『ルイ・ヴィトン アール・デコ』展で、1925年からいまに向かう旅に出よう。
Paris 2025.10.13
1925年にパリで開催された『現代装飾美術・産業美術国際博覧会(通称アール・デコ博)』の100周年を祝う今年。パリ装飾美術館で10月21日から開催される『アール・デコ 100年』展が期待を集めているが、それに先立ってルイ・ヴィトンのLV Dreamで9月26日から没入型の『ルイ・ヴィトン アール・デコ』展が始まった。最終日は未定だが2026年に入っても続くという。冬休みのパリ滞在の予定に組み込んでみては?
LVドリームで開催中の『ルイ・ヴィトン アール・デコ』展。左はガストン-ルイ・ヴィトンが受け取った記念証書。©Louis Vuitton Malletier
展示されているのは初公開品を多数含む300点で、8章で構成されている。展覧会はタイトルにあるようにルイ・ヴィトンとアール・デコの結びつきを軸にし、同時に革新的かつ芸術的なビジョンの持ち主だった3代目、つまり創業者の孫のガストン-ルイ・ヴィトン(1883-1970年)がこの時代に発揮したヴィジョネアぶりにもスポットを当てている。
20世紀初頭、彼が指揮をとり、ルイ・ヴィトンのデザインに応用美術が取り入れられるようになった。ピエール-エミール・ルグラン、カミーユ・クレス-ブロティエ、ガストン・ル・ブルジョワといったアーティストやデザイナーとのコラボレーションを行い、「エディシオン・ダール」として発表されたこれらのパートナーシップは1925年の展覧会でのルイ・ヴィトンのプレゼンテーションとして実を結び、高い評価を受けたのだ。
100年も前に開催されたアール・デコ展を想像するのは、なかなか難しいことでは? この展覧会の第2章の展示室「1925 : The Louis Vuitton Consecration(1925:ルイ・ヴィトン、その偉業)」では、1925年に会場のひとつだったグラン・パレ内に設けられたレザーグッズと旅行鞄を展示するクラス9に、ルイ・ヴィトンが出展したブースをアーカイブの写真を元に忠実に再現。当時撮影された写真、そしてジオラマの前には展示された品と販売された品を仔細に記した立派な台帳も展示している。万博では各分野においてグランプリなど賞が決定されていたが、このアール・デコ展でガストンは博覧会の組織に関わっていたためにルイ・ヴィトンは受賞レースには参加していない。その代わり、組織参加の記念証書とメダルをガストンは受け取ったのだ。それらもこの会場で1925年アール・デコ展のポスターや会場パンフレットなどとともに見ることができる。
1925年に開催された『現代装飾美術・産業美術国際博覧会(通称アール・デコ展)』におけるルイ・ヴィトンのスタンドの再現。©Louis Vuitton Malletier
博覧会の写真。ここに見られるシューズ・トランクやワードローブ・トランクなども今回の展覧会で展示されている。©Louis Vuitton Malletier
左:『現代装飾美術・産業美術国際博覧会』のポスター。 右:1925年アール・デコ博の記念メダル。photography: Mariko Omura
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展覧会は展示室「Family Heritage(ヴィトン家のヘリテージ)」からスタート。1859年にルイ・ヴィトンがアニエールに建てた邸宅が紹介されている。展示の絵画、デッサン。写真からわかるように、邸宅の建築、室内装飾にはアールヌーボー色、芸術色が濃い。この展示室において、ガストンの創造性、美意識を育んだ芸術的環境に入り込むのだ。
左:写真は左から創設者ルイ・ヴィトン、2代目ジョルジュ・ヴィトン、3代目ガストン-ルイ・ヴィトン。1867年のトランク「グリ・トリアノン」には防水布が用いられている。その結果、蓋の部分を当時主流だった半月状ではなく平らにすることができたという画期的なトランクだ。 右:アニエールのヴィトン家のアール・ヌーヴォー装飾。photography: Mariko Omura
この章に続くのが先に述べたスタンドの再現である。ここで1925年にタイムトリップした来場者は第3室「Art Deco Manifesto(アール・デコ宣言)」で100年前に展示されたワードローブ・トランク、シューズ・トランクなどを鑑賞。次は「Elegance and Beauty at Louis Vuitton(ルイ・ヴィトンのエレガンスと美)」の部屋で、初期のルイ・ヴィトンのトイレタリーキットやグルーミングセットなどが展示されている。象牙のブラシなど26点を美しく収納したトイレタリー・セット「ミラノ」を始めとするそれら展示品を前に、どのように日用品が芸術的にルイ・ヴィトンでは表現されていたかに驚かされ、そして機能を備えた美しさに創業者ルイ・ヴィトンが優れたアンバラー(荷造り人)だったことを改めて思い知らされ......。
この部屋ではメゾンの顧客であり、アール・デコ期を代表するクチュリエのポール・ポワレとジャンヌ・ランバンにもオマージュを捧げ、彼らのクリエイションと彼らからの注文でルイ・ヴィトンが制作したビューティケースも展示。また、珍しいルイ・ヴィトンのエディション・ダールから、ピエール・エミール・ルグランがデザインしたとされる漆の赤と黒の化粧台も1点!
