ペネロペ・クルス独占インタビュー! 映画愛、そしてアルモドヴァルへの愛。

インタビュー 2022.11.02

11月3日から日本でも公開される『パラレル・マザーズ』での感動的な演技で、昨年はヴェネツィア国際映画祭の最優秀女優賞を受賞。ハリウッドのスパイアクション映画にも抜擢され、シャネルのアンバサダーとしても活躍するペネロペ・クルス。インタビューでは、映画への愛と母性、そして長らくタッグを組むペドロ・アルモドヴァル監督への深い敬愛を語った。

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Penélope Cruz
1974年4月28日生まれ。92年、『ハモンハモン』にて映画デビュー。『美しき虜』(98年)でゴヤ賞受賞。98年のアルモドヴァル監督作『オール・アバウト・マイ・マザー』で世界的な評価を受け、『バニラ・スカイ』(2001年)、『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』(11年)。『オリエント急行殺人事件』(17年)などハリウッド映画でも活躍。09年の『それでも恋するバルセロナ』で米国アカデミー賞助演女優賞受賞。アルモドヴァル監督作出演は、『パラレル・マザーズ』で計7本となる。

スペインはマドリード北部の郊外で生まれた、コケティッシュで人々を魅了する世界的女優、ペネロペ・クルス。子ども時代にアートや映画を愛する両親のもとで過ごした彼女は、映画女優への興味よりも、ダンスに夢中な少女だったという。だが、映画界はペネロペ・クルスという逸材を見逃さなかった。18歳の時、ビガス・ルナ監督のセンシュアルな映画『ハモンハモン』に出演したことで、一躍若手女優としてスペイン全土で顔が知られるようになった。驚くのは、本作の共演者に現在の夫、ハビエル・バルデムがいたこと。現在、バルデムとの間にはふたりの子どもがいる。スリムな肢体にあどけなさを残した可愛らしい顔、ぷっくりした唇に子鹿のようにつぶらな瞳。異性を惑わす眼差しとも言われるが、いずれにせよ、初々しさをも醸すチャームはスクリーン上の最終兵器でもある。この映画初出演以来、ペネロペ・クルスは映画界から消えることはなく、スペイン最高の人気女優の座を明け渡すこともなかった。2000年代にトム・クルーズと一時期恋愛関係だったことがきっかけでハリウッド進出し、幾つかの映画に出演した。08年にはウディ・アレン監督作『それでも恋するバルセロナ』でアカデミー助演女優賞を受賞している。でも、彼女がいるべき場所はハリウッドではなく、スペインのペドロ・アルモドヴァル監督のもとだったのだろう。監督とミューズ――ロベルト・ロッセリーニとイングリッド・バーグマン、ミケランジェロ・アントニオーニとモニカ・ヴィッティ、ジョン・カサヴェテスとジーナ・ローランズのように、魔法のような化学反応をふたりは起こす。アルモドヴァルはペネロペ・クルスの官能性を最大限に生かし、感動的な演技を引き出す術を知っている。ふたりがタッグを組んで2作目の『オール・アバウト・マイ・マザー』における、エイズを患う妊娠中のシスター役は本当に素晴らしかった。最新作『パラレル・マザーズ』は7作目。本作でペネロペ・クルスは第78回ヴェネツィア国際映画祭の最優秀女優賞を受賞し、第94回アカデミー賞にて主演女優賞にノミネートされた。

ペネロペ・クルスはアルモドヴァル映画におなじみのテーマである母性、社会的枠組みの超越や社会的プレッシャーなどについて語った。アルモドヴァル監督のことを語る時、感きわまって涙を浮かべることもあった。マドリッド、そしてハリウッド……世界のどこにいようとも、ペネロペ・クルスという女性は自由闊達に、自然体でこちらのインタビューに答えてくれるのだ。

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ペドロ・アルモドヴァルの神髄とは?

