世界で最も観客動員数の多い映画館はパリにある!? その秘密とは?
Paris 2025.08.02
歴史ある映画館が続々閉館、一方、鑑賞無制限パスは人気上々。
「85年の歴史に幕を閉じる、シネマ・ミラマール」というニュースを6月に耳にして、「やはりここもか」と寂寞の念を覚えたパリのシネフィルは多いだろう。コロナ後のこの数年、シャンゼリゼ大通りの大型館も次々と閉館し、「シネマ都市パリでも映画館の時代は終わるのか」といったニュースが相次いでいる。だが、現実はそれほど単純ではない。
6月9日に閉館したモンパルナスの繁華街にあったミラマールは空っぽで暗いまま。
世界で最も観客動員数の多い映画館は、実はパリにある。1995年、レ・アール駅直結の地下モールに誕生したUGCシネ・シテ・レ・アールだ。地下都市のように広がる巨大シネコンで、27のスクリーンに約3800席。年間500本以上の多彩な作品を7万回以上上映し、年間観客数は約300万人。ソウルのロッテシネマ・ワールドタワーやニューヨークのAMCエンパイア25を大きく引き離している。
この人気の要因のひとつが、2000年にUGCが始めた月額制の「UGCイリミテ(無制限)」パスだ。現在、1人用が月23.90ユーロ、名義人+同伴者用が39.90ユーロ、ほかにもウィークデイのみ、週末のみいずれも19.90ユーロなどがあり、全国500以上のスクリーンで毎日何本でも映画が観られる。かつては競合他社の反発で一時中止されたが復活し、誕生25年を祝ったいまも健在だ。業界トップのパテ系も「シネパス」の名で後に追随した。
世界最高の動員数を誇るシネコンのUGC シネ・シテ・レ・アール。朝9時から深夜まで上映がありフードコートも隣接。photography: Alain Potignon, ©UGC
「UGCイリミテ(無制限)」パスの1人用、週7日いつでも何回でも使える23.90ユーロのカード。ほかに2人用、月~金曜日、金~日曜日、26歳未満、4人用の家族パスなどがある。photography: Alain Potignon, ©UGC
月2回通えば元が取れる気軽さもあり、いまや映画パスはシネフィルの常識。クリスマスや定年退職者への定番プレゼントにもなり、政府が新成人に贈る300ユーロの「カルチャーパス」の使い道としても、漫画本に次いで人気が高い。
シネコンはしばしば芸術映画の敵と見なされがちだが、実際にはスクリーン数の多さを生かし、ハリウッドの大作や王道のフレンチコメディから世界各地の多様な作品まで幅広く上映している。UGCでは観客の約25%がこのパスの利用者だという。
歴史ある映画館が一様に衰退しているかというと、そうとも言えない。UGCやパテのパスが使えるよう提携している独立系映画館が、パリ市内だけで25館あるのは心強い動きだし、昨秋開館した高級志向のパテ・パラスでは、追加8ユーロでパス入場が可能だ。さらに、かつて日光東照宮を模した建築で知られた名映画館のラ・パゴッドも10年前の閉館を経て再開に向けた大規模修復工事が進んでいる。映画館は形を変えながらも、パリで確かに生き続けている。
業界最大手のパテグループがリュクスな映画館として昨年オープンしたパテ・パラス。音響、映像、座り心地が最高レベルで、コンシェルジュサービスなども高級ホテル並み。photography: ©Joan Bracco
ライター、コーディネーター、通訳。パリ郊外在住。夫名義の2人用UGCイリミテパスで、月に4~8本の映画を観る。迷わず何でも観られて世界が広がるのがパスの醍醐味。
●1ユーロ=約172円(2025年8月現在)
*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋
text: Izumi Fily-Oshima