左がルイ・ヴィトンからピエール・エミール・ルグランに贈られた家具。その右にジャンヌ・ランバンによるドレスと、彼女のために作られたトイレタリー・セットを展示。©Louis Vuitton Malletier
ガストンのアイデアによる化粧台の広告が、ルイ・ヴィトンのギフトカタログに載った。©Louis Vuitton Malletier
左:象牙素材を用いたブラシとシルバー×クリスタルのボトルなど26点を収めた「ミラノ」。ブラシ類は毛先がどこにも触れないよう緻密に設計されている。©Louis Vuitton Malletier 右:1924年のルイ・ヴィトンのカタログより。©Louis Vuitton Malletier
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カラフルでグラフィカルな5つ目の展示室は「The Art of Windows(ウィンドウ・アート)」。ルイ・ヴィトン ビルディングと呼ばれるシャンゼリゼ大通り70番地のフラッグシップ ストアへようこそ、と迎えられる。1914年、第一次大戦開始の直前にオープンされた店で、時代ゆえ建築スタイルはアールヌーボーだった。ガストンはこのビルのウィンドウデザインを担当。1925年から31年の間に残した8冊のデッサン帳や水彩のデッサンなどを展示している。
第5展示室「The Art of Windows(ウィンドウ・アート)」。©Louis Vuitton Malletier
ウィンドウを飾る商品の魅力を最大に引き出す照明と構成が生かされた彼のディスプレイのアイデアは、シンメトリーでとてもグラフィック。会場では彼のデッサン通りに作り上げられたウィンドウのモノクロ写真とカラーのデッサンを合わせ鏡のように見せている。1950年頃のソフトレザーとキャンバスを使ったバッグ「シャンゼリゼ」の展示も見逃せない。
左:シャンゼリゼ・バッグ。 右:このデッサン通りに仕上げられたウィンドウの写真と向かい合う展示。photography: Mariko Omura
この続きは「Colours, Forms and Materials(色彩、フォルム、素材)」で、横長のウィンドウに20年代と最近のクリエイションをミックスした展示。いかにアール・デコがいまの時代にインスピレーションを与えているかを物語っている。
1920年代からいまに至るカラフルなクリエイションを、「Colours, Forms and Materials(色彩、フォルム、素材)」で。©Louis Vuitton Malletier
次は一転してモノクロームの世界だ。「From Drawing to Advertising : the process of creativity(ドローイングから広告へ:創造のプロセス)」をテーマに、ガストンがオブジェのデザインから販促物まで、クリエイティブにまつわる全プロセスを監修してきた様子を紹介するもの。ガストンに広告部門を託したのは、彼の才能を見抜いた父ジョルジュの采配だったそうだ。アール・デコ・スタイルの特徴である雲や八角系のモチーフ、ガストンがデザインしたボトルなどが格子のようなディスプレイに並んでいる。
左:「From Drawing to Advertising : the process of creativity(ドローイングから広告へ:創造のプロセス)」より。photography: Mariko Omura 右:1925年の博覧会のフランス委員会におけるエディション・ダール・ルイ・ヴィトンの広告。©Louis Vuitton Malletier
最終章は「Beauty in Travel(旅における美しさ)」。長い廊下の奥に、会場に汽車が登場した驚きの2012年のデフィレからのコートが。ここはアール・デコの国際的影響を豪華列車、大西洋横断客船などの交通機関の魅力を通して見せる章だ。1920年代のアーカイブピースと共に展示されているのは、ニコラ・ジェスキエールやファレル・ウィリアムスなどによる2020年代のルック。アール・デコがいまの時代も大きなインスピレーション源を示して、展覧会が締めくられる。
ウィメンズ アーティスティック・ディレクター ニコラ・ジェスキエールによるニューヨークのアール・デコ建築から着想を得た2020クルーズ・コレクションより。©Louis Vuitton Malletier
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展覧会の鑑賞後は上のフロアのル・カフェ マキシム・フレデリック アット ルイ・ヴィトンへ。パティスリーだけでなく軽食、カクテルなどが揃えられていて、展覧会の余韻にゆったりと浸りながら美食の旅時間が過ごせる。ギフトショップも併設されているので、チョコレートやコレクターズアイテムの買い物を楽しんでは?
©Louis Vuitton Malletier
セーヌ河を眼下に眺めながら、ティータイム! シェフパティシエの名を冠したル・カフェ マキシム・フレデリック アット ルイ・ヴィトンは毎日11時~19時の営業。©Louis Vuitton Malletier
開催中~終了日未定
LV Dream
26, Quai de la Mégisserie
75001 Paris
開)11:00~20:00
休)月
入場無料
予約はこちらから
★Google Map
editing: Mariko Omura