手仕事と伝統、ポーランドで宝探しの旅 発酵食品から餃子まで、ポーランドのソウルフードの魅力。
Travel 2023.10.23
ポーランドの地を旅した日本人の多くは、食べてきた料理を絶賛する。首都ワルシャワなどに行くと洗練された美しい創作料理系のお店も増えたが、やはり日本人が好むのは古くから地元の人々に愛されてきた伝統的なポーランド料理だ。宝探しの第三回目は、ポーランド人のソウルフードをリポートする。
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第二回:ポーランドでめぐる、聖なる木造教会。
https://madamefigaro.jp/lifestyle/travel/231003-wooden-church.html
なんだか懐かしくて、日本人も大好きなポーランド料理。
ポーランド料理の源は、数百年にわたって交流をもち影響を受けてきたドイツやロシア、リトアニア、チェコ、ハンガリー、オーストリアなどの隣国はもちろん、モンゴル、アルメニア、コサック、そしてユダヤ料理(※)と幅広い国々の料理が融合したものだ。
ソウルフードその1/ジュレックスープ(発酵ライ麦スープ)
なぜポーランド料理に日本人の口に良く合うものが多いのか、旅しながらなんとなく分かってきた。それは「発酵食品」が多いということ。その代表がスープだ。よくポーランド人の家庭の食卓に上がるのが、酸味の効いた伝統スープ「ジュレック」。昨年、無印良品からも発売されているので、ご存知の方も多いかもしれない。
13時間以上のフライトを終えてワルシャワに到着し、夕食で初めていただいたときの感動は忘れない。ひと口目のスプーンでオレガノの香りが口いっぱいに広がり、酸っぱいスープが疲れた体に染みわたり癒された。
これは、ライ麦とハーブを混ぜて発酵させたライ麦酸をベースに作るスープで、白ソーセージや野菜、キノコ類を混ぜ、最後に茹で玉子が入る。ソーセージが別になって出てくるところもある。レストランでいただくと、大きめのソーセージが入っていることも多く、ランチはこれとパンで十分という人もいるほど。
胃が疲れてきてさっぱりとしたスープを頂きたいときは、鶏や牛の骨や肉とさまざまな野菜で出汁をとって作るコンソメスープ「ロスウ」がおすすめ。透明のスープの中にはマカロニや小さく刻んだスパゲティが入っている。
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ソウルフードその2/ピエロギ(ポーランド版水餃子)
こちらも、この国には欠かせないソウルフード。東欧や西アジアにも餃子文化は根付いているが、もっとも日本や中国料理の水餃子に似ているのがピエロギだ。
かつてワルシャワの料理教室でこのピエロギ作りを体験したことがある。日本の餃子を作る要領とほとんど同じで、小麦粉と水をこねた生地をすりこぎ棒で伸ばし、手の平サイズの皮を作って中に餡を包む。その時は2種類の餡を作った。1つはカッテージチーズと茹でたジャガ芋を潰し混ぜたもの、もうひとつは豚挽き肉と玉ネギを炒めた餡だった。調味料はどちらもバターと塩とコショウのみ。後は生ピエロギをお湯で茹でるだけ。できあがったピエロギをいただいてみると、シンプルな塩・こしょう味だが、これがなんとも美味で後を引いた。
レストランへ行くと、これを炒めて出すところも多い。写真は、ブルーベリー入りのやや甘めのピエロギ。
クリスマスには各家庭で2種類のピエロギを作る。ザワークラウトと干しポルチーニ茸、もう1つは干しキノコのみを詰めたピエロギ(ウシュカ)をボルシチスープに入れる。ウシュカとは、ピエロギを小さくしたものでポーランドではこのウシュカもよく食べる。
地方によって、中に詰める具も違っているそうで、一度おいしいピエロギをいただくと、いろんな地方のピエロギをトライしたくなるはず。
8月にはクラクフでピエロギ祭りが開かれるそうで、偶然にもお祭り開催中に訪れることができた。写真は出店のひとつ。大賑わいだった!
