映画人が愛した尾道の景観を独占! 絶景のホテル「尾道倶楽部」へ。
Travel 2025.04.09
駅を降りてすぐ、そこには島の景色が広がっているーー。瀬戸内海に面する尾道には、街の中央を貫く商店街を中心に「昔ながらの日本」と呼びたくなる風景が広がる。小津安二郎が『東京物語』の重要な舞台として選び、大林宣彦が『時をかける少女』に代表される"尾道三部作"を生み出し、小津を私淑するヴィム・ヴェンダースが逗留してドキュメンタリー『東京画』が生まれた街......。
小さな島々に囲まれた水面は波も穏やかで、磯臭さはほとんどない。汽笛、遠くに聞こえる踏切の音。小雨の差す中、防波堤で対岸の島へ渡るための連絡船を待っていると、まるで昭和の時代に迷い込んでしまったかと思うような一瞬がある。横では地元の高校生が折り畳み傘を手に、スマホを打ちながら通学の時間を潰していた。現実と、不思議な気配が混ざり合う海街。
そんな尾道を一望できる、千光寺山(大宝山)の中腹に誕生したホテルが「尾道倶楽部」だ。

到着してから何をおいても行くべきはルーフトップバーだ。17時からオープンするバーからは、街を象徴する尾道大橋から、対面に座す向島、そして貨物船の行き来するしまなみ海道を言葉どおりのパノラマで眺めることができる。名門ホテルで経験を積んだバーテンダー、寒川悠太郎が考案したオリジナルカクテルで旅の疲れを癒し、暮れゆく島の景色を眺めながら乾杯しよう。

細長く剥いたレモンの皮がグラスを彩り、香りも爽やかなオリジナルレモンサワー。地元の名産品、瀬戸田のレモンを使った逸品だ。「地元の子どもはおやつがわりに食べることもある、と言われるほど甘みがしっかりしたレモンです」と寒川。スッキリとした味わいで喉を潤して。

尾道の日暮にインスパイアされて生まれたオリジナルノンアルコールクテル「サンセット」は、テーブルの上でバブルが弾けアロマが広がる、五感で楽しむ一杯だ。テラス席はもちろん、バーの中も雰囲気は抜群。夕飯までの間、夕暮れを眺めてグラスを傾ける至福の旅時間を過ごそう。

---fadeinpager---
「絶景」のホテルをリニューアル。

尾道倶楽部の前身は、地元にあった千光寺山荘というホテル。コロナ禍で閉めたホテルをリニューアルする取り組みからプロジェクトがスタートした。山道を上った先にあり、民家が点々とあるくらいで視界を遮るものはない。まさに「尾道の全景を楽しめる」唯一無二のホテルだ。
ロビーに入ると、大きな窓から開けた尾道水道の鳥瞰に感動する。併設されたカフェスペースで、世界チャンピオンに輝いたバリスタの淹れるラテを楽しもう。Wi-Fiを完備しているから、陽の差し込む開放的な空間でワーケーションももちろん可能。休みの前日に移動してリモートワーク、土日を観光に、というスケジュールもいいかもしれない。
ほとんどの部屋から、海の景色が楽しめるというのも魅力だ。窓際にはオリジナルで設計した背の低いソファを用意。部屋からの眺めを妨げないのはもちろん、水面を見つめてゆっくりと過ごす時間がたまらない。また、尾道は「世界7大サイクリングロード」にも数えられる、しまなみ海道サイクリングロードの拠点でもある。「サイクリングの聖地」に集う自転車旅のツーリストに向け、大事な自転車を壁に掛けて一緒に泊まれる「サイクリストエコノミー」の部屋も要注目だ。
お土産コーナーも見どころ満載! 対岸の向島で造られる地元産サイダーや、レモン、エビをふんだんに使用したご当地ならではのお菓子を物色していると、壁際にかかったジーンズに目が留まる。

尾道が属する備後地方は、かつては藍染めの絣(かすり)の生産地として名を馳せ、現在では日本のデニム生地生産料トップを誇る地域でもある。「尾道デニムプロジェクト」は、地元の職人やあらゆる業界のプロフェッショナルたちが、新品のデニムを1年間履いて、洗って、を繰り返して作り上げるリアルユーズドデニムだ。尾道倶楽部では、一部の商品を販売している。サイズも色落ちもさまざま、物語への共感や、サイズがぴったりな「運命の出会い」があったら絶対に履いて帰るべき、唯一無二のお土産だ。
---fadeinpager---
瀬戸内、という豊かな食材。

宿泊者限定のディナーは、こちらも海を望むレストラン会場で、地元の名産品を堪能しよう。穏やかな海は魚、甲殻類の格好の棲家。水揚げされたばかりの新鮮な魚介を惜しみなく使ったブイヤベースは、海の味を感じながら、レモンを齧って口をさっぱりさせる、地元の魅力が詰まった沁みわたるひと皿に仕上がっている。

瀬戸内海の島々には、その風土に合わせたさまざまな一次産業がしっかり息づいている。瀬戸内牛は脂身も爽やかで、噛み締めた肉汁がたまらない味わい! 穏やかな海風がそよぐ気候で育つ野菜も、甘さと旨味が際立っている。
締めには「広島と言ったら」でお馴染み、牡蠣の土鍋ご飯が待っている。肉厚な牡蠣のミネラル感と、ふっくら仕上がった炊き込みご飯が口の中で溶け合い、うっとりする瞬間。瀬戸内海の恵みを、口から迎え入れよう。

歴史を遡れば、大阪から北海道へ旅をしながら商いをしていた北前船の寄港地として栄えてきた尾道。志賀直哉、林芙美子ら文学者や、名だたる映画監督も憧れた悠久のまち。その旅の拠点にしたい、絶景を浴びるホテル......。海からの静かな風を浴びながら、街と海に乾杯して。

photography: Mirei Sakaki

フィガロJPカルチャー/グルメ担当、フィガロワインクラブ担当編集者。大学時代、元週刊プレイボーイ編集長で現在はエッセイスト&バーマンの島地勝彦氏の「書生」としてカバン持ちを経験、文化とグルメの洗礼を浴びる。ホテルの配膳のバイト→和牛を扱う飲食店に就職した後、いろいろあって編集部バイトから編集者に。2023年、J.S.A.認定ワインエキスパートを取得。
記事一覧へ