未来にも過去にも行けるタイムレスな音を。
サンダーキャット|ミュージシャン
「自分は未来だけじゃなくて、過去にも行くことのできるタイムレスなサウンドを心がけているよ」
そう話すのは、宇宙空間を漂うようなユニークな音を響かせながら、超絶テクニックを誇るベース奏者のサンダーキャット。2年前には、4枚目のオリジナルアルバム『It is What It is』でグラミー賞を受賞した。彼の音楽に魅了されてコラボしてきたアーティストは、ケンドリック・ラマー、ジャネール・モネイ、マイケル・マクドナルド、ゴリラズなど、ジャンルを超えて数え切れないほど。
「ベースはあらゆる音楽にオープンな楽器で、何でもありの世界だから、演奏をどんな方向にも持っていける。共演する時の判断基準は、自分が相手に対して何を与えられるか、その作品の中で自分らしさをキープできるかどうか。僕がさまざまな人と分け隔てなく共演するのは、人が大好きなこともあると思う」
最新曲の「No More Lies」は、オーストラリア出身のテーム・インパラ(ケヴィン・パーカーのソロプロジェクト)と共同制作した。意外な組み合わせだが、アルバムデビューをした時期が近く、しかも「黙示録」をテーマにした楽曲を同じ頃に発表していたため、以前から彼のことが気になっていたそう。
「ケヴィンはインディ・ジョーンズばりにつかまえづらく、連絡を取るのが大変だった(笑)。僕は歌詞を結構おもしろおかしく書いてしまうタイプ。でも真面目なケヴィンは、僕の言いたいことが"終わりつつある恋愛について"というシリアスな内容だと知ったら、これでは伝わらないと、違う表現方法を考えてくれたよ」
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表現者であるサンダーキャットは、イラストレーターとしての才能も持ち、ファッショニスタとしても知られている。
「僕は日本のデザイナーが作る服から刺激を受けることが多い。形もサイズもジェンダーレスで好きなように着ることができて、オープンマインドにさせてくれるのがいいよね。たぶん人間には、生まれつきマスキュリンな部分もフェミニンな部分もあると思う。そしてアートって自分の感情表現だから、僕は自分の中にあるものをそのまま表現することが、いちばん大切だと思っているんだよね」
体格が大きく、そのインパクトに一瞬圧倒されるが、取材中はリラックスした雰囲気で接してくれて、「オープンマインド」という言葉を何度も口にしていた。サンダーキャットの演奏を聴くと宇宙空間を漂っているような気分になれるのは、彼のそういったおおらかな姿勢が音楽にも注入されているからなのだろう。
1984年、ロサンゼルス出身。本名スティーヴン・ブルーナー。ベース奏者、音楽プロデューサー、シンガーほか、最近は俳優デビューも。フライング・ロータスなどの多数の作品に参加。初来日は20年前。大の親日家でもあり、アニメや映画にも詳しい。
*「フィガロジャポン」2023年11月号より抜粋
text: Natsumi Itoh photography: So Mitsuya