暮らすように旅するリトアニア [リトアニアへの旅]ユネスコのモダニズム建築都市、カウナスを歩く。

Travel 2024.03.07

2023年9月、リトアニア第二の都市カウナスがユネスコのモダニズム建築都市として登録された。第一次世界大戦中、ポーランドに占領された首都ビルニュスに代わりカウナスが臨時首都となると、独自のモダニズム建築が一気に1万2,000棟も建てられた。通常、貴重な歴史的建造物は文化財や美術館となってしまうことが多いが、カウナスではいくつかの建物が現在も使われているというから驚きだ。クールなカウナスの街並みと人々の暮らしをのぞいて、最後に究極のパワースポット「十字架の丘」を訪れた。

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第一回:リトアニアへの旅。サウナにハーブティー、暮らしに息づく聖なる伝統に触れて。https://madamefigaro.jp/lifestyle/travel/240115-Lithuania-travel.html

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カウナスがユネスコデザイン都市になった理由。

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カウナスは、首都ビルニュスから北西へ約103km、車で1時間20分の距離にあるリトアニア第二の都市。ネームナス川とネリス川に挟まれた場所に位置し、西側は旧市街、東は新市街となっている。聖ミカエル教会からまっすぐに大通りが延び、その両側に建物が整然と並ぶ端正な印象の街だ。

1919年から1940年の間、暫定的に国の首都となったカウナスは、ロシア行政下の小さな町からヨーロッパ他都市に匹敵する近代都市への変化を迫られた。当時ヨーロッパ各地に住んでいたリトアニア人建築家や専門家たちがカウナスに集められ、都市の中心部に政府機関や大学、ホテル、住宅などが建てられた。

ユネスコのデザイン都市登録となったのは、20年以内という短期間に形成されたモダニズム建築都市であること、そして新たな首都を造るため、近代的な方法とリトアニアの建築スタイルが融合し、独特な都市開発へと発展していったこと。このふたつが大きな理由だ。

かつてカウナスの街を形作っていた建築スタイルとは、古典主義、バロック主義、過去の西洋建築様式を復古的にモデルとする歴史主義などの歴史的建築様式。そこに、フォークアートや国のシンボル装飾の要素などが巧みに取り入れられ、ややエスニック的な印象を与えている。

カウナスの都市景観は「多様なモダニズム様式の融合」が大きな特徴。幾何学的なアールデコの美学や、シンプルで機能性を重視するバウハウスなどの要素を含みながらも、明確な様式区分はなく、むしろさまざまな影響が調和しているところが大きな魅力だ。

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中心街の代表的なモダニズム建築。 

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代表的な建物をいくつか紹介しよう。主要な44軒のモダニズム建築についてのガイドを聞くことができるアプリケーションもあるので、スマートフォンにダウンロードすれば建物の説明(英語)を聞きながら街歩きができる。(アプリ:Kaunas of 1919-1940

1)中央郵便局(1931年築)

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建築家はフェリクサス・ヴィズバラス。建物の一部が郵便局として2019年まで使われていた。まず目を奪われるのが玄関入口と本館の床面に広がる市松風の変形模様。内部はクラシックな印象で、淡いレモンイエローの壁に長年使い込まれた感のある木造りの作業台。

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壁の上部にはカニや牛、という驚きのモチーフのステンドグラス風灯り窓が。古い切手のデザインが絵画になり、ずらりと並べられそれも見応え十分。控えめな配色といい細部の手の込んだ意匠といい、さまざまな要素がミックスされながら不思議と統一感がとれている。そして何度見ても楽しい!ということは作り手たちも楽しみながら設計したに違いない。現在はギャラリーとなっている。(住所:Laisves al. 102)

2)カウナス市役所(1940年築)

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旧国家貯蓄銀行。建築家はアルナス・フンカス、アドルファス・ルコシャイティス、ブロニュス・エルズベルガス。直線的でモダニズムの典型ともいえる外観だ。

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見逃せないのが、グランドホールのすりガラス天井のライトと、正面に飾られた琥珀色の幾何学的なアートワークス。飾り窓や空気口などの細部も美しいミニマムデザイン。モダニズムのエッセンスが詰まっている!重厚なロンドンの老舗ホテルのような回転ドアも要チェックだ。(住所:Laisves al. 96)

3)ロムヴァ映画館(1940年築)

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建築家はニコラユス・マチュルスキス。どこの主要都市にも、少なくともひとつは老舗の映画館が存在した。多くのカウナス住民たちの映画愛を刺激した小さなアールデコ様式のロムヴァの映画館は、改装されて新しくなっている。こちらの写真上は改装前のもの、下は現在の映画館。新しくなった映画館よりもっと現役感がある。(住所:Laisves al. 54)

4)国立チュルリョーニス美術館(1936年築)

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建築家はヴラディミラス・ドゥベネツキス、カロリス・レイソナス、カジース・クリシチュカイティスなど。リトアニアを代表する芸術家ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス(1875‐1911)」の美術館も見逃せない。画家であり音楽家でもあるマルチアーティストの チュルリョーニスは、抽象美術の先駆者的存在で、日本にも熱烈なファンをもつ。王冠のような正面玄関がアイコニック。

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たとえば、雲、太陽、月、山、湖といった豊かな大自然とモノやヒトを対峙させ、見るものに謎を解かせるような底知れぬ魅力がある。大胆な構図と独自のシュールな画風が夢の世界へと誘ってくれるはず。上は「城のおとぎ話」。240109-Kaunas-Lithuania-13.jpg

