【犬島】岡山の小さなアートの島で自然とアートの共生をひと巡り。
Travel 2025.10.10
犬島 くらしの植物園 自然に囲まれ、花のようなパビリオンでひと休み。 photography: Kenta Kawagoe
採石場と銅の精錬で歴史的に知られ、やがて産業の衰退とともに2008年には人口約40人、平均年齢70歳となっていたという瀬戸内海の犬島。同年その精錬所跡地に、ベネッセアートサイト直島を運営する福武財団が犬島精錬所美術館をオープンした。さらに、世界的建築家の妹島和世とアーティスティックディレクターの長谷川祐子を招き、犬島の集落を中心としたアートや建築による地域づくりがスタート。2010年から順次、名和晃平やオラファー・エリアソンなど国際的なアーティストが手がける犬島「家プロジェクト」が始動し、来訪者を魅了し続けている。
名和晃平によるF邸は周囲の風景を含めてビッグバンを中心とする生物相に見立てた作品。 犬島「家プロジェクト」F邸 名和晃平『Biota (Fauna/Flora)』2013 photography: Takashi Homma
オラファー・エリアソンによるI邸。3つの鏡と2方向に開かれた窓の風景がある一点で結びつき、来場者は無限ループのトンネルの中間にいるような体験を得る。 犬島「家プロジェクト」I邸 オラファー・エリアソン『Self-loop』2015 photography: Yasushi Ichikawa
今夏、現代文化を支援し続けるプラダと妹島和世のコラボレーションによる「犬島プロジェクト」を記念し、「犬島 くらしの植物園」に妹島設計の花のような形の常設パビリオン「HANA」が寄贈された。「自然が豊かで小さな島、犬島では、歴史、建築、芸術、そして日常生活が融合した風景、すなわち"共生"に出合い、体験できる」と語る妹島は、このプロジェクトを通じて新たな価値観の創造が進むことを期待する。世界各地からアートラバーが訪れる直島だけでなく、瀬戸内の島々にはいくつものユニークな作品が常設されている。なかでも少し足を延ばせば半日で巡ることができる犬島は、豊かな自然とアートが呼応する「小さな桃源郷」。島の歴史を越えて再生され、有機的に生成されていく未来型の環境モデルとしても注目したい。
目 [mé]の荒神明香によるS邸。約4000個のレンズがもたらすトンボのような複眼性が非日常的な視覚体験に誘う。 犬島「家プロジェクト」S邸 荒神明香『コンタクトレンズ』2013 photography:Takashi Homma
ブラジル出身の作家ベアトリス・ミリャーゼスによるA邸。円環状の空間を仕切るガラス板には生命のエネルギーに満ちた花や波が描かれている。 犬島「家プロジェクト」A邸 ベアトリス・ミリャーゼス『イエロー フラワー ドリーム』2018 photography: Yoshikazu Inoue
SANAA共同創設者である建築家・妹島和世は、プラダとの協働による「犬島プロジェクト」を通して、犬島の環境に抱く独自のビジョンを今後も実現していく。 ©Prada
小さいけれど凝縮された「アートの島」犬島。2008年に開館したこの島で最初の施設、犬島精錬所美術館を瀬戸内海から望む。 犬島精錬所美術館 アート:柳幸典 建築:三分一博志 photography:Daici Ano
妹島和世が設計し、プラダが寄贈した常設パビリオン「HANA」とSANAAのシグネチャーチェアが今夏より公開されている。瀬戸内国際芸術祭2025秋会期中、次回は10月にアーティストの小牟田悠介、明るい部屋、妹島和世建築設計事務所による参加型ワークショップ「手入れのリレー/Reflect」も開催。
岡山県岡山市東区犬島50
086-947-1112(犬島精錬所美術館)
開)10:00~16:30
休)火~木(3月~11月、ただし祝日の場合は開館)、1月、2月、12月
入場無料
https://benesse-artsite.jp/art/lifegarden.html
自然界と共振し、成長していくアート。
妹島和世と長谷川祐子が始動した犬島「家プロジェクト」の特徴は、"成長していくプロジェクト"であることだ。島をひと巡りして海に抜けていくルートを辿ると、それぞれの作品が環境と呼応しながら一連の物語を紡いでいくことがわかる。常設でありながら、時を経て変化を遂げ、生命の展開を見せる作品群は自然界の有機的なサイクルと共振するかのよう。
岡山県岡山市東区犬島
086-947-1112(犬島精錬所美術館)
開)10:00~16:30 ※チケットセンターは9:00~17:00
休)火~木(3月~11月、ただし祝日の場合は開館)、1月、2月、12月
料)オンライン購入¥2,100、窓口購入¥2,300
※犬島精錬所美術館と共通
※15歳以下無料
https://benesse-artsite.jp/art/inujima-arthouse.html
*「フィガロジャポン」2025年11月号より抜粋
text: Chie Sumiyoshi