オルセー美術館でサージェント展、140年後も『マダムX』は注目の的。

Paris 2025.12.10

画家のJohn Singer Sargent(ジョン・シンガー・サージェント/1856~1925年)が1884年にパリのサロンに出品した肖像画『マダムXの肖像(Madame X)』は、官能的すぎるなどと物議を醸した。18歳の時に絵画を学びにイタリアからやってきた愛するパリであるが、そのスキャンダルから逃れるように彼は1880年代の半ばにロンドンへと引っ越すことになる。その地で画家活動を続けて69歳の時に彼が亡くなったのは、パリ中が現代装飾美術・産業美術国際博覧会(通称アール・デコ展)で沸き立ってた時だった。アール・デコ展100周年を祝う今年は、彼の没後100周年でもある。それを記念して、オルセー美術館では90点近い作品を展示して、『ジョン・シンガー・サージェント パリを幻惑』展を開催中だ。

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左:『John Singer Sargent Eblouir Paris』展のポスター。開催は1月11日まで。 右:ジョン・シンガー・サージェントによる30歳の時の『自画像』(1886年)。photography: 右 © Aberdeen City Council (Archives, Gallery & Museums Collection)

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ジョン・シンガー・サージェント『Dans le jardin du Luxembourg』(1879年)。展覧会中、パリを描いた唯一の作品だ。Collection John G. Johnson Collection, 1917, The Philadelphia Museum of Art photography: © The Philadelphia Museum of Art


展覧会場で人々が足を止めるのは彼が28歳の時に描いた肖像画『マダムXの肖像』の前であるのは、想像に難くないだろう。この作品が引き起こしたスキャンダルを知る人はもちろん、知らなくてもこの絵の持つ魔力に惹きつけられて。そこに描かれている25歳の女性はヴィルジニー・ゴートロー(1859~1915年)だ。移民先のニューオリンズに生まれたフランス人で、8歳の時からフランス暮らしを始め、実業家ピエール・ゴートローと結婚。パリのハイソサエティでもてはやされるその類稀なる美しさに魅了されたサージェントは彼女を説得し、長い期間をかけて肖像画を完成させた。当時の肖像画のスタイルと異なり、15世紀のイタリア美術を彷彿させる横顔の肖像画であることに加え、ドレスの深く開いたデコルテ、白い肌、濃い化粧、それに加えてドレスのストラップの右側が肩からずり落ちていたこともあり、官能的すぎるとこの肖像画はフランスの美術界にざわめきを起こすことになる。その後彼は右側のストラップを正常な位置に描き直し、彼女の死後にメトロポリタン美術館に売却するまで自分のスタジオで大切に保管していた。これこそが自身の最高の作品だったと、彼は語ったそうだ。

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1884年、パリ17区のベルティエ通りのアトリエにて撮影されたサージェント。雛人形などが飾られ、ジャポニスム真っ盛りの時代だ。photography: © The Metropolitan Museum of Art, dist. GrandPalaisRmn / image Art Resource

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『マダムXの肖像』の習作(未完の複製)。photography: © The Metropolitan Museum of Art, Dist. GrandPalaisRmn / image Art Resource

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左:『ゴートロー夫人』の習作。1884年ごろ。photography:© Tate 右:『マダムXの肖像』とも呼ばれる『......夫人の肖像』(1883〜84年)。1884年のサロンでの展示が人を集めたように、オルセー美術館でもこの作品の前には常に大勢の鑑賞者が。photography: Mariko Omura

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カロルス・デュランに師事するべく、1874年に生まれ故郷のイタリアからパリにやってきたサージェント。イントロダクションにつづき時代順に展開する展覧会は、"非凡な生徒"と称されたこの時期の作品からの展示でスタートする。ついで、「サージェント、パリと世界」(旅の絵画)、「肖像画家サージェント」(スキャンダルの成功:マダムXの肖像。友人とアーティストの肖像画)、「パリ以降、サージェントとフランス」があり、エピローグは「鮮やかなる復讐」だ。彼が才能を発揮したのは肖像画だけに限らず。20世紀に入ってから力を入れたのは風景画だったという。それも含めて、サージェントという画家の仕事の発見を楽しみたい没後100周年展覧会だ。

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最初のテーマ「カルロス・デュランの非凡な生徒」から。当事写実主義の画家、肖像画家として高い評価を得ていたデュランに画家を目指すサージェントは師事を仰いだのだ。左:『男性モデルの肖像画』(1878年ごろ)photography: © Houghton Hall 右:『Ombre et lumière』(1874~1877年ごろ)。The Ömer Koç Collection photography: © Hadiye Cangökçe

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2つ目のテーマである"パリと旅"の部屋。中央の『En route pour la pêche』(1878年)の魅力も前でも大勢が足を止める。photography: ©musée d'Orsay -L.Striffling

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『Intérieur vénitien』(1880~1882年ごろ)。ヴェニスにて。photography: © Carnegie Museum of Art, Pittsburgh, PA / Art Resource, NY

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歴史を主題に選ぶのを拒み、若きサージェントは写実主義派へと。イタリア、モロッコ、スペインなど欧州各地を旅し、作品を残した。上記3点はイタリアのカプリにて。photography: Mariko Omura

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『マダムXの肖像』も含め、肖像画家としてのサージェントの仕事を紹介する部屋から。Edward Darley Boitの4〜14歳の子どもたちを描いた作品(1882年)。マドリードの美術館で仔細に研究したというベラスケスの『ラス・メニーナス』の影響が見て取れる。 photography: ©musée d'Orsay -L.Striffling

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エドゥアール・パイユロンとマリー=ルイーズ・パイユロンの肖像画(1880〜81年)。サージェントの作品ではディテールにも注目したい。photography: Mariko Omura

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"パリ以降、サージェントとフランス"の部屋より。『Fête familiale 』(1885年)。photography: © Minneapolis Institute of Art

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エピローグの部屋に、1892年のサロンに出品されたジョン・シンガー・サージェント『ラ・カルメンシータ』(1890年ごろ)。photography: 左 © musée d'Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / Patrice Schmid、右 Mariko Omura

『John Singer Sargent, Eblouir Paris』展
Musée d'Orsay
Esplanade Valéry Giscard d'Estaing
75007 Paris
開)9:30~18:00(火、水、金~日)、9:30~21:45(木)
休)月
料)16ユーロ
https://www.musee-orsay.fr/fr
@museeorsay

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editing: Mariko Omura

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