フランスの道具で作る、おばあちゃんの味。

パリに住み始めた頃、友人の家でカーブ(地下室)の片付けを手伝っていた時に、ふと目に留まった不思議な器具。それは野菜や魚介をすり潰す裏漉し機Moulin(ムーラン)というものだった。

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この古びた、でも使い込んだ味のある道具は、ブルターニュのおばあちゃんから譲り受けたものだという。
彼女が子どもの頃にヴァカンスで田舎の家に行くと、いつもこれが活躍していて、台所の壁に下がっていたのは3サイズ、いちばん小さなものを貰ってきたそうだ。

おばあちゃんは、友人の母親が赤ん坊の頃には、これで離乳食を。また、野菜嫌いの孫のために、ニンジンやイモのポタージュスープを作ってくれた。
長年、台所でいろんな材料をすり潰して大事な家族を養ってきてくれた思い出あるものだ。

感心していると、「でもいまは使わないの。持って行く?」と言ってくれたので、有難く頂戴することにした。

それから最初に作ってみたのは、スープドポワソン。海老の頭や魚、香味野菜を煮た後に入れてクルクル回すとおもしろいくらいに濾されていく。

その頃はマレの中世に建てられたアパートに住んでいたので、使った後に壁にかけておくと、それもまた絵になった。

月日が流れ、今度は私が自分のカーブを片付けていると、またこれが出てきたので久々に使ってみたくなった。作るのは、じゃがいものピュレ。

じゃがいもを潰すのにムーランを使うよさは、ミキサーのような高速回転で作ると粘りが出てしまうのを防げることや裏漉し器よりも作業がずっと簡単で洗浄も楽なこと。

ちなみに、1930年代に売り出されてから大ヒットしたというムーランはいまでも金物屋に並んでいる。

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さて、おばあちゃんが作っていたクラシックなレシピとは?と思案してみると、フランスではピュレの作り方は実にさまざま。バターをたっぷり使うシェフあり、牛乳多めでトロトロのビストロあり。私がフランス料理学校で習ったものは、ごくシンプルなものだった。

そこで、かの巨匠ポール・ボキューズのレシピを紐解いてみた。

まず最初に書かれているのは、“ピュレは決して温め直してはいけない。残ったものは、スフレ、パルマンチエやコロッケに!すなわち、ピュレは食べる直前に作るもの。温めた皿にのせて出来立てを食すべし!”とある。シンプルだからこそ奥が深いもののひとつだ。

ただ、イモを潰したものと侮るなかれ、これはタイミングが最も大切な真剣勝負だ。

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そして、ピュレ作りで最初の大事なポイントは、材料選び。さすが、じゃがいもの国ですもの、マルシェには常時6~10種類が並ぶ。ピュレに向いている品種はBintje, Caesar, Manon, Vitelotte,  Agata(ビンジ、セザー、マノン、ヴィットロット、アガタ)など、煮ると溶けるタイプのものを。今日はMonalisa(モナリザ)で(日本では男爵イモ)。

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■じゃがいものピュレ 
Purée de pomme de terre

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材料 4人分
ジャガイモ 800g
塩水 適量(1リットルに対して塩10g)
バター(無塩) 50g(細かく切っておく)
牛乳または豆乳 250ml
塩  適量

1.ジャガイモの皮を剥いて塩水で(水から)茹でる。強火にして沸騰してきたら弱火にして30分ほど煮て、ナイフがスッと通るようになれば茹で上がり。あれば、ココット鍋を使うと火の通りが早い。
2.牛乳を温め始める。熱いうちに、ジャガイモをムーランで(代わりにザルや裏ごし器で)潰しながら、まだ温かい(ジャガイモを茹でるのに使用した)鍋に入れる。
3.潰したジャガイモが入った鍋をごく弱火(電気コンロなら1に)にかけて、温かい牛乳を少しずつ注ぎながら木べらで混ぜる。火を止めて、最後にバターを混ぜ、味見しながら塩を入れて味を調える。
あれば、仕上げに生クリームを大さじ1~2くらい(分量外)を加える。

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ムーランの底に付いている折り畳みの足を広げて鍋にかけて使う。

これはバター少なめにしてみた基本ですが、たまたまノルマンディー産の塩バターとイタリア産のトリュフ塩が手元にあったので使ってみると(その場合は塩分を調節)、これもまたおいしい! もしくは、好みでナツメグのパウダーを少々振りかける。

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レシピの量が多いと思えば半量を。いやいや、これは思い切って多めに作り、残りをアレンジして愉しむのがおすすめ!

余ったものは、翌朝、片栗粉をドサッと入れ混ぜてフライパンで焼けば、モチモチのパンケーキに。もしくは、牛乳や豆乳で伸ばして味付けし温めると、バター香る優しい味のポタージュスープに。
ボキューズ先生のように、コロッケにするのもよし。

フランス男に、どんな食べ物が好き?と尋ねると、意外とピュレという人が多い。

なんだかんだ言って、子どものころから食べているもの、お袋の味が好きなのだ。ビストロで出てくる肉料理の付け合わせを子どものような笑顔で食べているおじさんたちがなんと多いことか。

このムーランをくれた友人に、一口食べさせてみたい。果たして、おばあちゃんの味を思い出してくれるだろうか。

Sachiyo Harada/料理クリエイター
長い間モードの仕事に携わった後、2003年に渡仏。料理学校でフランス料理のCAP(職業適性国家資格)を取得。 パリで日本料理教室やデモンストレーション、東京でフランス料理教室を開催。フランスの料理専門誌や料理本で、レシピ&スタイリングを担当。16年春、ベジタリアン向けの料理本『LA CUISINE VEGETARIENNE』をフランス全土と海外県、ベルギー、スイス、イギリスなどのヨーロッパ各地で発売。この連載をまとめた『パリのマルシェを歩く』(CCCメディアハウス刊)が発売中。近著に『LE B.A.-BA DE LA CUISINE “Ramen”』(Edition Marabout Hachette社 刊)がある。
Instagram : @haradasachiyo
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