時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノこそ、いい物語があります。今回は、カルティエのジュエリーの話をお届けします。
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CARTIER
PANTHÈRE DE CARTIER
上から、リング「パンテール ドゥ カルティエ」(18KYG×ツァボライト ガーネット×オニキス)¥379,500、ブレスレット「パンテール ドゥ カルティエ」(18KYG×ツァボライト ガーネット×オニキス×ブラックラッカー)¥2,389,200、リング「パンテール ドゥ カルティエ」(18KYG×ダイヤモンド×エメラルド×オニキス)¥2,508,000/以上カルティエ(カルティエ カスタマー サービスセンター)
映画『オーシャンズ8』(2018年)を観た人は、ストーリーの核となるまばゆいダイヤモンドネックレスが「ジャンヌ・トゥーサン」という名前だったことを覚えているはず。カルティエの伝説的クリエイティブディレクターにちなんで名づけられた、という設定だ。このジャンヌ・トゥーサンは1924年から70年まで、カルティエパリで活躍した実在の人物。彼女は「豹の毛皮のコートをパリで初めて優雅に纏った最初の女性」を自認し、豹の飾りがついたシガーケースを愛用し、ラ・パンテールというニックネームで呼ばれていたという。
カルティエが初めてパンテールのパターンをあしらったのは、実はジュエリーではなくウォッチで、平面的なまだら模様のデザインだった。それをしなやかな姿態の立体的ハイジュエリーへと進化させ、明確なスタイルを打ち出したのが、ジャンヌだったのだ。プラチナがヨーロッパで絶大なブームになっていた時代に、いち早くイエローゴールドの美しさを再認識し、デザインに取り入れたのも彼女だ。
現在の「パンテール ドゥ カルティエ」には、豪奢なハイジュエリーからデイリーに楽しめるモダンなものまで、さまざまなデザインが幅広く揃う。ネコ科の猛獣の気高さや、誘惑するようにきらめく瞳は、ジャンヌの時代と変わらない。愛らしくもあり、ミステリアスでもあるこのモチーフは、毎日身に着けて愛用することで、きっとお守りのようなパワーを発揮してくれるはず。激動の20世紀を力強くエレガントに生きた、ジャンヌ・トゥーサンのエスプリがいまも宿っているのだから。
*「フィガロジャポン」2020年3月号より抜粋
photo : SHINMEI (SEPT), stylisme : YUUKA MARUYAMA (MAKIURA OFFICE), texte : KEIKO HOMMA