パリ・オペラ座の新シーズン、POPも含めて知っておきたい話題は?

公開リハーサルの復活。

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10月24日から公演が始まった「ジェローム・ロビンス」のトリプルビルで踊られる『イン・ザ・ナイト』。3カップルのパ・ド・ドゥで構成されている。photos:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

ブリジット・ルフェーヴル芸術監督時代、バスティーユの地下ホールでPassport、Plein Feuという名称で不定期に開催されていた公開リハーサル。監督が変わり、バンジャマン・ミルピエ時代、オーレリー・デュポン時代には行われていなかったが、それをジョゼ・マルティネス芸術監督が復活した。その「Répetition Publique」の初回は10月14日、演目は『イン・ザ・ナイト』の3番目のカップルのパ・ド・ドゥ。ダンサーはブルーエン・バティストーニ(プルミエール・ダンスーズ)とトマ・ドキール(スジェ)だった。ガルニエ宮のスタジオで現在進められているリハーサルを観客の前でやってみせるという内容である。ダンサー2名(初回はブルーエン・バティストーニとトマ・ドキール)が実演し、コーチ(ジャン=ピエール・フロリッシュ)が直しを入れるという1時間で、以前と異なるのは、その後質疑応答の30分が設けられていることだ。また以前は無料だったが、今回からは有料で10ユーロ。予約はパリ・オペラ座のサイトか電話で行うのだが、最初に発表された3つの公開リハーサル日程については開始後まもなく満席となってしまった。その次10月21日に行われたのは、学校の生徒のリハーサルということもあってか無料開催だった。その次はイネス・マッキントッシュ(スジェ)とポール・マルク(エトワール)による12月2日の『くるみ割り人形』だ。イネスは9月末のエクサン・プロヴァンスでのツアーでエトワールのギヨーム・ディオップをパートナーに踊った『グラン・パ・クラシック』で、超技巧の中にもまろやかなエレガンス、音楽性、豊かな芸術性を感じさせて堂々たるステージを見せた。年末公演でもエトワールと組んで主役を踊るように、将来が楽しみなスジェのひとりである。

あいにくとこの12月2日の公開リハーサルもすでに満席。もっともサイトではソールドアウトになっていても、10月14日の場合当日購入が可能だった。今シーズン中、公開リハーサルはまだ何回か行われるようなのでオペラ座のサイトを気をつけて見ていよう。パリ滞在予定中にこの公開リハーサルをいちどでも見ることができたら、それは幸運なことでは?

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左: バレエ・ミストレスのサブリナ・マレムの進行で行われた公開リハーサル。バレエ・マスターのジャン=ピエール・フロリッシュの指導でリハーサルが行われた。ピアノは久山涼子。 右: 来場者からの質疑応答。子どもからの無邪気な質問にもトマ・ドキール(スジェ)とブルーエン・バティストーニ(プルミエール・ダンスーズ)はしっかりと答えていた。photos:Mariko Omura
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12月8日からオペラ・バスティーユで踊られる『くるみ割り人形』。12月2日の公開リハーサルで踊るイネスとポールによる本公演は12月11日、20日、23日。なお、ほかの配役はドロテ・ジルベール✕ギヨーム・ディオップ、ミリアム・ウルド・ブラム✕マチアス・エイマン、パク・セウン✕ジェルマン・ルーヴェ、マリーヌ・ガニオ✕マルク・モロー、エロイーズ・ブルドン✕トマ・ドキールだ。photo:Sébastien Mathé/ Opera national de Paris

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コンクール、今年は変革のトライアル。

世界のバレエ団の中でもパリ・オペラ座だけのユニークなシステムであるコール・ド・バレエの昇級コンクール。その起源は1860年。今年は11月9日(女子)、11月10日(男子)という日程が発表された。これに参加しないとカドリーユ、コリフェ 、スジェのコール・ド・バレエのダンサーは上のクラスに上がれない。参加者はクラシックの課題曲と自由曲のふたつを審査員の前で踊って見せるのだが、コンテンポラリー作品を多く踊る入団後8~10年といったダンサーたちは棄権しがちな傾向がある。バンジャマン・ミルピエ前々芸術監督はコンクールの廃止を検討したが、団員たちの希望で続行されることになった。コンクールの開催時期はシーズン開幕後で公演が続き、年末公演のリハーサルも始まっている時期なので参加するダンサーたちの仕事の負担はとても大きい。とりわけドゥミ・ソリストとして舞台に立つ人もいるスジェのダンサーたちは、コンクールの時期は仕事量も時間のやりくりも大変なのだ。

