時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノにある、いい物語を語る連載「いいモノ語り」。
今回は、カルティエのフープイヤリング「グラン ドゥ カフェ」の話をお届けします。
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CARTIER
GRAIN DE CAFÉ
サイドにもダイヤモンドをあしらい、ディテールに凝ったデザイン。ひと粒ひと粒のコーヒー豆を職人たちが丹念に細工して、ヴィンテージ感あふれるイエローゴールドの輝きを生み出している。フープイヤリング「グラン ドゥ カフェ」(YG×WG×ダイヤモンド)¥8,118,000/カルティエ(カルティエ カスタマー サービスセンター)
日常をプレシャスに変える、ジュエラーの魔法。
カルティエの「グラン ドゥ カフェ」より、新たにリュクスなフープイヤリングが登場。2023年に発表されたこのコレクションは、コーヒー豆がモチーフ。ふっくらとした小さな豆たちが並び、ダイヤモンドの煌めきとともに耳元を取り巻くデザインだ。イエローゴールドの部分には伝統的なゴドロン(うね)装飾をあしらっていて、指でふれるとパーツが少しだけ揺れて動く。ほどよいボリューム感と動きがある、個性豊かな造形美が魅力だ。
メゾンがこれまで大切にしてきたスタイルのひとつには「イエローゴールドで表現した植物モチーフ」があるという。今回の「グラン ドゥ カフェ」はまさにこのスタイルが着想源。職人が丁寧にポリッシュしたイエローゴールドは、ゴドロン装飾の効果もあって、華やいだ煌めきを放って目を楽しませてくれるのだ。フォルムはモダンでスタイリッシュ。でも、どこかヴィンテージなムードが漂うのは気のせいではない。コーヒー豆をかたどったジュエリーを最初に生み出したのは、20世紀に活躍したメゾンの伝説的なクリエイティブディレクター、ジャンヌ・トゥーサン。それも90年近く前の1938年のことだったのだから。
1953年に発表されたネックレスのデッサン。コーヒー豆のタッセルが目を引く。
このモチーフは1950年代から60年代にかけて脚光を浴びた。愛用したセレブリティの中にはモナコ大公妃グレース・ケリーもいて、さまざまなシーンでコーヒー豆のジュエリーを纏って人々の前に姿を現したという。この時代はイエローゴールドを美しく磨き上げたり彫金を施したりして、細工を凝らしたジュエリーが人気を博した。カルティエの輝くコーヒー豆は、その流行を最先端で牽引したのだ。
それにしても、現在名門ハイジュエリーメゾンでコレクションにコーヒー豆のモチーフを用いているのは、おそらくカルティエだけなのではないだろうか。カルティエは「ジュエラーの視点で日常をプレシャスに昇華させること」を本当に洗練された手腕で鮮やかにやってのける。釘から着想を得た「ジュスト アン クル」や、ビスのモチーフがあしらわれた「LOVE」─身の回りの思いがけないものをプレシャスなジュエリーに仕立てて、それを手に取る女性たちに驚きと喜び、深い満足感を与えてくれる。
コーヒー豆という意外性のあるモチーフに新たな生命を吹き込んだ「グラン ドゥ カフェ」も、カルティエにしかできない特別なもの。誇り高き飛躍のジュエリーなのだ。
ジュエリー&ウォッチジャーナリスト
愛用のチェーンネックレスをじゃぶじゃぶ水洗いして、ひと夏分の汚れを落とし、スッキリ。金メッキや宝石付きのネックレスは洗わないで拭くだけにしてね。
*「フィガロジャポン」2025年11月号より抜粋
photography: Ayumu Yoshida styling: Tomoko Iijima text: Keiko Homma editing: Mami Aiko