ターコイズの海と白の建築に解かれて。自分に還るバリ島の海の隠れ家──アマンキラ。
Travel 2025.09.04
海に抱かれて、魂が解き放たれる──アマンキラ。
モードな大人が選ぶべきリトリートの舞台が、バリ東部の丘陵に広がっている。山のアマンダリと、海のアマンキラ。
バリというひとつの島にある対照的なふたつのアマンを巡る「アマンホッピング」はいま、旅慣れたトラベラーたちのあいだで新しい潮流となっている。
美しいビーチとターコイズの海を見晴らす三層のインフィニティプール、王族の水宮殿や古代村落の意匠を映したスイート──。その風景の根底にあるのは、アマンの創業者アドリアン・ゼッカの思想だ。土地と文化に根ざし、自然と調和し、静けさを何よりも大切にする。その"静けさの美学"を体現する象徴のひとつこそ、アマンキラである。
滞在の間に感じたのは、観光地の喧騒から遠く離れた圧倒的なプライベート感。目の前に広がるのは、海とアマンキラだけ。時間の流れはゆるやかで、心は無心へと還っていく。高台から抜ける視界に、意識はほどけ、やがて再生へと導かれていく。ここは、わたしにとって"解放と再生の聖域"。必ず戻ってきたいと願う、秘密のリトリートである。
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エド・タートルが描いた、東バリのエレガンス
アマンキラを設計したのは、アマンを代表する建築家エド・タートル。近隣に残る王族のタマン・ウジュン水宮殿の優雅さ、そして古代村落テンガナンの「バレ・パンジャン」と呼ばれる細長い集会所──。そのふたつの源泉からインスピレーションを受け、彼は東バリの丘陵に歴史や伝統に敬意を込めた世界を築いた。
三層のプールは棚田の風景を思わせ、丘に沿って並ぶスイートは高床式で配置されている。ティーク材や火山石、茅葺屋根といったローカル素材の素朴な質感に、ホワイトの直線美が重なり、どこかギリシャ建築を思わせるエレガンスが漂う。
そして忘れてはならないのが、ロビーから宿泊棟へと続く象徴的な「階段」だ。白い階段は緑の間を縫うように配置され、まるで大きな彫刻のように風景に溶け込む。その直線のリズムは儀式的で、上るたびに"聖域へと導かれる"ような高揚感を覚える。タートルの哲学である「内と外の境界を曖昧にする美学」がここに凝縮されており、空間を詩的につなぐ神聖な導線となっている。
その空間に身を置くと、伝統とモダンが軽やかに交差するのを感じる。まさに"伝統とモダンのクロスオーバー"という今の気分に響くデザインだ。アマンが大切にする「土地と文化に根ざす」という思想と、タトルの哲学が共鳴することで、建築そのものが文化体験となっている。
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アマンがビジターを虜にする、3つの理由。
ただのラグジュアリーではなく、心を捉えて離さない何かがある。その本質を映し出す三つの断片を、ここで綴ってみたい。
まず惹かれるのは、土地ごとに異なる唯一無二の表情。ウブドのアマンダリは村落を模した伝統美、アマンキラは海に溶け込む白のエレガンス──滞在するたびに新たな物語と出会え、世界中のアマンを巡りたくなる「アマンジャンキー」が生まれるのも納得できる。
次に印象的なのは、引き算の美学。モダンな白や直線美に、土地の素材や職人技がさりげなく重ねられ、静けさを形づくっている。なかでも目を引いたのが、建築に溶け込むミラー。光や緑、そして自分の姿までも映し込み、空間に余白を広げていた。伝統とモダンが交差するスタイルは、アマンらしいラグジュアリーを象徴している。
そして最後に心をほどいたのは、「何もしない贅沢」。部屋のバルコニーからは、どこまでも続くターコイズの海。吹き抜ける風に身を委ねれば、時間はただ静かに解けていく。そして丘を下った先のプールは、レストランも併設された"隠れ家"のような存在。喧騒から遠く離れ、ただ海と自分に還るひとときを与えてくれた。