今年のコンクールではスジェの昇級試験は行われず、シーズン末までにエトワール同様の任命形式で行われることが10月に正式発表された。その背景を以下に少しだが紹介しよう。ジョゼ・マルティネス芸術監督は6月に行われた「フィガロジャポン」本誌のインタビューで、「ふたつのヴァリアションの準備を毎晩公演のある時期に用意しなければならず、コンクールはダンサーにとって大変なことです。プルミエ・ダンスールに誰が?というのは、スジェのダンサーが踊るのは公演で見ることができるので昇級試験は必要とはしていません。だからプルミエについてもエトワールの任命と同じようにできるのではないかと思ったのです。もしダンサーたちも変えたいと願うのであれば、です。僕は強いることはしたくないので、これについてはダンサーたちに討議を任せ、彼らの希望を聞くのをいま待っているところです」と語っていた。その結果がこのトライアルとなったわけだ。彼がこのアイデアを思いついたのは、監督就任後にダンサーのひとりずつと面談をした際に、負担の大きなコンクール体験の大変さを多く耳にしたことからのようだ。なおプルミエの任命については今シーズンにおける実験ということで、来シーズン以降どうなるかは今シーズン終了後に決定される。

7月に配役が発表された『くるみ割り人形』『リーズの結婚』『ドン・キホーテ』に何人かのスジェが主役に配役されているのは、その布石だったのか、と思わずにはいられない。なお今年の空席ポストは、コリフェが女性5席、男性6席。スジェが女性3席、男性4席である。この結果はコンクール終了後のお楽しみに!

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マルティネス芸術監督の配役妙技“NN”。

3月に行われた新シーズンのプレス発表時、マルティネス監督は「ロイヤル・バレエ団より先に配役を発表するようにします」と言って会場を笑わせた。これまではリハーサル中のダンサーの怪我による降板などを鑑みて、公演開始のぎりぎりまで日程ごとの配役が公表されなかったのだが、ジョゼ・マルティネス芸術監督の就任以来、各公演の配役がオペラ座のサイトに早い時期に発表されるようになった。あいにくとダンサーが降板しないという保証はないのだが、マルティネス監督はそれに対応できるシステムを適応している。たとえば来年3月の『リーズの結婚』は日ごとの配役が7月頭に発表されたが、3月30日についてはリーズもコラスもダンサー名が“N.N(No Name)”となっている。4月の公演の『ドン・キホーテ』も同時に日ごとの配役が発表されたが、4月19、22、23日についてはキトリもバジルもNNだ。

先に全日配役を決めてしまうと、ダンサーの誰かが怪我をした場合、あちこちと日程と配役を動かす必要が出てしまう。NNがあると、ほかのダンサーの日程はそのまま、NNとなっているところに新しい組み合わせを持ってくるのだ。また代役に選ばれたダンサーたちがリハーサルを重ねて素晴らしい仕事をすることがわかれば、このNNが代役の公演日となることもある。しっかりと役に取り組んで稽古をしても、ダンサーが怪我で降板しない限りステージに立てるチャンスがなかった代役にとっては、限りなくモチベーションをかき立てられる仕組みでは?

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2024年3月14日から公演が始まる『リーズの結婚』。レオノール・ボラック✕ギヨーム・ディオップ、マリーヌ・ガニオ✕ジャック・ガツゥォット、エレオノール・ゲリノー✕マチアス・エイマン、ブルーエン・バティストーニ✕アントワーヌ・キルシェール、クララ・ムセーニュ✕アントニオ・コンフォルティの5組の配役の日程がすでに発表されている。phoro:Francette Levieux/ Opéra national de Paris
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2024年3月21日からオペラ・バスティーユで公演が始まる『ドン・キホーテ』。パク・セウン✕ポール・マルク、アマンディーヌ・アルビッソン✕ジェルマン・ルーヴェ、ヴァランティーヌ・コラサント✕マルク・モロー、ロクサーヌ・ストヤノフ✕トマ・ドキール、オニール八菜✕ユーゴ・マルシャン、ホヒュン・カン✕パブロ・レガザ、シルヴィア・サンマルタン✕フランチェスコ・ムラ、エロイーズ・ブルドン✕ジェレミー=ルー・ケールの8組の配役の日程がすでに発表されている。photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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オペラ座のPOP、9月からの新プログラムが充実。

パリ・オペラ座のデジタル・プラットフォーム「Opéra chez soi」が「POP(Paris Opéra Play)」と名称を変えたことはすでに紹介した通りだ。契約者でなくても開けるので、どんな内容なのかメニューからカタログをチェックしてみよう。視聴できるのはバレエやオペラの過去の公演ばかりではなく、9月の新作としてバレエのマスタークラスが登場。また学校関連では、『未来のエトワールたち』が3シーズンまるごと視聴できる。年契約だけでなく月契約(9.90ユーロ)もできるので、POP漬けの1カ月というのはどうだろうか。1週間の無料お試しもできる。

1. 未来のエトワールたち、あれから10年!

