英国随一のインテリ女優が、8人の映画監督から学んだこと。
レベッカ・ホール|女優
父は伝説的な舞台演出家サー・ピータ・ホール、母はオペラ歌手マリア・ユーイングという芸術一家に生まれ、ケンブリッジ大学を卒業。知的な演技派の多い英国女優の中でも、レベッカ・ホールはその代表格と言える。アマゾンプライム・ビデオの新オリジナルドラマ「ザ・ループ TALES FROM THE LOOP」は、彼女の資質が生きた珠玉のドラマだ。
いままで見たこともない、人間味のある神秘的なSF。
舞台はアメリカ中西部の田舎町。宇宙の謎を解き明かす研究施設ループで起こる超現実的物語を8話構成で綴る。スウェーデンの気鋭アーティスト、シモン・ストーレンバーグのアートブックが原作で、レベッカは天才物理学者ロレッタを演じる。
「いままで見たこともない物語なのよ。SFだけど、ポエムのようなエッセンスがあって。とても人間的でありながら神秘的だと思った」
原作者が育った1980年代を反映したノスタルジックな風景とSFを融合した独特の世界観は、出版当時からクリエイターの間で話題だ。
「ハイコンセプチュアルで視覚的に目を引くいっぽう、時間や生と死に関する普遍的な物語でもある。やや変わったキャラクターを、視聴者が信頼して共感できるように演じたつもり。彼女は自分をうまく表現できないタイプだけど、科学に関してはとてつもない才能と情熱がある。こういうひねりのある、自分をさらけ出す役こそやりがいがあるわ」
ロレッタを巡る母と子の関係というサブストーリーが、このドラマの最大の見どころ。幼い時に両親の離婚を経験しているレベッカは、一昨年、俳優の夫との間に一児をもうけたばかり。母と子に関する自身の経験からか、その複雑でエモーショナルなシーンには真実味が感じられる。
本作は、マーク・ロマネクやジョディ・フォスターなど、人気映画監督たちが手がけたことでも話題だが、その演出を間近で体験したことはとても刺激的だったと語る。
「8話とも異なる監督が異なるアプローチで演出しているのに、最後には1本の線になる。それって本当にすごいことだと思うの」
今年はレベッカも初の監督作『Passing』(原題)の公開を控えている。白い肌をした黒人の女性を巡る、ネラ・ラーセンの小説『白い黒人』を原作とした社会派スリラーだ。自ら脚本を手がける力の入れぶりで、テッサ・トンプソンやルース・ネガなど旬な俳優にもオファー。ハリウッドきっての知性派の新境地に、これまで見たことのない作品を期待したい。
1982年、ロンドン生まれ。ケンブリッジ大学卒業後、クリストファー・ノーラン『プレステージ』(2006年)やゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネートされたウディ・アレン『それでも恋するバルセロナ』(08年)で注目された。
少女ロレッタは、研究所に勤める母アルマが粒子加速装置ループの“心臓部の一部”を持ち帰ってしまったことで、創始者の祖父と口論している場を目撃する。翌日ロレッタが学校に行っている間に、アルマは家ごと消失。母を探して森に入ったロレッタはある少年に出会う。
Amazon Prime VideoにてAmazon オリジナルドラマ「ザ・ループ TALES FROM THE LOOP」配信中。
*「フィガロジャポン」2020年7月号より抜粋
interview et texte : ATSUKO TATSUTA