Kawatsura Japan vol.3 未来を照らす、川連漆器のフロアライト。

Interiors 2022.05.02

PROMOTION

秋田県湯沢市で800年の歴史を持つ伝統工芸・川連漆器と、世界を股にかけ活躍するデザインエンジニア・吉本英樹さんによる、挑戦的なプロダクトが誕生した。漆の艶めく美しさと、モダンなデザインとが融合したフロアライト「ARC」だ。

漆が持つ可能性を見つめ、これまでも前例のないクリエイションに挑戦してきた川連漆器と吉本さんとの関係については前回の記事でも紹介した。生みだされたばかりの「ARC」は、日本のみならず欧州でのリリースも予定する意欲作。その光は川連漆器の、そして伝統工芸の未来をどのように照らすのか。

東京大学・先端科学技術研究センターの中にある吉本さんのラボを訪ね、話を聞いた。

vol.1 「秋田の土地が育んだうつわ、川連漆器の魅力とは。」はこちら
vol.2 「伝統と革新が交差する、川連漆器のクリエイション。」はこちら

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届いたばかりの「ARC」の前に立つのは、ロンドンに拠点を置くデザイン・エンジニアリング・スタジオ「タンジェント(Tangent)」代表の吉本英樹さん。東京大学 先端科学技術研究センターの特任准教授という顔も持つ。

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繊細さと存在感、モダンさと伝統が共存する。

吉本さんのラボには、秋田から到着して間もないという「ARC」が3体並んでいた。すっくと立つ支柱には、しなやかに弧を描くLEDライトが組み込まれている。一見モダンアートのようだが、モチーフとなっているのは日本の弓。そこにはかつて、弓や刀のつばといった武具に漆を塗るところから始まった、川連漆器の歴史に対するオマージュが込められている。

大人の背丈以上の高さがありながら、重苦しさはない。確かな存在感と繊細な柔らかさが絶妙に同居したデザインだ。これまでモック(原寸大の模型)でバランスを固めてきたという吉本さんは、目にした実物にどのような印象を抱いたのか。

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昼はオブジェとして、夜は柔らかい明かりを放つフロアライトとして。「ARC」の存在感がライフスタイルを豊かに彩る。

「どんなプロダクトも形状やバランスを緻密に計算したうえで制作に入るものですが、やはり実物を見るまではハラハラドキドキです。しかし完成した『ARC』は狙ったとおりのバランスでした。堂々とした大きさでありながら繊細さを感じさせる。ライトであるのと同時にアートとしても存在感を放つ。でも、決して過剰な主張にならないように。それらの思いがすべて、“いい塩梅”に仕上がりました」

漆にしか出せない、気品のある黒と赤。

そぎ落とされたシンプルなデザインだからこそ、際立つのが漆らしい“塗り”の魅力だ。吉本さんは以前から、独特の輝きと柔らかさを合わせ持つ漆の、塗料としてのおもしろさに言及していた。そこで今回選んだのが、漆の象徴的なカラーである黒と赤の色展開だ。

「弓を出発点としてこのデザインを考えたとき、最初に思い描いたのが艶のある黒です。武士のイメージを持ちながら、揺らがない気品を持つ漆黒は絶対に外せない、と考えました」

また、漆の赤は日本にしかない独特の色彩で、ほかの赤とは代えがたい魅力があると感じているのだそう。

「単なる真っ赤とは違って、鮮やかなのに独特の深みがありますよね。海外でもリリースすることを考えたとき、インテリアグッズに赤を用いるのは冒険でもありました。でも長年室内で使われてきた漆の赤は落ち着きを感じさせますし、非常に日本らしい色彩でもある。ぜひトライしてみたいな、と」

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古くは海を渡り、ヨーロッパの人々を魅了した漆の黒。深く濃くありながら、光を反射する様子が美しい。
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艶のある赤い漆で塗られた「ARC」。やや黒みがかった深い発色は、漆ならではの味わいを感じさせる。

フロアライトとして、自ら放つ光で漆独特の光沢がさらに際立つ、という側面も「ARC」の特徴のひとつだ。

「それほど強い光源ではないですから、部屋全体を明るく照らすというよりも、お気に入りのソファの横に置くようなイメージです。柔らかい明かりの下で本を読んだり、ワイングラスを傾けたり。陽が落ちる頃、部屋の中に光沢をたたえて浮かび上がる様子や、昼間の室内空間でオブジェとして存在する姿、どちらもきっと魅力的なのでは、と想像しています」

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漆にまつわる職人が半径2キロの地域に集まっている川連。ある塗り師の工房からは、素朴な田園風景が見える。
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古くから赤い漆をつくるために使われているのが「べんがら」と呼ばれる天然顔料。経年変化に強く、退色しづらいという特徴を持つ。