DVD化されている『未来のエトワールたち パリ・オペラ座バレエ学校の1年間』と『未来のエトワールたち2 パリ・オペラ座バレエ学校 あれから5年』。これに続く3シーズン目はまだDVD販売されていないけれど、この新シーズンの3つのエピソード“成熟の時”が9月からPOPで視聴(英仏語)可能となった。出演しているのは1本目ではまだ学校の生徒だったロクサーヌ・ストヤノフ、アントニオ・コンフォルティ、パブロ・ルガザ、アリス・カトネなど。2シーズン目はタイトルにあるように、1本目から5年が経過して生徒だった彼らはカンパニーの団員となっている。それからさらに5年後、つまり1本目から10年後の彼らを映像におさめたのがシーズン3で、15歳前後の生徒だった彼らはいまや25歳前後となりソリスト、ドゥミソリストとしてステージを務めるダンサーに成長した姿を追いかけたドキュメンタリーだ。

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最初の入団試験に落ちて涙を見せたロクサーヌ・ストヤノフ。いまはプルミエール・ダンスーズだ。

エピソード1ではプルミエ・ダンスールとなったパブロの『ロミオとジュリエット』でのマーキュシオ役の経験を見ることができる。ロクサーヌ・ストヤノフはローラン・プティの『ランデヴー』体験と、代役で終わってしまったが『若者と死』についての役づくりなどを語る。後者はこのシリーズのシーズン1から人気者となったアントニオ・コンフォルティが彼女のパートナーで、彼も彼女とともに登場。2020年の公演『若きダンサーたち』でアンジュラン・プレルジョカージュの『ロミオとジュリエット』を踊ったアワ・ジョアネについては、マリ国とのハーフである彼女がダイバーシティについて語る一方で、その稽古風景も見せている。

エピソード2はコンクールが主なテーマ。アリス・カトネ、マリオン・ゴティエ・ドゥ・シャルナッセ、クレマンス・グロ、イダ・ヴィイキンコスキー、アントニオ・コンフォルティが前シーズン同様に語り集う中、コンクールの準備風景の映像も含まれている。さらに10年前に生徒で出演し、いまは外部で踊り続けるオーバンが「大切なのはパリ・オペラ座の団員ではなく、踊ることだ」と締めくくる。エピソード3は10年前に学校で学んでいたクラシックバレエを離れ、コンテンポラリーに自分を見いだしているダンサーたちにフォーカスが当てられている。

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エピソード3より。シモン・ル・ボルニュはサバティカルイヤーをとり、TVの連続番組中で踊られるコンテンポラリー作品を創作、指導。

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2. POPの『ジゼル』マスタークラスでプロ気分。

9月の新作として、バレエのマスタークラスが。これまでにはなかったタイプのプロブラムが加わることになったのだ。これぞPOP契約者の特典だろう。3本あり、1本はバレエ団のメートル・ドゥ・バレエ、サブリナ・マレムが『ジゼル』の収穫のパ・ド・ドゥを3回に分けて指導するものだ。ダンサーはイネス・マッキントッシュ(スジェ)とナタン・ブリソン(カドリーユ)。2本目は2022年に引退したエトワールのステファン・ビュリオンによる『ジゼル』第2幕のパ・ド・ドゥマスタークラスである。この作品について複数のバレエマスターと仕事をし、異なるパートナーと踊ったというステファン・ビュリオンが毎回約30分で5回に分けて自分の経験を継承する。ダンサーはアリス・カトネ(スジェ )とアクセル・マリアーノ(スジェ)。11月2日から始まる3本目は、今年5月に引退したエトワールのアリス・ルナヴァンが第1幕と第2幕のヴァリアッションを見せる。指導者はモニック・ルディエール。なおPOPでは2020年に踊られたドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオの公演全編の視聴が可能だ。

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2024年5月2日から始まる『ジゼル』。期間中、英国ロイヤル・バレエ団のマリアネラ・ヌニェスがゲストで踊り、またエトワールのミリアム・ウルド=ブラームの引退公演が行われることが発表されている。photo:Agathe Poupuney/ Opéra national de Paris
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左: サブリナ・マレム。 右: イネス・マッキントッシュとナタン・ブリソン。
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左: ステファン・ビュリオン。 右: アリス・カトネとアクセル・マリアーノ。

editing: Mariko Omura

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