【万平ホテル/軽井沢】温かな万平ホスピタリティ。再び歩み始めたホテルの変らぬ信条と未来への道。
ホテルへBon Voyage 2025.09.25
日本有数の避暑地である軽井沢に1894年(明治27年)、「万平ホテル」としてそのドアを開けて以来、華やいだ歴史を綴ってきたホテルが、1年8ケ月にも及ぶ閉館により大規模改装・改築を終え、ついに2024年8月にソフトオープンを果たしました。グランドオープンは同年の10月2日のこと、待ちに待った多くのファンが早々と訪れています。まさに日本を代表するクラシックホテルとして、創業131年を迎えたホテルは、これからの歩む未来を見つめてどのように変わったのか、又変わらないことは何か、久し振りに足を運んだ新たなるホテルの魅力を紐解きましょう。
1936年築、格式のあるエントランスは2018年に国の登録有形文化財に指定。ハーフ・ティンバー風の外観はすでに軽井沢のホテルの象徴的存在。
変わらずにゲストを迎える高木の立つ庭、緑に包まれながらもその存在感を示すエントランスの建物、再開業を待ちわびた多くのファンが「お帰りなさい!」と、そのエントランス棟に向かって声をかけたという話も耳にします。車回しからドアを一歩入ると、今度はスタッフからの「いらっしゃいませ、お帰りなさいませ」と温かな挨拶が交わされています。もともと、「万平ホテル」では、「おもてなしは心なり、ホテルは人なり」という、創業者・佐藤万平が掲げたこの信条をいまも継承し続けているのです。そんな「万平ホテル」の歴史は、1764年頃の元の旅館「亀屋」に始まったとされています。
場所も変わり全体的にスタイリッシュに変わったアルプス館1階のショップ(8:00-20:00営業)。手づくりの缶入りオリジナルクッキー(8,000円)は午前中に売り切れ必至。フルーツケーキ、アップルパイ、ジャムなどのオリジナル商品が多数。「りんごとくるみのケーキ」は改装記念の新商品として登場。
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当然、旧軽井沢という土地柄もあり、日本に住む裕福な外国人が通うことでも知られており、やがて「万平ホテル」は、世界にも知られるホテルとなったのです。周囲には当時から有名人、著名人、文豪などの別荘も多くあり、別荘族からも愛されたと言います。反対に別荘代わりに長期で利用するゲストも多く、瀟洒な姿の「万平ホテル」となってからも人気は衰えを知りませんでした。忘れがたい記憶には、1976年からの4年もの間、世界的な人気を誇ったロックバンド、ザ・ビートルズのジョン・レノンは、亡くなる前年までの毎年、ここ「万平ホテル」で休暇を過ごした逸話が残っています。数知れないストーリーや歴史上の出来事を秘めたホテルには、それだけで重厚感がありますが、今回の大改装では随分と変化したところもありました。
メインダイニングルーム、写真はテラス席。折上げ格天井とステンドグラス、調度品などは昔のままの重厚感。クラシカルな雰囲気の中で新感覚のフランス料理コースやアラカルトも提供。
冬季には毎年休業し、春までドアを閉めていたホテルは「もう休業はしない」と掲げました。改修により断熱性の向上が成され通年営業が可能となったと聞かされました。同時に、バリアフリー化も進み、エントランスの階段がスロープへと変り、各客室棟にはエレベーターが付いています。
嬉しい驚きは、完全に新築された「愛宕館」全30室に天然温泉が備えられていたことでした。
「愛宕館 グランドプレミア(温泉付き)」(45㎡)。品格のあるクラシカルな雰囲気とモダニズムが融合した落ち着いた部屋。
「アルプス館」には12室の客室のほか、天井が美しいメインダイニングルーム、宿泊客以外でも利用可能なカフェテラス、クラシカルなバーなどパ、ブリックスペースが華を添えるほか、オリジナルクッキーが人気のショップはカフェテラスの脇に移動しました。
「アルプス館 グランドクラシック」(57㎡)。和洋折衷の貴重なインテリアと温もり感が人気。バスルームは広くシャワーブース付きの豪華さ。
「碓氷館」は変わらぬ静謐感が人気を支え、44室のすべて窓から自然が広がり、軽井沢にいる満足感を感じられるとしてファンを魅了しています。
「碓氷館・碓氷スイート」(90㎡)。ホテル内では唯一のテラス付きスイートルーム。自然との一体感を感じるとテラス付きの部屋にはリクエストが多い。
朝食もメインダイニングルームでサービス。格調高い"洋食"はアメリカンブレックファスト。卵料理は伝統のオムレツをリクエスト。ホテルメイドのパン3種とジャムも美味しい。
軽井沢が避暑地としてスタートしたのは1886年。よく知られていることですが、故郷カナダの気候や風景に似た土地に魅了されたカナダ人宣教師アレキサンダー・クロフト・ショーが、1888年(明治19年)に外国人の友らと軽井沢に通ったことに端を発していると言われています。とりわけこの"旧軽井沢地区"は、土地の持つ本来の"気"の良と、高原特有の清浄な空気、緑の木立が放つプライベート感が別荘地として最高の場所としてあります。そして古くからの住人や別荘所有者らの"己の町への誇り"から生まれた「軽井沢町民憲章」も、いまも尚、健在なのです。「万平ホテル」は、そんな軽井沢の歴史の中心にいたと言っても過言ではありません。

Kyoko Sekine
ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て94年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのコンサルタント、アドバイザーも。著書多数。
http://www.kyokosekine.com