私にとって、ペドロは家族の一員。「女優になりたい!」という気持ちにさせてくれたのはペドロでした。14歳の頃にはペドロの作品をすべて観ていました。その時思ったのは、「自由を感じさせるからこそ普遍的な作品になりえる」のではないかということです。ペドロは自分の暮らす社会を解剖し、人々の魂を解きほぐす術に長けています。“イベリア半島のフェリーニ”と呼ぶにふさわしい存在でしょう。とても個人的な世界観を持っていて、それが印象的なシーンに結実している——その結果、ひと目でこの監督の作品だとわかるのです。

Penelope-Cruz-interview-02-221101.jpg『パラレル・マザーズ』の撮影現場より。アルモドヴァル監督自らカメラをのぞきアングルを決めたり、撮影後のフィルムを確認したり、出演者たちと入念にチェック。©Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

フェリーニ監督なら『道』でのジェルソミーナの涙、『甘い生活』での深夜のトレビの泉での水浴び、『フェリーニのローマ』での教会のファッションショーでローラースケートをする修道女たち。ペドロなら『ハイヒール』で「ピエンサ・エン・ミ(Piensa en mí)」を歌うマリサ・パレデスや『アタメ』のヴィクトリア・アブリル。ペドロの映画はフレーミングが常に完璧で、どこを切り取っても、まるで一枚の絵のよう。映画の作り方も私は好き。リハーサルが入念で、『ペイン・アンド・グローリー』では4カ月以上かけてくれました。すべてに気を配り、靴紐の色にいたる細部までおろそかにしません。己の芸術や俳優に対して敬意を払うということは、こうした姿勢にあるのだと思います。

Penelope-Cruz-interview-03-221101.jpg©Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

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彼が描く女性の強さとは?

ペドロは女性を敬愛し熟知しているからこそ、讃えることができるのです。ペドロの手にかかると、妻、愛人、娼婦を問わず、どんな役であれ、美しくて強い真の姿が描かれます。私は、いま挙げたどの役も演じてきました。『ペイン・アンド・グローリー』では彼の母親役にもなったんです! 役作りのためペドロのお母さんに会いに行き、どんな子どもだったか聞きました。息子であるペド
ロがやっとスペインの電話会社に就職したのに辞めてしまってがっかりしたこと、いまでも辞めたことは残念に思っていること、息子がなんとかなるのかとても不安だった、と話してくれました。何度も誇らしげに言っていたのは、「あんなに偉くなって。本人の好きなようにやらせてよかった」。『ペイン・アンド・グローリー』では、ペドロから役作りにいくつか指示が出ていました。そのひとつが、「あまり母性を出さず、少し厳しいぐらいのほうがいい。お母さんは辛い人生を送っているけれど、あなたが唯一の宝物、ということを子どもにわからせるように」。

Penelope-Cruz-interview-04-221101.jpg『ペイン・アンド・グローリー』では、強く逞しく、そして美しく健気な女性を演じた。この役は、ペドロ・アルモドヴァルの実際の母親を投影している。©El Deseo.

大人になったペドロを演じたのはアントニオ・バンデラスです。それ以来、アントニオは会うたびに私のことをママって呼ぶんです。まるで、本当の家族でしょ! ペドロが女性を敬愛するのは、母親、おばさん、いとこ、近所のおばさんなど、彼が女性たちに育ててもらったからです。彼が育った1950年代のラ・マンチャでは男性は不在がちで、仕事に行っているかカフェにいるか、時には父親が誰だかわからない場合もありました。ペドロは少年時代、サッカーに行かずに女性たちのおしゃべりに耳を傾け、彼女たちを眺めていました。そこで、豊満でパワフル、自立心が強く、頑固だけれどとてもセクシーな女性の姿が頭に焼きついたのです。だからこそ『パラレル・マザーズ』ではふたりのヒロイン、ジャニスとアナのどちらも丁寧に描き、妊娠中や出産時というぎりぎりの状況でも美しく描くことができました。ペドロの映画で母性は常に重要です。私たち女性が人生のどんな時でも、楽しい時も辛い時も、非凡な力を発揮できる事実に、ペドロはいつも感心しています。彼は、女性特有の、愛して、耐えて、許す能力に魅了されているのです。

Penelope-Cruz-interview-05-221101.jpg『パラレル・マザーズ』で、ペネロペ・クルスはジャニスという写真家を演じる。ジャニス・ジョプリンを愛するヒッピーな母に名付けられた名前という設定。©Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

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ファッションへの興味関心は? 

