自分のために踊る幸せを、観客と分かち合いたい。
オニール八菜|バレエダンサー
「世界バレエフェスティバルというのは、手の届かない夢だと思っていたんです。だから、カーテンコールで横一列に舞台上に並んだ時、こんなに素晴らしいダンサーばかりに自分が囲まれているなんて! と、信じられませんでした。全員、お互いに応援しあって公演を作り上げていった感じがあって、他のガラ公演とは一線を画すものだと思いました。とてもよいパワーをもらった気がしています」
無事に8公演を踊り終えたオニール八菜の喜びの言葉である。どんなにダンサーが切望しても選ばれなければ参加できず、それゆえに、ダンサー間では伝説的存在のフェスティバル。今回、出演が決まったマチアス・エイマンが彼女をパートナーに指名したのだ。
「マチアスは踊りやすく、とても息が合うパートナーなんです。彼が舞台上で放つエネルギーに私も乗せられて……彼との仕事はとてもエキサイティング。『海賊』は過去にも踊ったことがありますけど、これほど練習を重ねたのは初めてでした。4公演あるから失敗しても次がある、というようには踊りたくなく、毎回が1回限りの気持ちでミスなく踊りたかったから。プリンセスの役なので、のびのびと踊ることを意識すると同時に、テクニック面では確固たるものを見せたいと稽古して、その成果を出せたことに満足しています」

---fadeinpager---
楽しかった。フェスティバル期間を振り返り、こう繰り返す彼女。観客席の大きな拍手に込められたハッピーな気持ちとよいパワーを東京から持ち帰ったパリで、次のシーズンの稽古にさっそく挑んでいる。スタンダールの小説が原作の新作『赤と黒』で、主役マダム・ドゥ・レナール役を踊る4名のダンサーのひとりに選ばれたのだ。ドラマティックな作品、そして成熟した女性の役に初めて取り組む。
「私にとっては大きなチャレンジとなるので、楽しみです。プルミエール・ダンスーズとなってすでに数年が経過。パンデミックの少し前から感じているのは、それまで努力を怠っていたとは思わないけれど、ダンサーとして成長するうえで何かを変えていかなければ、ということなんです。役作り、作品の理解など、自分ひとりではできないと思ったら、過去にその作品を踊った誰かのところに出向いて行って話を聞くなど、自分なりの勉強のためにどんどん積極的に行動していこうと考えています。理解、納得を経て自分のために踊って得られる幸せを、観客と分かち合っていけたら素敵ですね」
28歳のいま、ソリストとして過渡期にあると感じている彼女は、新しい自分を求めて意欲的だ。東京滞在の最終日に訪れた明治神宮で奉納した絵馬に、どんな言葉を書き残したのだろうか。
1993年、日本人の母とニュージーランド人の父との間に生まれる。東京でバレエを習い始め、オーストラリア・バレエ学校を卒業後、パリ・オペラ座バレエ団の契約ダンサーに。2013年、正式入団。2016年にプルミエール・ダンスーズに昇級。
*「フィガロジャポン」2021年11月号より抜粋
text: Mariko Omura photography: Yuji Namba