フランスの城を背景にエトワールが踊る! ユーゴの企画は大成功。

昨年6月3日に初の公演が行われた『Les Etoiles au château(レゼトワール・オ・シャトー)』。これはフランス国内に点在する歴史と建築の美しい遺産を背景に作り上げた舞台で行われるダンスのガラで、エトワールのユーゴ・マルシャンが発案者である。屋外の公演なので、開催は初夏から初秋にかけてに限られ、今年は9月14日、15日にシャトー・ドゥ・ディゴワンヌにて開催される公演が最後となる。この公演に間に駆けつけるのが難しくても、来年の開催に合わせてフランス旅行を予定してみるのは良いアイデアでは?

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7月21、22日に公演が行われたロワールのシャンボール城。1519年に建築が始まった城はルネサンス期の建築物の最高傑作とされている。photography: Mariko Omura
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城内には、フランソワ1世の紋章であるサラマンダーやレオナルド・ダ・ヴィンチの影響がうかがえる二重螺旋階段など多彩な見どころがあふれている。photography: Mariko Omura

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今年は6月8、9日に南仏の城Domaine de Fabrègues(ドメーヌ・ドゥ・ファブレーグ)が最初で、あいにくと9日は天候不順の時期で開始時間を3時間早めるという措置が取られた。野外公演の難しいところである。その次、7月21、22日はロワール渓谷の数あるシャトーの中でもレオナルド・ダ・ヴィンチの構想によると言われるルネッサンス建築の代表的存在で、規模と知名度を誇るシャンボール城においてだった。このレゼトワール・オ・シャトーはユーゴを含むパリ・オペラ座のダンサー6名、ピアノとチェロの奏者による公演という構成。昨年初回時に踊ったユーゴ・マルシャン×ドロテ・ジルベール、ジェルマン・ルーヴェ×レオノール・ボラック、マルク・モロー×ブルーエン・バティストーニが基本メンバーであるが、スケジュールの合わないダンサーがいれば柔軟に対応している。たとえばドメーヌ・ドゥ・ファブレーグの公演にはミリアム=ウルド・ブラームやオニール八菜が参加。またシャンボール城の公演はジェルマン・ルーヴェはオリンピック開会式の準備があり、レオノール・ボラックはガラで韓国へ、ということでリュドミラ・パリエロとマチュー・ガニオの組み合わせをユーゴはグループに招待した。ブルーエンが参加できない時はシルヴィア・サンマルタンがメンバーに加わることが多いようだ。

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この公演でユーゴとドロテは『マノン』第1幕のパ・ド・ドゥを踊り、『ル・パルク』(写真)で公演を締めくくった。途中ドロテはソロで『白鳥の死』も。photography: Edouard Brane
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『ダイヤモンド』でガラを開幕したリュドミラ・パリエロとマチュー・ガニオ。もう1演目はカロリーヌ・カールソンの『シーニュ』(写真)から。ふたりがこれを踊るのはこの公演が初めてだった。photography: Edouard Brane
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シルヴィア・サンマルタンはマルク・モローをパートナーにフレデリック・アシュトンの『ラプソディ』とジョージ・バランシンの『Who care's?』から「The Man I Love」(写真)を踊り、さらに『ライモンダ』第3幕のヴァリアションを披露した。photography: Edouard Brane
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ユーゴとリュドミラによるハンス・ヴァン・マネンの『3つのグノシエンヌ』。シャンボール城のガラは幕間なしの9演目というプログラムだった。photography: Edouard Brane

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毎回一律13ユーロに料金設定されていて、シャンボール城の公演も満員御礼だった。自由席なので開演1時間前には長蛇の列! 2回の公演の観客数は合計2600名だったそうだ。就学前の子どもたちも大勢で、小さな彼らは客席に座っていては舞台が見えないとあって中央の通路に座って鑑賞という、パリ・オペラ座では見られない実にリラックスした雰囲気の中での公演。毎回ではないが、若い観客とダンサーたちが話す機会をユーゴは設けていて、シャンボール城でも行われた。これはダンスという職業をより多くの子どもたちに紹介する機会でもある。「ダンスの公演が行われることのない地方へ、ダンスのほうから出向いてゆこう」というユーゴの社会的、教育的''野望''は、早くも大きな実を結びつつあるようだ。公演後はステージ脇に、ダンサーたちのサインと会話を求めて大勢の親子が集まった。日本ではおなじみだが、パリでは見られない光景である。フランスの地方の人々にとって、いまだバレエはエリートたちのもの、という考えが根付いているが、ユーゴのこのガラはこうした既成概念を取り払う役割も果たしている。スタートから2年目で、シャンボール城というフランスの偉大なる建築遺産を背景にガラが開催できたことは、彼の企画が成功したことのひとつの証だろう。

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見事な建築遺産を背景にして踊るレゼトワール・オ・シャトー。 photography: Edouard Brane
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観客席はシャンボール城のフランス式庭園内だった。photography: Edouard Brane

2011年に入団し、2017年にエトワールに任命されたユーゴ。夏の第17回世界バレエフェスティバルでもドロテ・ジルベールをパートナーに、パリ・オペラ座を背負うエトワールのひとりとしてスケールの大きな、それでいて繊細なステージを披露した。半生記も出版しダンサーとしても人間としても30歳とは思えぬ彼の成熟ぶりを見ると、これから定年まで12年の活躍への期待は高まるばかりだ。なお、このレゼトワール・オ・シャトーの成功を語る時、もうひとり忘れてはならない人物がいる。ダンスの公演のオーナガイズという仕事に経験のないユーゴが白羽の矢を立てたアレクサンドラ・カルディナーレだ。パリ・オペラ座引退後、彼女がアーティスティックディレクターを務める「Gala d'Etoiles」に参加した時に知った、その分野での彼女の実力をユーゴが評価してのこと。公演の準備、実施に際してのさまざまな障害、悪条件を多数経験している彼女は頼もしい存在である。この夏には、agnès bとのコラボレーションによるTシャツ「on aime la danse」が誕生。1枚40ユーロで、その売り上げはレゼトワール・オ・シャトーとユーゴが2年前に創設した協会「Hugo Marchand pour la danse」の財政援助費用となるそうだ。なおユーゴがアンバサダーを務めるジュエラーのメレリオもレゼトワール・オ・シャトーのメセナに名を連ね、彼を支援している。

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アレサンドラ・カルディナーレ(中央ロングスカート)を挟んで。彼女の左側はマチュー・ガニオ、エレナ・ボニー(ピアノ)、ユーゴ・マルシャン、ドロテ・ジルベール、右側はリュドミラ・パリエロ、マルク・モロー、シルヴィア・サンマルタン、ジュリー・セヴィラ・フライス(チェロ)。photography: Edouard Brane
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アニエスべーのTシャツOn aime la danseを着たユーゴ・マルシャン。公演、T シャツなどの詳細はwww.hugomarchandpourladanse.orgまたは@hugomarchandpourladanseにて。photography: Edouard Brane

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editing: Mariko Omura

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