新エトワールと芸術監督がもたらす、パリ・オペラ座の新しい風 研鑽を続け、自ら道を開き、最高位を掴んだマルク・モロー。

Paris 2023.09.05

昨年12月に就任したジョゼ・マルティネス芸術監督が、早々と3名のエトワールを任命。若手の登用も積極的に行う監督のもと、フレッシュな活気が漲り、オペラ座に新黄金時代の到来の予感が。


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©James Bort/Opéra national de Paris

マルク・モロー|Marc Moreau
1986年、大西洋岸のロワイヨンに生まれる。98年からパリ・オペラ座バレエ学校に学び、2004年に入団。カドリーユ時代にバンジャマン・ミルピエの『Triade』の創作に参加する。09年にコリフェ に上がり、翌年AROP(パリ・オペラ座振興会)賞を受賞。11年にスジェ、19年にプルミエ・ダンスールに昇級し、23年3月2日、公演「ジョージ・バランシン」で『バレエ・アンペリアル』を踊りエトワールに任命された。

 

オペラ・ガルニエのステージで公開クラスレッスンが行われた際、控えめに目立たぬ場所にいながらも、背筋がすっと伸び、とてもノーブルなバーレッスンで光を放っているダンサーがいた。マルク・モローだ。エトワールの品格とはこれか、と唸らせる瞬間だった。

3月2日のエトワール任命はマルクにとっては驚きそのものだったが、リハーサルスタジオでの彼の熱心な仕事ぶり、舞台の出来栄えを確認していた芸術監督には当然のことだったのだ。

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モーリス・ベジャールの男性デュオ『さすらう若者の歌』のリハーサルより。ダンサーとしての成熱を役に込めたステージを作り上げた。©Julien Benhamou/Opéra national de Paris

「36歳を迎えてから、任命への期待が自分の中で薄くなっていました。プルミエ・ダンスールとして踊りたい作品に配役されているんだから、いいさ!と満足し、日々の仕事にシリアスに根気強く取り組んでいて……。この任命にはカンパニーの団員全員への『何事も諦めるな、エトワールの可能性があるのだ』という希望のメッセージが込められていますね。任命の晩、僕のこれまでの仕事が認められたことを誇らしく感じ、支えてくれた家族やコーチたちのことを思いました。目標にいたるという使命を果たし、ある種、肩の荷を下ろせた気持ちもありました」

任命の喜びの涙の裏を語る彼。カドリーユ時代にバンジャマン・ミルピエに見いだされ、彼の作品に重用される一方、けがで1年の休業があり辞めることも考えた時期がある。今日にいたるまで起伏に満ちた長い道のりだっただけに、褒美の味わいは格別だ!と顔をほころばせた。任命の瞬間をともにしたオニール八菜、任命後『さすらう若者の歌』で共演したギヨーム・ディオップ。彼らと強い絆で結ばれていると感じ、自分たち3名を〝エトワール・マルティネス”と表現した。

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任命劇は2作品の公演で1作目を踊り終わった直後。幕間の後、2作目の『フー・ケアーズ?』が彼のエトワールとしての初ステージとなり、喜びと解放感あふれる踊りを見せた。©Agathe Poupeney/Opéra national de Paris

ここ数年の間でコンテンポラリーダンサーとして彼が強烈な印象を残した作品のひとつにシディ・ラルビ・シェルカウイの『Faun(牧神)』がある。過去に見て深い感動を覚えた作品で、「自分がこれを踊れないなんて問題外だ!」と配役されるよう手を尽くした。また今年の「パトリック・デュポンへのオマージュ」の公演にしても、デュポンの『白鳥の湖』を見てクラシックダンサーを志した自分ゆえ、この公演にぜひ参加したいと希望したところ、『エチュード』、さらにデュポンがエトワールに任命された『ヴァスラフ』も踊ることに。

「僕、目標があるとけっこう頑固者なんですね。実は昨年末の『白鳥の湖』のプリンス役の配役にしても、そう。コンテンポラリー作品を多数踊り、素晴らしい出会いと喜びに恵まれたけれど、キャリアが終わろうとしているいま、ヌレエフの古典大作をぜひ踊ってみたい、僕はできる!って名乗り出ました」

幸運にもチャンスが与えられた。抜擢の信頼を裏切ることなく全身全霊を込めて踊り、クラシックダンサーとしての卓越をマルティネス芸術監督に納得させることができたのだ。ごく少数だけが到達できるエトワールとなり、カンパニーの若いダンサーから向けられる視線に、模範たることを意識させられるという。仕事においても人間関係においても、非の打ちどころのない存在でいる責任をプレッシャーとともに受け入れている。

「定年の42歳まで6年しかないのではなく、まだ6年ある! 身体が許す限りクラシックを踊りたいですね。オペラ座で僕は夢を生きています。どんなに仕事が大変でも、この類稀な素晴らしいメゾンでのあらゆる一瞬を余すことなく享受していくつもりです」

*「フィガロジャポン」2023年9月号より抜粋

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editing: Mariko Omura

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