挾間美帆がニューヨークで創る、ジャズのサウンド。

インタビュー 2020.02.12

第62回グラミー賞の最優秀ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム部門に、自身のグループm_unitとして3枚目のアルバム『Dancer in Nowhere』がノミネートされた挾間美帆(はざま・みほ)。国立音楽大学を卒業後、マンハッタン音楽院大学院へ留学し、卒業後もニューヨークで生活している。自身が結成したm_unit(エム・ユニット)での活動をはじめ、挾間美帆×アシュレイ・ボーダー ジャズ&ダンス プロジェクト(2020年秋には日本公演開催)、19年10月からデンマークラジオ・ビッグバンド(The Danish Radio Big Band / DR Big Band)の首席指揮者に就任するなど、その活躍は国際的だ。

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ニューヨークを拠点として、国内外で活躍する挾間美帆。

――グラミー賞にノミネートされた時の素直なお気持ちは?

びっくりしたというのが最初の気持ちです。何も予想もしていなかったですし、何日にノミネートが発表になるかもまったく知らなかったので。デンマークで会議中だった時に、友達からのメッセージが携帯電話の画面に上がってきて、“ん!?”ってなるくらい(笑)、すごく驚きました。

――前のオリジナルアルバム『Time River』(15年)の時に取材しましたが、『The Monk: Live at Bimhuis』(18年)を経て、ご自身ではどのように進化したと感じますか?

続けることに意義があるので、進化したという実感はないですね。自分の編成したm_unitで創る音楽は、ただ淡々と自分がおもしろいと思うことを出力するツールであり、私にとってはいちばんピュアなプロジェクトです。だからこそ、自分の生きてきた環境とか背景がとてもよく反映されるんでしょう。このアルバムを作ることに関しても、単純に自分がアーティストとして何を表現したいかがいちばん大事であって、それまでのキャリアや、そこから先のキャリアがどう左右するかとかは重要ではないですから。

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第62回グラミー賞最優秀ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム部門にノミネートされた、挾間美帆 m_unitの3枚目のアルバム『Dancer in Nowhere』。ユニバーサル ¥3,300

――1曲完成するのにどのくらい時間をかけるのでしょう?

実際に書いている時間は、地道に1小節ずつ進めるというのではなく、コンピューターに向かって楽譜に起こしたりする時間は短いです。その前にスケッチをしたり、こういう題材で曲を書きたいなとか、こういうイメージのフレーズを使おうとか、頭の中に溜めておいて、機会がある時に楽器で演奏してボイスメールに録音しておきます。そういう期間が長くて、それがだいたい最低でも3カ月以上で、6カ月くらいのことが多いですね。

――シンガーソングライターの人たちは、「寝る前に思いついて、でも朝起きて忘れているくらいだったら、たいしたメロディではない」とよく言っています。ワインのように熟成させることも大事だと。

私もそれは同意します。3カ月、6カ月間経って、全然覚えていない場合もあるし、自分の中で消化されて指からピアノに出力される状態になっていて、「そのくらい覚えているんだったら、本当に使いたいんだな」っていう印象ですね。

――頭の中にいろんなフレーズが住んでいるんですね。

そうですね(笑)。

『Dancer in Nowhere』

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ジャズの作曲の醍醐味。

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ひとつひとつの曲について明快に話す挟間は、まさにニューヨーカーらしい聡明な印象。

――ほかの編成向けに書いた曲をm_unit用に書き直した曲はありますか?

6曲目の「Magyar Dance」はビッグバンドのワークショップのために作った曲です。アメリカにBMIという機関(アメリカ合衆国の著作権管理団体のひとつ)が主催するプロのジャズ作曲家のためのワークショップがあります。そこに卒業後3年間在籍して、ジム・マクニーリーという大学院の時の教授と、マイク・ホロバーという今年グラミー賞にノミネートされていた作曲家のふたりに師事していました。その間はビッグバンドのために音楽を書かないといけなくて、その時に書いた曲ですね。m_unitでは弦楽器やビブラフォンなど、普通のビッグバンドにはない楽器が増えていますから、この編成のオーケストレーションでいい曲になるように調整しました。

――その作業が頭の中で自在にできてしまうんですよね?

そうですね。m_unitは自分が選んだ楽器編成なので、頭の中で自然に音が鳴るんです。逆に、サックスやトランペット、トロンボーンがいるビッグバンドのオーソドックスなサウンドは、自分の中のデフォルトのサウンドではなくて。小さい時にクラシックのオーケストラの音楽をたくさん聴いて育っているので、オーケストラのようなサウンドが頭の中で鳴るようになっているんです。

――すごいですね!

だからといって、自分がライブをする時に、70人のオーケストラを呼んで大きなコンサートホールでやりましょう、ということはできない。それをいちばんコンパクトにして、自分が自由にできる編成を考えた結果が、この13人の楽器編成なんです。そういう意味で、彼らに書く時の音はすんなり出てきます。

――5曲目の「Il Paradiso del Blues」でのアルトサックスとドラムの掛け合いなど、各曲のアドリブ部分も楽しいです。

そこはジャズの作曲の醍醐味だと思います。普通、作曲とは全部書くものですが、ジャズでは誰かがアドリブするところはわりと自分の手を離れるんですね。書いている必然性の部分とアドリブの偶然性が強い部分のふたつが混在するのがジャズの作曲の特徴。その両方をどういうバランスにするか、誰にこの偶然性の部分を任せるか、どのようにお膳立てをしようか、そこから戻ってきた時にどういうふうにバトンを受け取れるようにしようか……。そういうことのバランスを見て考えるのが、ジャズの作曲のいちばんおもしろいところです。

挾間とm_unitによる『Dancer in Nowhere』レコーディング風景を公開!

