銀座にイッセイ ミヤケの新拠点誕生。その特色について、宮前義之さんにインタビュー。
デザイン・ジャーナル 2023.02.13
イッセイ ミヤケのブランドが集まる新拠点が2つ、銀座に誕生しました。ひとつは、4フロアで10ブランドが紹介されている「ISSEY MIYAKE GINZA / 442」。また、同じ銀座ガス灯通りにあったISSEY MIYAKEのショップは、「ISSEY MIYAKE GINZA / 445」として新スタート。その1階を占める展示スペースにも注目です。
「ISSEY MIYAKE GINZA / 442」。大きなガラス面から店内の空気が伝わってくる。
photography: Masaya Yoshimura、Courtesy of ISSEY MIYAKE
新拠点のどちらでも、「服と人のよりよい関係を結ぶためのものづくりを紹介する場」とのこと。デザイナー、エンジニアとして、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEブランドを率いると同時に、イッセイ ミヤケの各ブランドのクリエイションの今後を考える重要な立場にも立つ宮前義之さん(三宅デザイン事務所・デザインディレクター)に話を聞きました。
宮前義之さん。
――まずは「ISSEY MIYAKE GINZA / 442」(以下、442)誕生の背景をお聞かせください。
宮前さん:三宅一生がよく口にしていたことのひとつに、「衣服のデザイン、服づくりだけでなく、大切なものづくりの文化をきちんと発信していく場が大切」ということがあります。そうしたクリエイションそのものを伝える場として、イッセイ ミヤケでは大阪にISSEY MIYAKE SEMBA、京都にISSEY MIYAKE KYOTO|KURAを設けてきました。
東京都内では既存ショップの空間を活かして展示を通して行ってきましたが、都内にも新たな場をつくって衣服と各ブランドの世界観の発信の双方をこれまで以上にしっかり行っていこうとの考えが、新ショップの背景にはあります。
PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE、BAO BAO ISSEY MIYAKE、GOOD GOODS ISSEY MIYAKEなどが紹介されている1階。時間帯で変化する外光を受けてアルミニウムの面が繊細な表情を見せる。心地よい空間で色鮮やかな衣服を目にできる幸せ。
photography: Masaya Yoshimura、Courtesy of ISSEY MIYAKE
―― これまでにも銀座にショップを設けられていました。銀座という場の特色をどう感じていらっしゃいますか。
宮前さん:銀座は僕個人としても好きな場所です。さまざまなショップだけでなくアートやデザインのギャラリーも多数あって、ギャラリー巡りをすればいつも興味深い作品に出会うことができます。人々が訪れるそうした場のひとつとして自分たちの場も選んでいただけようになれると良いねと、いう話を、今回のショップを準備する過程でも社内チームで話していました。
2階はISSEY MIYAKEやISSEY MIYAKE PARFUMSなどのフロア。こちらも帯状にはりめぐらされたアルミニウォールが空間に。
photography: Masaya Yoshimura、Courtesy of ISSEY MIYAKE
―― 発信の場をつくることへの皆さんの情熱は心地よい空間からも伝わってきます。442の地下1階から3階まで、4フロアの空間デザインは吉岡徳仁さん。吉岡さんはイッセイ ミヤケのさまざまなブランドのショップデザインをすでに多数手がけていますね。
宮前さん:オンラインでもショッピングができる時代だからこそ、足を運ぶショップの存在価値そのものが問われています。僕はよく料理を例に挙げて話をさせていただくのですが、同じ料理でも選んだうつわによって見え方はもちろん、味わいも異なって感じられ、体験できる時間そのものが変わってきます。来店する方々が衣服をどううけとめてもらえるのか、空間によって感じ方は異なってくるので空間デザインはもちろん大切です。
吉岡さんはイッセイ ミヤケのさまざまなブランドの空間をこれまでにもデザインしてくれている、良き理解者。今回も、余計ものを一切省いたミニマルな空間で、服が堂々と見える場を提案してくれました。
「環境に配慮されたリサイクルアルミを特殊な製造技術で成形した」と吉岡徳仁。アルミニウムの表情がこれほど美しく、生き生きとしてエレガントであることにも驚かされる。イッセイ ミヤケのフィロソフィーが空間デザインからも伝わってくる。
―― 今回の空間に関して吉岡さんが書かれたコンセプトに「未来的なイメージを表現したこの空間は、イッセイ ミヤケの革新的な服づくりとフィロソフィーを表わしている」とありました。浮遊するようなアルミニウムウォールの躍動的な軽やかさに目を奪われ、ガラスごしに差し込む自然光を受けて表情を変えていくアルミニウムの美しさにも魅了されてしまいます。
宮前さん:吉岡さんはロンドン、ブルックストリートの店舗「ISSEY MIYAKE / LONDON 33 BROOK」でもアルミニウムを用いた空間をデザインしてくれました。2021年にオープンしたA-POC ABLE ISSEY MIYAKE/ KYOTOは京都の町屋にリサイクルされたアルミニウム什器を活かした空間です。
場所や建物自体の構造によって店内に差し込む光も異なるのでアルミの表情は各店舗で微妙に違ってきますが、ここISSEY MIYAKE GINZA/ 442でも、三宅一生のコンセプトである「一枚の布」のようにリサイクルされた一枚仕立てのアルミで空間が構成されています。要素をアルミに絞り、その素材感を活かしながら吉岡さんらしく細部まで丁寧に考えられた仕上げとなっています。
――― 今回、2つの拠点で紹介されているイッセイ ミヤケのブランドが10以上もあることに改めて驚かされました。