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滞在のハイライト、心に残る瞬間たち
到着すると、村の子どもたちが笑顔で迎えてくれる。バリ舞踊と伝統菓子の甘い香りに、旅の始まりからこの土地の温度が染み込んでいく。
部屋に戻ると、ベッドには毎晩違うギフトがそっと置かれていた。アマンキラは東バリの自然と深く結びついており、ターンダウンの際に、この土地ならではの恵みを小さな贈りものにして届けてくれる。
1日目は「花とスパイスのポプリ」。香りは記憶を呼び覚まし、滞在の余韻を旅のあとまで運んでくれる。麻の巾着に包まれたナチュラルな仕立ては、"サステナブル × ラグジュアリー"というアマンキラらしさを映していた。
2日目は「スサンバの海塩」。太陽と風の力で乾かす伝統製法でつくられ、バリでは浄化や繁栄の象徴とされてきた。ベッドに置かれた塩はまるで"海の浄化の力をおすそわけ"するようで、心にそっと寄り添ってくれる。
自然の香りと恵みを託したこの贈りものは、アマンキラ=「平和なる丘」という名にふさわしく、癒しの世界観を象徴する心に残るおもてなしだった。
客室は高台へと続く階段を上った先にあり、バルコニーからは海と山が一望できる。潮風が頬をなで、心がふっと浮かぶような感覚に包まれる。
室内はコンパクトながらも洗練され、アーチ窓やゴールドとブラックのランプがモダンなアクセント。
窓辺のバスタブに身を沈め、風景と一体になって過ごす時間は、なによりの至福だった。
食事は7つのダイニングで楽しめる。海を一望できるメインダイニング「Sandikala」では肩の力を抜いてロマンティックなディナーを。プールサイドの「Terrace Bar」では朝の光を浴びながら新鮮なフルーツを味わい、「The Beach Club」ではバリの郷土料理に舌鼓を打つ。どれもゆったりとした時間の流れに寄り添ってくれる。
朝は三層プールの上で行われるモーニングヨガから始まる。海のきらめきと一体になりながら呼吸を整えると、心身が澄みわたり、1日が清らかにほどけていく。
アマンキラでの癒しは、特別な施設よりも、空間のゆとり、時間の流れ、そして自然の存在そのものに宿っていた。ゲストが最も心に残すのは、地元の文化や人とのふれあい、海と山を巡るアクティビティ、そして三泊以上で体験できる「浄化の旅」といったリトリートプログラム。どれも、自分を自然に還すための贅沢なひとときだった。
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自然がヒーラー──海の時間。
アマンキラの癒しは、ただの"海の景色"ではない。観光地化されていない土地の静けさ、白を基調とした壁のない建築の抜け感、そしてミニマムなインテリア──そのすべてが、海とともに呼吸するように設計されている。
敷地に点在する広いプール、フレンドリーなスタッフの温かな笑顔。そこに流れるゆったりとした時間と、高台から吹き抜ける海風が、到着した瞬間から心のこわばりをほどき、解き放ってくれる。
帰る頃には、余計なものを削ぎ落とし、本来の自分に戻っている。まるで、自分だけのプライベートな聖域に身を置いたような、そんな感覚を与えてくれる隠れ家──それがアマンキラだった。
Amankila
1室2名 1,331USD〜(税・サービス料込)
Manggis, Karangasem, Bali, Indonesia
https://www.aman.com/amankila
問い合わせ:アマン共通日本語フリーダイヤル
Tel:0120-951-125(月〜金、10時〜17時)
海のアマンキラに抱かれたあとは、森のアマンダリへ。
対をなすふたつの聖域をめぐる"アマンホッピング"の旅は、片方だけでは完成しない。
アマンダリの滞在記『森と雨に包まれて、素の自分に還る。静けさを贅沢とする原点──バリ島ウブドの森に抱かれるアマンダリへ!』もあわせてチェックして。
photography, movie, text: Kaori Nakamura