南仏ポルクロール島のヴィラ・カルミニャック。アートと庭......そしてワイン。

Travel 2025.07.01

2000年にエドゥワール・カルミニャックによって設立されたカルミニャック財団。その経営によるヴィラ・カルミニャックがオープンしたのは、2018年のことだ。その2000平米の建物は、2014年に始まった工事によって改修されたものだ。元々は1980年代に持ち主となった建築家アンリ・ヴィダルが手がけた建物で、かつてこの場所にはジャン=リュック・ゴダール監督の『気狂いピエロ』(1965年)に登場する農家があった。ヴィダルは海の眺めを求めて、土を盛り上げて小さな丘を作り、その上に建物を建築したのである。いま、ヴィラ・カルミニャックの窓から得られる素晴らしい眺望は、ヴィダルのおかげというわけだ。

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空からヴィラ・カルミニャックを眺める。『めまい』展が開催されている建物は、海まで続く一万平米の庭の真ん中に。photography: © Fondation Carmignac / Camille Moirenc

展示会場の建物を囲むのは15ヘクタールの庭。ルイ・ベネッシュが島の植物に価値を置いた造園を担当した。彼は裕福な趣味人の個人邸宅の庭、パリ市内のリュクスなホテルの庭園やバルコニーなども多く手掛けている著名な造園家である。庭があるのは島の国立公園の一部で、ヴィラ・カルミニャックはここで芸術と自然のプロジェクトを実践。ポルクロール島の生態系を尊重し、保護するという理念のもと、ベネッシュは庭に植栽をするのではなく、この地に自然に生い茂る植物を選別し、差し引くという方法を行なった。ひとつ例外がある。小さな丘の上にたつヴィラから庭に降りるダラダラ坂が設けられた"エキゾチックな丘"と呼ばれる一角で、ここには遠く離れた土地の植物と島固有の植物で構成されているのだ。庭にはオリーブ畑もあれば、トウキビ畑、灌木地帯、それに果樹園や菜園も。ヴィラ・カルミニャックの敷地内に入ると、チケット販売所、自転車置き場やロッカーが最初にあり、しばらく進んだ分かれ道のインフォメーション・ポイントで、来場者に"島の霊薬"と呼ぶハーブティーがサービスされる。例えば初夏の味はラベンダー、メリッサ、キャットミントのミックスだ。インフォメーション・ポイントの左右の道、展覧会場から始めるもよし、庭を巡るのもよし。

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ヴィラの地上階の水鏡と呼ばれる池。透明ガラスの底を介して、地下の展示会場に水紋、光を描き出す。© Fondation Carmignac / Luc Boegly

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展覧会場を出て、エキゾチックな植物が植えられた丘を下って庭散策へ。建物の外壁に鏡で地中海を描いたアート作品は、ジャン・ドゥナンの「La Traversée」。© Fondation Carmignac / Thibaut Chapotot

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庭の散歩で、ピスタチオの古種ピスタチオ・ランテイック(写真左)や灌木地帯のロックローズのような珍しい種類に出会う。photography: Mariko Omua

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広大な庭にアート作品が点在している。右はストリートアーティストのヴィールスによる「Scraching the Surface Porquerolles」(2018年)。photography: Mariko Omua

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インフォメーション・ポイントで庭のハーブティーを。photography: Mariko Omura

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自然の力強さ、優しさ、可憐さに溢れる中を散策する途中、この庭のために作られ、点在する17のアート作品に何度も足を止めることになるはずだ。どの作品も庭の規模に呼応するように、サイズは大きい。それでも庭には特にコースがあるわけでもないので、見逃すものも出てしまうかもしれない。アート作品と植物のリストがついた庭の地図が無料配布されているので、それを片手に歩くことができる。ちょっと宝探しの気分が味わえたりして。アート作品は例えば、ウーゴ・ロンディノーネの「Four Seasons」(2018年)。「自然と人間界が交差する場所に光をあてることと、こうした出会いを定義する時に起きる人間の意識の限界について、関心を抱いている」と語る彼の作品で、四季の表情が4本の人差し指像に見ることができる。また、エッペ・ハインの「path of emotions」(2018年)とコンラッド・ショークロスの「Slow Arc Inside a Cube XI」(2020年)のように、現在開催中の『めまい』展のテーマにあう作品も庭の常設アート作品に見出せるのだ。