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職人の中に息づく感性を生かしたコラボレーション。

漆工芸の代表的な装飾技法である「蒔絵」を施したモデルは、吉本さんがぜひやってみたいと願っていた挑戦だ。モダンな形状と伝統的な装飾柄のコンビネーションは、想像以上にしっくりとなじみ合う。

「お願いしたのは『川連の伝統柄にしてほしい』ということのみで、モチーフ選びや配置については蒔絵師さんにお任せすることにしました。蒔絵や和柄のプロではない僕の判断より、きっと熟練の職人の技術や感性を取り入れて一緒につくりあげたほうがおもしろいことになる、と。その結果、生まれてきたのが枝垂れ桜の枝が上から下に垂れ、花びらが散る風景です。支柱という形の特徴を存分に生かしてあるところが、さすがですよね」

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川連に伝わる伝統的な柄のひとつ、枝垂れ桜をモチーフにした蒔絵。細長い支柱に沿うように枝が垂れ、花びらが散る様子が優美に描かれている。

800年の伝統と「いま」が交差する瞬間を楽しんでほしい、と吉本さんは言う。

「鎌倉時代にお殿様の武器を塗っていた、なんて大河ドラマのような話ですよね。それを800年間、同じ場所で受け継いでいる人がいるという事実にリスペクトを込めて、こういう形が生まれてきました。しかし目の前にあるオブジェクトの佇まいは非常に現代的です。目に見えない歴史と、目に見えるモダンなデザインとがひとつに重なり、『ARC』の中にある。そんなストーリーを楽しんでもらえたらうれしいです」

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デザインがつなげる、工芸と先端テクノロジー。

数百年間変わらず、ゆっくりと流れてきた「伝統工芸」という時間の流れ。そして数日単位という目まぐるしい速さで進化していく「テクノロジー」。そのまったく異なるリズムを結び付けるものこそ「デザイン」である、と吉本さんは考えている。

「今回の『ARC』はテクノロジーとまで呼べるものではないですが、現代的な新しさがありながら、漆が使われることで温もりも感じさせる。異なる要素を繋げる接着剤の役割を果たす、それがデザインの力だと僕は考えています」

今後は吉本さんのもうひとつのフィールドでもあるアカデミックな先端研究を通じて、漆の可能性を探っていくことを目論んでいる。

「これまで漆は、木の表面の塗装でありコーティングの役割が主でした。しかしほかの基材と混ぜて強度を担保するなどすれば、3Dプリンタを使って立体的な漆の造形物をデザインする、なんて使い方も可能になるかもしれません。そういった研究が何の役に立つか、と言われると答えに困るのですが、少なくとも日本人が漆を扱ってきた1000年以上の歴史の中にまったくないものであるのは確かです」

伝統工芸に秘められた新しい未来を見つめる、川連漆器と吉本さんによる挑戦。それは決して平坦な道のりではない。

「仮に漆が使える3Dプリンタを実現しようとすれば、適した材料を導き出すための化学的な研究が、専用の装置をつくるためには機械工学的な技術が必要になるでしょう。それを制御するための、数学や物理によるアルゴリズム設計もしなければいけません。でも、歴史に存在しないアイデアを具現化するというのは、そういうことではないかと思うんです。やってみた結果、大したものにならなければ廃れればいい。でももし、いいものができたら未来が少し変わるのかもしれない」

エレキギターを初めてつくった人も、こんな気持ちだったのかもしれませんね、と吉本さんは照れくさそうに微笑んだ。

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吉本さんが川連漆器へのオマージュを込めた、「ARC」の美しさを体感して。

2022年5月、東京の二子玉川 蔦屋家電にて「ARC」が展示される。うつわや重箱といった、川連漆器の品々も並ぶ予定だ。伝統と革新が交差する漆器の「いま」を感じに、ぜひ足を運んでみてほしい。

吉本英樹 Hideki Yoshimoto
デザインエンジニア。1985年和歌山県生まれ。東京大学航空宇宙工学専攻修士課程修了後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートにて博士号を取得。2013年に「レクサス デザイン アワード」を受賞、2015年にロンドンにてデザイン・エンジニアリング・スタジオ「TANGENT」を設立。2020年より東京大学先端科学技術研究センター特任准教授に就任、工学とデザインの融合分野で国際的に活躍する。
www.tngnt.uk

川連漆器×吉本英樹 新作フロアライト「ARC」展示販売
会期:2022年5月13日(金)〜19日(木)
会場:二子玉川 蔦屋家電 2F E-room
東京都世田谷区玉川1-14-1 二子玉川ライズ S.C.
テラスマーケット
営)10:00〜20:00
https://store.tsite.jp/futakotamagawa/

川連漆器についてもっと見る

●問い合わせ先:
佐藤商事
tel: 0183-42-2147
https://sikki.com

photography: Aya Kawachi, Naohiro Ogawa director: Takeshi Taniyama director of photography: Tomohiro Yagi editing & text: Aki Kiuchi

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