
赤レンガと白い石材のコントラストが緑の中でひときわ映える「旧御所水道ポンプ室」。
京都のモダン建築を一斉に公開するイベント「京都モダン建築祭」が、今年も開催されます。2022年にスタートして、今年で4回目。開催期間は 11月1日(土)〜9日(日)。年々その規模と人気が増している注目のカルチャーイベントです。
今回は、開催に先駆けて行われたプレスツアーに参加してきました。特別に案内してくださったのは、実行委員長であり京都工芸繊維大学の准教授・笠原一人先生。建物の歴史や特徴だけでなく、どう見ればもっと楽しいのか――そんな「建築を見る目」がぐっと開けたレクチャーの内容を、レポートします!
疏水のほとりに優美に佇む「旧御所水道ポンプ室」
琵琶湖疏水といえば、明治維新後の京都を再生へと導いた重要なインフラ。「旧御所水道ポンプ室」は、その疏水の水を、京都御所で火災が起きたときに送るためのポンプが設置された施設です。完成は明治45(1912)年。「設計を手がけたのは宮内庁匠寮に属していた建築家・片山東熊。彼は東京大学造家学科の一期生で、フランス・ルネサンス様式を得意としていたため、皇室建築にふさわしい気品あるデザインを完成させました。外観はフランス風のルネサンス建築ですが、素材に赤レンガを使っているのはイギリス風。片山がイギリス人建築家に学んでからなんです」と笠原先生。ポンプを設置するためだけの建物とは思えないほど贅沢な造りに驚きます。現在は老朽化により使われていませんが、当時の姿を残し、京都の歴史を伝える貴重な文化遺産です。

東側には円柱やバルコニーまで設けられています。奥は国宝に指定されている第3トンネル出口で、「美哉山河」という扁額も。

レンガの長い面の段と短い面の段を交互に積み上げるのが「イギリス積み」。目地に膨らみをもたせた丁寧な仕事は、東京駅の赤レンガと同じディテールだそう。
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大丸初代社長の邸宅「大丸ヴィラ」
数えきれないほど前を通り過ぎてきたのに、初めて足を踏み入れて感動したのがこちら――「大丸ヴィラ」。大丸初代社長・下村正太郎氏の邸宅として、昭和7(1932)年にウィリアム・メレル・ヴォーリズ建築事務所の設計で建てられました。「木をむき出しにしたハーフティンバーやレンガ装飾など、イギリス中世のチューダー様式が特徴です。ロンドンのリバティ百貨店をモデルにしたとも言われています」と笠原先生。建物の裏手にまわり、広々とした庭から全体を眺めると、まるでイギリスの田園地帯にいるような気分に。中に入ると、時代をそのまま閉じ込めたような重厚な内装が残っていて、細部まで見応えたっぷり。烏丸丸太町の交差点近くに、これほどの敷地と建築がいまも残っていること自体が奇跡のよう。これからも大切に受け継がれてほしい、京都の名建築のひとつです。

広い庭から見た外観。7本の煙突はいまも現役だそう。京都モダン建築祭に向けて、業者の方がキレイにしてくださっています。

重厚感のあるマントルピースが設置されたリビングルーム。幾何学模様の天井や、布を折りたたんだような「リネンフォールド紋様」に注目を。ガラスには世界各地の旅の思い出を描いたエッチングや創業者のイニシャルも。

こちらは食堂。レンガのように見える壁は、デザインのためにタイルを貼り付けたもの。個人的にはイスのディテールにも心奪われました。
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エキゾチックな風情が魅力の「京都大学人文科学研究所分館」
こちらも、前を通るたびに気になっていた建築のひとつ。「京都大学人文科学研究所分館」は、京都大学建築学科の初代教授・武田五一の監修のもと、門下生の東畑謙三が設計を手がけ、1930年に竣工しました。「東畑は水平・垂直・奥行きを意識したコンポジションを大切にする建築家で、新しいことに挑戦したかったんです。だから、細部の装飾は古風でも、構成自体はモダンなのが特徴」と笠原先生。半円アーチなどのディテールはロマネスク様式で、中庭を囲む回廊はスペインの修道院を思わせるデザイン。そのため"スパニッシュ・ロマネスク様式"と呼ばれることも。クラシカルでありながら、どこか軽やかな佇まいに魅了されます。
ちなみに、東畑謙三が創設した東畑謙三建築事務所を前身とする東畑設計事務所は、なんと2025年大阪・関西万博の「大屋根(リング)」の基本設計を担当した3社のうちの1社だそう。時を超えてつながる建築の系譜に、じんわり感動!

北白川の閑静な住宅街に静かに佇む。夕陽に染まる白亜の建物が美しい。

建物の奥には中庭と回廊が。こんな環境で研究ができるなんてうらやましいかぎり!

半円アーチの窓に軽やかに輝くステンドグラス。古墳時代に用いられた直弧文や、中国・唐時代に源流をもつ唐結文があしらわれています。
古都のイメージが強い京都。でも、いまの京都の文化や暮らしを支えているのは、近代に生まれた建築や仕組みが多いのだそう。「建築を通して、近代の新しい文化を学んでもらうのがこのイベントの主旨です」。プレスツアーの冒頭でそう語られた笠原先生。今回のツアーで感じたのは、ひとつひとつの建物に所有者や建築家、施工者、研究者など多くの人の思いや技が込められているということ。背景を知ると、建築を見る目がグッと変わります。京都のモダン建築を巡る際には、ぜひその背景の「物語」に耳を傾けてみてください!
同じく11月には今年より名称を改めた「神戸建築祭」も開催予定。ぜひそちらもチェックを!
開催期間:2025年11月1日(土)〜9日(日)
開催場所:京都市内各所
プログラム概要:過去最多の129件の建築が参加。昨年の開催エリアに加え、新たに北山・松ヶ崎、吉田・北白川までエリアを拡大。建築祭パスポートで自由に見学できるパスポート公開は前期・後期合わせて57件、所有者や専門家が解説するガイドツアーは90コース、さらに連携企画やパスポート特典も。詳細は公式WEBサイトを。
https://kyoto.kenchikusai.jp/
神戸建築祭
開催期間:ガイドツアーや各種企画 2025年11月28日(金)、30日(日)、パスポート公開 2025年11月30日(日)
開催場所:兵庫県神戸市 舞子・垂水・塩屋 ※ガイドツアーは須磨区でも実施
詳細は公式WEBサイトを。
https://kobe2025.kenchikusai.jp/






