニク、ニンジン、セロリ、タマネギの順にしっかりと炒めて凝縮させる。
3.煮込み
・野菜の上に焼いた豚バラを戻し、ビールとブイヨンをひたひたに注ぐ。
・ローリエ、タイム、ガラムマサラ、黒胡椒を加え、弱火〜中火で3時間程度煮る。
→ オーブンなら160℃で2時間〜3時間。
4.仕上げ
・肉がトロトロに柔らかくなったら完成。しっかりと浮いた油も取り除いてしまうと苦味とえぐみが取れる。
・煮汁を煮詰めてソースにしてもOK(ハチミツやブラウンシュガーを少し加えるとコクが出る)。
・塩で味を整えてから盛り付け。
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時間と思いが重なって、余韻が生まれる。
林檎って、その甘さや香りだけじゃなくて、皮の渋みや、種のまわりのほんのわずかな苦味もふくめて、そのすべてが重なって、"林檎らしさ"になっている。どれかひとつじゃなくて、全部が林檎の魅力となって、あの独特の色気に繋がっているんだろう。
そして香りや酸味、旨味だけじゃない、その奥に、その年の自然と、手をかけた時間、そして関わった人たちそれぞれの思いが、ぎゅっと凝縮されている。
そんな物語が、このシードルだけじゃなく、あらゆるワインにも、人間にも宿っているんだろうなと思っている。もしこれを読んだあとに、ワインやシードルを口にする機会があれば、ぜひそんなことを思いながら飲んでみてほしい。
これから先、さまざまな造り手のワインが、このシードルが、毎年少しずつ違う表情で、でもちゃんとその芯は変わらないまま、どこかの誰かのグラスに注がれて、どんな風に記憶に残っていくのか。
そんなことを想像するだけで、少しだけワクワクしてくる。甘さも、酸っぱさも、苦さすらも。いつか誰かの時間と交わって、思い出に変わる日がありますように。
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今回のプレイリスト:
WINESTAND TEO
ナチュラルワイン専門ショップ&バー
東京都江東区常盤1-4-9
(清澄白河駅 徒歩8分/ 森下駅 徒歩9分)
営)17:00〜01:30 L.O.(金)
15:00〜01:30 L.O.(土・祝前日)
15:00〜22:30 L.O.(日、祝)
休)月〜木、祝後日 ほか不定休あり
※年末年始、大型連休は営業時間変更となる場合がございます。
店舗公式Instagram(@winestandteo)をご確認ください。
※予約(貸切除く)・DM・現金支払いは受け付けておりません。
※貸切のお問い合わせはメールにて
Instagram

1990年東京都生まれ。4人組ソウルバンド「WONK」のボーカリスト。料理人としての一面も持ち、大学在学中よりイタリアンやフレンチの有名店出身のシェフの下で本格的に修行を開始、都内ビストロの立ち上げに料理長として携わる。現在も商品開発やイベントを開催し、CHEF-1グランプリ2023にも出場。所属レーベルEPISTROPH では「winestand TEO」「Bar phase」2つの飲食店をプロデュース。
instagram: winestand.teo