ときめきも不安も傍らに、冒険のような愛の探求者。
カーリー・レイ・ジェプセン|シンガーソングライター
恋をした瞬間の輝く気持ちをポップコーンのように弾けたサウンドで表現する、カーリー・レイ・ジェプセン。昨年は初となる日本全国ツアーを大成功させ、いまやジャンルの枠を超えて支持される存在となった。
「ジャパンツアーは過去最大規模で、多くの人からエネルギーをもらった。そのおかげで、自分の音楽に新しい生命が宿った気がする」
北欧の人気エレクトロDJとしても知られるユニット、Bloodshy&Avantとタッグを組んで制作した1990年代のスウェディッシュポップなバンドサウンドなど、斬新なアプローチで制作した楽曲が目立つ。ボーナストラック付きの全14曲で、曲ごとに変化する彼女の声の表情も魅力的に響く。
『デディケイティッド・サイドB』(ユニバーサル・ミュージック)¥2,200
新アルバムでは、前作の裏面を描く。
ツアーでも大きな熱狂を生んだアルバム『デディケイティッド』だが、実は収録しきれなかった曲が数百もあったという。今回新たにリリースした『デディケイティッド・サイドB』は、その未収録曲から特に思い入れの強かった曲を厳選して構成したものとなっている。
「前作は、二面性がある作品だと思っていたの。だから今作を完成させたことで、このプロジェクトが完結すると思った。愛への情熱や献身、恋愛の浮き沈みを表現したかった」
最新アルバムに入っている曲「ディス・ラヴ・イズント・クレイジー」は、バンドFun.のギタリストとして知られるジャック・アントノフとのコラボレーション。彼女らしい、華やかで恋をしたくなるようなポップソングに仕上がっている。
「スタジオで遊びながら音を作っていたら、恋愛や人生において何があっても好きなことにしがみつく気持ちを曲にしたいと思い立った。胸を張って自分に自信を持つ気分になれるようなパワフルな曲になったわ」
しかしアルバム全体としてはダークな印象が強い。恋をした瞬間のときめきだけではなく、その後に待ち受ける不安や葛藤を感じさせる曲が多いからだろうか。
「愛はいつだって魅力的なトピック。ときめきだけじゃなくていろんな瞬間があることを伝えたかった。常に自分の思いどおりのことが叶うわけではないけど、私が愛を信じているのは確か。愛は、絶えず続く冒険みたいなものね」
今回のアルバムでひとつの冒険にピリオドが打たれたものの、今後も愛について探求し、より深みのある曲を発信していきたいと語る。
「私にとって永遠の課題は、音楽を創造し続けること。同じものを繰り返し作りたくはないし、次は新しいことを模索したい。いまは、長年組んでいるギタリストとオンラインでセッションする日々。自粛期間も驚くような発見が続いているの! リスナーにも未来に期待を持っていてほしいし、これからの私を楽しみに待っていてほしい」
1985年、カナダ・ブリティッシュコロンビア生まれ。2012年、シングル「コール・ミー・メイビー」の世界的ヒットで注目される。同年、メジャー初アルバム『キス』をリリース。以降、3枚のアルバムを発表し、来日歴は15回。
*「フィガロジャポン」2020年9月号より抜粋
interview et texte : NAOHISA MATSUNAGA