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ウーゴ・ロンディノーネの『四季』。© Ugo Rondinone / ADAGP, Paris, 2025 | Photo : © Fondation Carmignac / Camille Moirenc

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左:ジャウメ・プレンサ作「Les trois archimistes」(2018年) 右:ニルス=ウド作「La couvée」(2018年)。photography: Mariko Omura

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庭で『めまい』展の延長を。左はエッペ・ハインの「path of emotions」(2018年)、右はコンラッド・ショークロスの「Slow Arc Inside a Cube XI」(2020年)。photography: Mariko Omura

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ヴィラの敷地内では、大きな松に囲まれたレストランのPoisson ivre(ル・ポワソン・イーヴル)がランチタイムに営業している。火曜から日曜にかけて、12時からと13時30分からの2回サービスだ。6月14日から9月20日の金・土は、要予約のガストロノミー・ディナーも。シェフのユーゴ・マンセルによる地元の素材を用いた料理は、軽くて味も良い。レストランではヴィラに隣接するDomaine La Courtade(ドメーヌ・ラ・クルタ―ド)のワインを味わえる。このワイン畑もアンリ・ヴィダルが始めたものだ。現在はヴィラと同じくカルミニャック家がオーナーなので、財団入り口の作品であるミケール・バルセロの「アリカストル」がワインボトルのラベルに。飲み物と軽食を出すビュヴェットのL'Oliverai (ロリーヴレ)は12時から16時の営業。オリーブ畑の中のトラックが目印だ。どちらもヴィラ・カルミニャックの入場券(16ユーロ)購入者にアクセスが限られているので、大混雑もなく南仏の空の下、ヴィラでの時間が楽しめる。

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地元の素材に香草やスパイスをあしらったシェフの料理。© Fondation Carmignac / Thibaut Chapotot

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松の木の下で気持ちのよいランチタイム。ワインLa Courtade(ラ・クルタード) が進んでしまいそう。© Fondation Carmignac / Camille Moirenc

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オリーブ畑の中のビュヴェット L'Oliverai。こちらの営業は12〜16時。© Fondation Carmignac / Camille Moirenc

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イエールから船で渡るポルクロール島は人生で何度も行く土地ではないはず。不便な場所だけに、行ったからには思い切り満喫を。ヴィラ・カルミニャックでは7月と8月には、夜のプログラムも開催している。木曜と金曜は夜に庭と展覧会にアクセスが可能で、またオープンエアの映画上映、チェロのコンサートなども。

村とヴィラの中間の聖アガット要塞あり、その中で現代アートのインスタレーションを鑑賞できる。フランソワ1世の治世下の16世紀に築かれ、頂上からは島を360度見渡せる要塞だ。拷問を受け、乳房を切り取られても信仰を守ったカターニヤの守護聖女アガット。彼女が地震や火山の噴火から守ってくれるということから要塞にはこの名前が付けられた。アーチストのジュリアン・シャリエールがその彼女の物語に心を奪われ、創造したインスタレーションは、静寂の中に横たわり、かすかに聞こえる火山の噴火を聴きながら瞑想へと誘われるという内なる灯台のイメージ。火曜から土曜の10~13時、15時~18時が入場時間だ。

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現代アートのインスタレーションが見られる、16世紀に築かれた聖アガット要塞内。頂上から島を360度で眺められる。photography: Mariko Omura

島内の移動の際には海の美しさに目を奪われ......車が走らない島内の観光に自転車をレンタルする人も少なくない。レストランは港、その近くのアルム広場の周囲には多数。日帰りの旅あるいは一泊して、ポルクロール島のアート・トリップに出かけてみてはどうだろうか。バカンス客で賑わう真夏を避けて、例えば初秋に......。

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photography: Mariko Omura

Villa Carmignac
Piste de la Courtade
Ile de Porquerolles
83400 Hyères
開)10:00~18:00(4~6、9~11月)、10:00~19:00(木~22:00/7~8月)
休)月
料)16ユーロ(庭へのアクセスを含む)
https://www.fondationcarmignac.com/fr/

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editing: Mariko Omura

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