私はシャネルのアンバサダーを務めていることをとても光栄に思っています。夢が叶いました。子どもの頃からこの老舗ブランドの服の写真を集めていて、カール・ラガーフェルドに会いたいと思っていたのです。私にとってカールは天才そのもの。ヴィルジニー・ヴィアールはその後を見事に引き継ぎました。女性が何を欲しがっているかを熟知していて、ちょっとロックンロールなテイストを加味したシックでエレガントなコレクションを作っています。それは、まさに私が好きなファッションです。

Penelope-Cruz-interview-06-221101.jpg2022年の8月末から9月上旬に行われた第79回ヴェネツィア国際映画祭に、『L'Immensità』(原題)の主演女優として訪れたペネロペ・クルスはアンバサダーを務めるシャネルの衣装で登場。ツイードのトップ部分と、金銀糸で刺繍を施したロングドレス。ハート形に開いたデコルテのラインも美しい。©CHANEL

Penelope-Cruz-interview-07-221101.jpg2021/22 メティエダール コレクションより、刺繍入りのクレープジョーゼットのロングドレス姿で。©CHANEL

Penelope-Cruz-interview-08-221101.jpg2022/23年秋冬 オートクチュール コレクションより、襟元に刺繍が施され、ピンク色の葉モチーフが印象的なブラックレースのロングドレス。「ツイード ドゥ シャネル」リング、「コメット コレクション」リングやイヤリング、「シグネチャー ドゥ シャネル」ネックレス、「リュバン ドゥ シャネル」イヤリングなど、3ルックとも豪華なビジューはすべてシャネル。©CHANEL

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映画というクリエイティブの魅力とは?

私にとって創ることは、食べる、飲む、呼吸することと同じくらい重要です。創作することと、それが傑作であるかどうかは別問題です。そもそも、自分では傑作なのかどうかわかりません。創るということは、探すこと、想像すること、考えること、これまでの自分から変わることです。女優としては、どの役も新しい体験でゼロからのスタートです。たとえば『355』のアクション映画ジャンルは私にとって未知の分野でした。新たな作品に取り組むたびに、大学に戻って勉強をやり直している気分になります。そう感じることはすごいことです。私は演技を学んだわけではなく、実地で学んだというか、母がやっていた美容院のお客さんを観察して、頭の片隅に記憶したことが役立ちました。その後、踊りを学び、モデルになりましたが、勉強は続けました。

Penelope-Cruz-interview-09-221101.jpgあどけなく愛らしい若き日のペネロペ・クルス。『ライブ・フレッシュ』の中のワンシーン。©Sony Pictures/Everett Collection/amanaimages

17歳の時、『アタメ』の試写会に行く機会がありました。衝撃を受けて、運を試してみようとペドロが募集していた小さな役に応募したのです。その役には若すぎたものの、私のことを彼が覚えてくれました。やがて『ライブ・フレッシュ』出演のオファーが来て、フランコ政権が非常事態宣言をした日にバスの中で出産をする女性の役を演じることになりました。その頃からすでに、ペドロは彼の考えを私に話してくれました。『ライブ・フレッシュ』では、肉欲という要素に欲望や疑念、不安、痛み、恐怖や感動が交錯します。この作品は暗い話なのに、とても陽気で不遜な役でした。いずれにせよ、最初の小さな役への応募がきっかけとなって、ビガス・ルナ監督の『ハモンハモン』へと繋がり、それ以来ずっと演じる仕事を続けています。

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ルーツの大切さとは?