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ジャズが根付く街コペンハーゲンで、自分にできること。

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シルエットが美しいモノトーンの衣装を着こなす、モデルのようなすらりとした長身。

――では、首席指揮者となったデンマークラジオ・ビックバンドでは可能性をどのあたりに感じていますか?

まだ人種差別が激しかった1960年頃、デンマークはヨーロッパの中では差別が比較的なかったので、アメリカからミュージシャンたちが喜んでツアーしに行き、そのまま住み着いたりした歴史もあるんです。そのことによって、ヨーロッパではコペンハーゲンはいまもジャズにとっての重要な都市のひとつ。そこで生まれた音楽がしっかり受け継がれているうえに、デンマークの人たちはすごくオープンなので、新しい挑戦にとても意欲的に取り組んでくれる。私にとっては素晴らしい環境ですね。ジャズをサポートする街自体の空気感というのも残っていて、とてもやりがいはあります。

――日本人であり、女性で、しかも若いといったことで、気になることはありますか?

彼らにとって私の立ち位置はニューヨーク在住のジャズミュージシャンであるということで、日本人であるということではないですね。私が就く前に17年間このポジションが空いていて、その前に就いていたのは自分の教授でした。つまり、代々音楽監督に就いていたのがニューヨークを代表するジャズ作曲家であって、それがいままでの歴史としてブランディングされている。私はニューヨーク生まれでもニューヨーク育ちでもないし、住んで10年未満ですけど、そういう状況です。

2015年、ニューヨーク・マンハッタンのジャズクラブ、ジャズ・スタンダードで行われたm_unitのライブ。

――日本人である云々より、ニューヨーク在住のジャズミュージシャンであることが重要であると。

そうですね。日本人であることは自分の中で大事ですが、それがどういうふうに仕事に影響するかというのは、相手が決めること。ただ、自分が“日本人でよかったな”と思うことは、空気を読めることです。空気が読めると、彼らが思っていることを、まず理解する必要があるとわかる。すると、それに見合う責任の負い方や業務など、してあげられることが変わってきます。たとえば、ニューヨークのアーティストとして私が彼らに還元できる音楽的要素とか刺激とか、そういうものをしっかり持ってコラボレーションできるように、自分もニューヨークでセンスを研ぎ澄まさなければいけない。

2018年に行われた、ニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパル、アシュレイ・ボーダー率いるダンサーと女性作曲家とのコラボレーションに、挾間が参加。今年秋には来日公演が実現!

――もちろん日本にも還元したいですよね。

はい。日本にどういう形でm_unitの音楽を持って帰ってこられるのか、日本ではどのように持ってきたらみんなに興味を持ってもらえるか、あるいは日本でこんなコンサートをプロデュースしたらお客さんが来てくれるだろうかとか、常に考えていますね。そういうことを含めて自分を知り、いかに自分をプロデュースするかによって、できる仕事の立場と形を変えられるというのは自分の強みだと思うので、それをしっかりやっていきたいと思っています。

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間が、日本の観客にライブを披露してくれる日がいまから待ち遠しい!

挾間美帆 Miho Hazama
1986年生まれ。2009年、国立音楽大学作曲専攻卒業。10年、ジャズコンポジションを学ぶためニューヨークに留学。12年、マンハッタン音楽院大学院を優等で卒業し、11月にはジャズ作曲家としてデビューアルバム『Journey to Journey』をリリース。13年、アルバム発売記念ライブを日米で開催、大成功を収める。東京フィルハーモニー交響楽団や兵庫芸術文化センター管弦楽団などに作編曲作品を提供するいっぽう、テレビ出演や自身のグループ「m_unit」など、幅広く活動。19年10月、デンマークラジオ・ビッグバンド(DR Big Band)の首席指揮者に就任。
www.universal-music.co.jp/hazama-miho
『TOKYO JAZZ +plus』the HALL公演
公演日:5月24日(日)
会場:NHKホール(東京・渋谷)
出演:挾間美帆 m_unit、ハービー・ハンコック
チケット一般発売:2月22日(土)10時〜
https://tokyo-jazz.com



挾間美帆プロデュースNEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇
公演日:2020年8月16日(日)15:00開演(14:00ロビー開場)
会場:東京芸術劇場 コンサートホール
入場料金:全席指定¥5,000
●問い合わせ先:東京芸術劇場ボックスオフィス
Tel. 0570-010-296(休館日を除く10:00~19:00)
www.geigeki.jp


挾間美帆×アシュレイ・ボーダー ジャズ&ダンス プロジェクト2020
公演日:
10月24日(土)Bunkamuraオーチャードホール(東京・渋谷)
10月31日(土)サンケイホールブリーゼ(大阪・梅田)
11月1日(日)電力ホール(宮城・仙台)

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photos : SHINTARO OKI (FORT), interview et texte : NATSUMI ITOH

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