こちらの料理は、ひき肉と玉ネギ入りの焼きピエロギにニョッキを合わせている。
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ソウルフードその3/プラツキ(ポテトパンケーキ)
誰もが間違いなくハマるおふくろの味的な国民食。すりおろしたジャガイモに、小麦粉、玉子、塩とコショウを入れてをこねて、パンケーキのように焼くだけ。もちもちとした食感で香ばしく、固めに焼いたものはカリっとしていて、ハッシュドポテト風にもなる。レストランでは、このプラツキを何枚か重ねて、煮込んだ牛肉が上に重ねてあったりする。上写真は高級レストランでのプラツキ。
ソウルフードその4/ビゴス(ザワークラフトの煮込み)
たとえば、日本人ならこのビゴスをご飯にかけて食べたくなる人がいるかもしれない。繊切りにしたキャベツを、タマネギ、ソーセージやベーコン、キノコ類と一緒に炒め煮込んだ料理で、こちらも発酵食品のひとつ。
ソウルフードその5/フゥオドニク(ビーツのスープ)
夏に好まれるビーツのスープ。サワークリームやヨーグルトが入っていて、さっぱりとした塩味がおいしい。隣のリトアニアでもよく食される。
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ソウルフードその6/ポンチキ(揚げドーナツ)
これさえあれば幸せ、というポーランド人も多い国民的スイーツ。ジャム入りやクリーム入りがある。12月になると、クリスマスマーケットなどには赤と緑色で彩ったクリスマスバージョンも登場する。
ソウルフードその7/クレムフカ(クリームパイ)
ローマ法王ヨハネ・パウロ2世が愛したお菓子としても有名で、こちらもポーランド全国民に愛されるスイーツ。外はサクッとしたミルフィーユ生地で、中は上質のクリームがふんわりとして甘さ控えめ。ちなみに、ヨハネ・パウロ2世はポーランド南部ヴァドヴィツェの出身で、法王様が幼少の頃によく通った、と噂のスイーツ店も存在する。写真はそこで撮ったクレムフカ。
ソウルフードその8/オブハジャネック(プレッツェル)
街角でよく見かける穴の開いたプレッツェルのようなパン。チーズ、ゴマ、ケシ、塩味などの種類があり、朝食や小腹が空いたときにいただける気軽なパン。クセになりそう。公園の入口や路地、広場でも必ずといっていいほど屋台が出ている。
次は、ポーランド取材のレストランでいただいた料理を写真で紹介する。
こちらは、日本のロールキャベツによく似た「ゴウォンプキ」。
Gospoda Magurska
Małastów 135, 38-307 Sękowa, Poland
tel: +48 609 442 336
営)11時~19時
休)月
http://gospoda-magurska.pl/
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鴨料理もよく食される。写真は赤キャベツ煮添え。
ウィーンなどでもよく見るカツレツ。オーストリア=ハンガリー帝国の領地だった頃の影響だろう。これもカリっとしていて本当に美味。日本人好みのお味。
Wesele
Rynek Główny 10, 31-042 Kraków, Poland
tel: +48 530 129 673
営)13時~22時
休)無休
https://weselerestauracja.pl/en/
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乳製品がとても豊富。チーズもおいしいが、注目すべきはケフィア、乳清、クリーム、バター類。乳製品好きにはたまらなく新鮮で驚くべきクオリティだ。写真はクラクフの市場の様子。
これから秋はキノコ類も市場に増える。
肉の燻製やソーセージも豊富。
昔もいまもファームトゥテーブル、スローフードが基本
ポーランド料理の真髄は「限られた素材で、伝統的な調味料を工夫して豊かな味を作る」ことだそうだ。いまも昔と変わらず、ほとんどの料理には添加物や化学調味料は入っておらず、シンプルなミネラル分たっぷりの岩塩や新鮮ハーブやコショウなどが基本レシピ。そして人々は市場で買い物をして、家で料理を作る。それはレストランでも同様。素材の旨みを生かし、伝統レシピが生きる滋味豊かなポーランド料理だからこそ、舌の肥えた日本人を惹きつけるのだろう。心身を元気にしてくれるポーランド料理、ぜひとも各地へ足を延ばして試してみてほしい。
(※)南ポーランドのクラクフでは、14世紀、西洋で迫害を受けていたユダヤ人を当時のカジミエシュ大王が受け入れて保護したため、多くのユダヤ人がポーランドに移り住んだ、という歴史もあるため、各地にユダヤ料理の専門店も多い。
photography: Yayoi Arimoto text: Sachiko Suzuki (RAKI COMPANY)