こちらは「ソナタ第6番アレグロ」。音楽家・詩人としての感性がそこここにちりばめられている。すっきりとした直線美の建物と、チュルリョーニスの作品をぜひとも堪能していただきたい。(住所:V. Putvinskio g. 55)

5)杉原ハウス(1939年築)

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旧ユオザス・トンクーナス邸宅/日本領事館。
建築家はユオザス・ミルヴィーダス。リトアニアといって日本人が忘れてはいけないのが、第二次世界大戦中に「命のヴィザ」を発行して、数千人ものユダヤ人を救った外交官、杉原千畝(すぎはらちうね)。ジャリャカルニス地区の高級住宅地にあるこの建物は、杉原が暮らし業務を行っていた場所(住所:Vaižganto g. 30)

6)一般の住宅。

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派手さはないが、街並みに溶け込んでいるデザインが素敵。

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インテリアにも注目!ドーナツ屋の日常風景。

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「1960年代に開業、ソ連独立前の雰囲気が垣間見える」。そんなカウナスのイラストガイドマップのコピーに惹かれ、立ち寄ってみたドーナツ屋。行ってみたら、得も言えぬ渋さにあふれたインテリア!モダニズムの典型のような椅子の形、床の幾何学模様、カンディンスキー風の壁模様......。

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一気に60~70年代の映画の世界に引き込まれたような気分に。早朝からひっきりなしに常連客がやってきてはドーナツとコーヒーを注文する。こんな光景に出合えることもリトアニアの旅の醍醐味のひとつ。

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偶然入ってこんな素敵なインテリアに出合えるなら、もっといろんなお店に入ってみたくなるはず。洒落たモダニズム建築の街並みを歩いて、独立前の雰囲気を残すカフェやショップで地元の人に混じってお茶を飲む......。一日中街をさまよい、あちらこちらに立ち寄って深掘りしてみたい街だ。

スプルギネ
Spurginė

Laisvės al. 84, 44250 Kaunas, Lithuania
Tel: +370 3720 0355 
営) 8時30分~20時(土曜9時~20時、日曜10時~19時)
休) なし
HP https://tavobaras.lt/spurgine-kaune-laisves-alejoje/

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カトリック教徒の聖なる巡礼の地、十字架の丘。

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最後はリトアニアを象徴する聖地へ。カウナスから北へ車で約2時間のシャウレイにある「十字架の丘」。平坦な草原をひたすら走り続けてたどり着いたのは、想像もできないほど美しいライ麦畑、そしてその中に突如と現れるのが、大小無数の十字架が立つ、ユネスコ世界無形文化遺産の「十字架の丘」だ。

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リトアニアの歴史は戦いと抑圧の歴史といっても過言ではない。とくに第一、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツによるユダヤ人弾圧、戦後の旧ソ連によるシベリア追放などの不幸が繰り返される中、カトリック信者であるリトアニアの人たちは、1831年のロシア蜂起後この地に十字架を立て始めた。戦地や抑留された土地での亡骸は祖国へ戻ることはなかったため、命を落とした人々を弔うために十字架は増え続け、それは現在も続いている。旧ソ連時代、この十字架の丘はロシアによって何度も破壊されたにもかかわらず、その都度、リトアニアの人々は十字架を最初から立て直し、現在まで守られてきた。十字架を立て続ける無言の抵抗......1991年に非暴力にてソ連から独立を勝ち取った「人間の鎖」も、リトアニアのヴィルニュスから始まった。

ネット写真などで見ると、一瞬驚きもするが、実際訪れてみると実に穏やかでピュアな空気に包まれていることに驚く。聖なる祈りの気に満ちたパワースポットであることを実感できるはずだ。

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十字架の丘の売店で見つけたのが、琥珀パウダーのスクラブ。琥珀はリトアニアの特産品であり、エジプトやローマなどでも古くからアンチエイジング美容のもととして珍重されてきた。試しに、数年前に一度100g袋を買い求め、洗顔後にこの琥珀の粉でスクラブしてみると、肌が信じられないくらいスベスベに! 写真は、4年に一度開かれる歌謡と舞踊の祭典「ダイヌ・スベンテ(ユネスコ無形文化遺産)」のイメージ。2024年は記念すべき100周年。開催は6月29日から7月6日。

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今回は1kgを購入。一番リーズナブルに手に入るのがここの売店。お土産にぜひ。 photography: Sachiko Suzuki

情報過多の慌ただしい現実社会からしばし離れて、のんびりとしたリトアニアの空間へ旅してみては? 移動中の車から見る見渡す限りの平原、広い青空と雲、雨上がりの大きな虹、中世時代のような旧市街の散歩。あれは夢ではなかったか、と疑う。どんなに世の中が変化しようと、なににも縛られず、自然をこよなく愛するこの国の価値観で生きるやさしくマイペースなリトアニアの人々......豊かな時間の中で、聖なる何かを見つけてほしい。

十字架の丘
Kryžių kalnas

81439 Jurgaičiai, Lithuania
Tel: +370 4137 0860
開) 24時間
https://kryziukalnas.lt/?id=44
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リトアニア政府観光局 https://lithuania.travel/jp/
photography: ©︎Giedrius Akelis

LOT機体写真.jpg

LOT ポーランド航空 https://www.lot.com/jp/en

※リトアニアのヴィルニュスへは、東京・成田からポーランド航空のワルシャワ経由便で行くのが便利。

photography: Yayoi Arimoto text: Sachiko Suzuki (RAKI COMPANY)

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