私のルーツはマドリードです。とても良い波動を持つ街です。開放的で鷹揚で、ホスピタリティがあり、スペインのほかの都市よりも自由度が高い。おそらく、この街から若者によるカウンターカルチャー「ラ・モヴィーダ・マドレーニャ」(※)が始まったことが影響しているのでしょう。自分のルーツがあり、代々語り継いでいくべき家族史があることは大切です。受け継ぐべき記憶というのは『パラレル・マザーズ』のテーマのひとつでもあります。

Penelope-Cruz-interview-10-221101.jpg『パラレル・マザーズ』内で語られるスペイン内戦による悲劇。自身の祖先の骨を探す人々が、スペイン国中にいる。写真は発掘現場のシーンだ。©Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

それは祖先から子孫へと受け継がれていくものなのです。映画の冒頭で、私が演じるジャニスは、スペイン内戦で殺されて集団埋葬された共和主義者の曽祖父の遺体を探し出したいと告白します。家族の墓に埋葬しなおすことで、曽祖父の存在を記憶に留めたいと思っているのです。あの内戦は、現在もスペイン人の記憶にあるのです。

※ペドロ・アルモドヴァルが中心となって進めた自由なクリエイションや若者文化を推奨するカルチャームーブメント。ナイトクラビングやパーティなどが大トレンドとなった。

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母性本能の強さとはどのようなものか?

母親になりたいとずっと思っていました。私自身の2度の妊娠中、自分の内に母性本能を感じました。出産はすごい体験で、内的な革命です。この映画でペドロは母性本能の確実性を言及しています。なぜならジャニスは、自分がお腹を痛めて産んだ子なのか否かに関係なく、抱かせてもらった子どもを愛しいと感じるからです。同じ日に産院で出会ったふたりの妊婦に何が起こったのか、どんな未来が待っているのか――ジャニスは気付いても、もうひとりの妊婦だったアナにすぐにそのことを伝えず、その間にアナは可愛がっていた娘を亡くしてしまいます。アルモドヴァルは、ここから話を展開させていくのです。ここで語られるのは、封印された秘密、母性の勇敢さ、そして姉妹愛です。

Penelope-Cruz-interview-11-221101.jpg『パラレル・マザーズ』より。同じ産院で、同じ日に出産することになったペネロペ・クルス演じるジャニスと、ミレナ・スミット演じるアナ。病室でも語り合い、シスターフッド的な関係の発端となる。その後、「似ていない」不安を抱きながら、我が子セシリアを大切にジャニスは育てていく。©Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

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枠組みを飛び越えることとは?

ペドロは社会の枠組みをいつもうまく飛び越えます。たとえば彼の作品は、母親、友人、愛人など、あらゆる女性の姿を描いています。ふたりの主人公、ジャニスとアナも友だちのような愛人のような立場です。この性的関係は無償ではありません。ふたりの女性が肉体的な関係を求めるのは絶望から逃れたいから。アナは子どもを亡くし、ジャニスはアナに真実を伝えるのが遅すぎました。

Penelope-Cruz-interview-12-221101.jpg母同士、友情で結ばれていたジャニスとアナの関係は、同居と、置かれた状況の寂しさから、意外な方向へと発展していく。『パラレル・マザーズ』より。©Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

※このインタビューは、2021年11月、シャネル2021-2022年クルーズ・コレクションにて、ドバイのショーにアンバサダーとして訪れた際に行われた。

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『パラレル・マザーズ』

写真家のジャニスは法人類学者の男性と不倫関係の末、妊娠。産院でアナという女性と知り合い、同日に出産したふたりは子ども取り違えに遭う。再会後、ふたりの関係も変化し……。

●監督・脚本/ペドロ・アルモドヴァル 
●出演/ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット、イスラエル・エレハルデほか
●2021年、スペイン・フランス映画 ●123分
●配給/キノフィルムズ
●11月3日より、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほか、全国にて順次公開。

https://pm-movie.jp/

 

【合わせて読みたい】
▶︎▶︎ペネロペ・クルスを堪能するアルモドヴァル作品全7本。

*「フィガロジャポン」2022年12月号より抜粋

text: Richard Gianorio (Madame Figaro) , Isabelle Girard (Madame Figaro)

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