宮前さん:三宅一生が三宅デザイン事務所を設立したのは1970年でした。それから50年を迎えたいま、次の50年について関係者で会話をするなかで、一生さんの哲学を次にどうつなげていくかという話もしています。ひと、もの、ことのそれぞれに重要な点がありますが、まずは、みんながどうこれから成長できるか。一生さんのすばらしさというのは、誰も発想しなかったことを実現していったことはもちろん、ひとを育て、才能を育む場を創造してきたということも忘れてはならない点です。結果として複数のブランドが生まれてきました。
それぞれのブランド独自のメソッドがあり、ブランドの服を実現できるしくみが模索され、確立されてきました。そのうえで今後さらに新しいものを創出していくには、独自のメソッドから良い意味で自由になって試みられる場が必要です。そのためにも服づくりに関わる皆が恐れることなく挑戦できる場や意見を交わせる場が大切で、そうした環境を育てていくことも大切な自分の役割だと考えています。
――― 銀座の新拠点からも、衣服を生み出す場の躍動感とエネルギーが伝わってきます。
宮前さん:探しているものや調べたいものの答をオンラインですぐ見つけられる時代になりましたが、ものづくりというのはそれとは逆で、遠回りをしながらでも自らの方法で探し、発見していくという過程が大切です。効率良くリサーチを行う過程ももちろん必要ですが、一方で時間を費やしながら見つけていくことも忘れてはならず、そうした両輪のバランスを保ちながら立ち止ることなく進んでいかないとならないと思います。
3階は宮前さんが率いるブランド A-POC ABLE ISSEY MIYAKEのフロア。
photography: Masaya Yoshimura、Courtesy of ISSEY MIYAKE
宮前さん:ご存じの通りに日本の国内のものづくりの現場は厳しい状況です。衣服に関して言えば、国内の人口が減っているなかで縫製工場をはじめ製作に関わることのできる人々の数が減りつつある。イッセイ ミヤケのものづくりは独自のしくみでほぼ国内で生産していますが、将来同じようにものづくりができる環境ができるかどうか。20年後、50年後はどうだろうかということも考えます。
デザインの力を活かして、さまざまなものをつなげながら進んでいかないとなりません。そのしくみをつくることもしっかりとやっていきたいと思い、国内各地の製作の現場に改めて足を運んでいるところです。先日も、社内のエンジニアとある工場に行ってきたところなんです。機械にも触れながら、身体で感じたこともあわせて、衣服づくりを将来につなげていく方法を探っていきます。
地下1階にはIM MENやHOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE、ISSEY MIYAKE WATCH、ISSEY MIYAKE EYESも。
photography: Masaya Yoshimura、Courtesy of ISSEY MIYAKE
―― 同じ銀座ガス灯通りには「ISSEY MIYAKE GINZA / 445」も誕生しました。これまであったイッセイ ミヤケのショップの新たなスタートですね。1階の展示空間「CUBE」の今後の企画も楽しみです。
宮前さん:CUBEは展示空間で、おもしろい動きが起こっていることを皆さんに感じていただきたいと考え、そうした場をまずはつくることができました。数ヶ月ごとに展示を変え、企画ディレクションはイッセイ ミヤケの関係者で行っていきます。第1回目となる今回は、グラフィックデザイナー 田中一光さんの作品をモチーフとするプロジェクト「IKKO TANAKA ISSEY MIYAKE」に関するインスタレーションです。
ISSEY MIYAKE GINZA / 445の1階「CUBE」で始まった「IKKO TANAKA ISSEY MIYAKE No.6 Special Installation[The Plant Series]」。会場構成・展示作品などにはこのデザインジャーナルでも以前に紹介したデザイナーの三澤 遥さん率いる日本デザインセンター 三澤デザイン研究室が参加。CUBEはさまざまなクリエイターが集まる場。今後の新たな出会いにも注目したい。
photography: Masaya Yoshimura、Courtesy of ISSEY MIYAKE
―― CUBEでは、動きのある展示に見入ってしまいました。鮮やかな展示と躍動的な動きで、さまざまな出会いが連なって新しい動きをもたらしていくイッセイ ミヤケ全体の活動をまさに象徴する展示ですね!
宮前さん:デザイナーの仕事の領域はさらに広くなっていて、かたちを整えるだけではありません。そのことは僕自身が一生さんから学んだことの延長線上にあるものでもあり、いつも強く実感しているものです。
服をつくる仕事は楽しい。そう、関わる人たちたちが思える環境をイッセイ ミヤケの社内で育てていき、そこで生まれた発想や考えをISSEY MIYAKE GINZAから発信していきます。ISSEY MIYAKE GINZA/ 442、ISSEY MIYAKE GINZA/ 445は、衣服とともに僕たちの思考していることや試みていることを発表する場です。さまざまな化学反応が生まれていくことも願っています。
ISSEY MIYAKE GINZA / 442
東京都中央区銀座4-4-2
電話 03-6263-0705
(営)11:00-20:00
ISSEY MIYAKE GINZA / 445
東京都中央区銀座4-4-5
電話 03-3566-5225
(営)11:00-20:00
http://isseymiyake.com
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photography: Courtesy of ISSEY MIYAKE INC. texte: Noriko Kawakami
Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami