結婚について、考えてみる。

アメリカの映画界で、その才能が注目されている映画監督夫婦が、結婚についてのメッセージ性の高い作品をふたり揃って撮りました。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグと、『マリッジ・ストーリー』のノア・バームバックです。ちなみにフィガロジャポン7月号(5月20日発売)でも、ふたりの動向をずっと眺めてきたコラムニスト・山崎まどかさんが原稿を執筆してくださっています。

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のんさんが表紙の先月発売の号です。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は、日本では先週の6月12日劇場公開で大ヒット中! 新型コロナ禍の影響を受けて公開が延びてしまいましたが、良いスタートが切れて本当によかった。
もちろん原作はあの名作『若草物語』。南北戦争の時代に、貧しくても楽しく日々を生きる四人姉妹とその母親の日々が描かれています。子どもの頃に女の子なら一度は読んだことがある“推薦図書”としても名高い作品。
グレタ・ガーウィグ監督は『ストーリー・オブ・マイライフ~』を、極めて原作のメッセージをきちんと伝える方法論で撮った、と感じました。

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シアーシャ・ローナンの透明感は、広末涼子さんに似ている!と個人的に思っているKIMです。

ソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』(2006年)に登場するブルボン王朝の王妃マリー・アントワネットは、仕草もありようも現代の女の子の佇まいでした(衣装は違うけれど)。ソフィア・コッポラもグレタ・ガーウィグもガールズムービーの騎手としてファンが多いですが、アプローチ方法がまったく違っていたので、それがとっても興味深かった。グレタの若草物語は奇を衒わず、とってもストレート!に感じました。
こんな名作を現代に映画化する意義とは‥‥‥そしてプレッシャーも強かったんじゃないかしら、と思います。登場人物たちを、特に原作者のオルコット自身の映し鏡である次女のジョー役を「現代女性として見事に表現」、という解釈が多いようですが、個人的にはむしろ過去の時代を生きた原作者ルイザ・メイ・オルコット本人が現代女性たちに通じる考えの持ち主だったんだ、と感じました。 
仕事をしたい。女性だからという理由で妨げられたくない。困っている人を助けたい(普遍的なようでいて、実はとても現代的なテーマですよね)。結婚が本当に人間の(女性の)幸せの最終形態なのか疑問を持ちたい。
過去の人物を現代的に発展させてこのような問題意識を描いたのではありません。原作に「すでに書かれていた」ことなのです。
女性っていつの時代も変わらないなぁと痛感する場面は、女の子たちが集まると、とにかくお喋りに興じるということ。それを男性は眺めるしかない。女優たちはこれだけのセリフをスピーディに自然に喋りまくるのは困難を極めたのではないかしら。ガールズトークという言葉どおりの、溌剌とした可愛らしさが家族の間にあります。

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女優たちに指導する、グレタ・ガーウィグの姿も。

彼女たちがはしゃぐマサチューセッツ州の田舎町の家のインテリアがとてもロマンティックです。こういうディテールが胸を突く! 家のいろんな場所に置かれるドライフラワー、花柄の壁紙、パッチワークキルトの布・・・・・・。慎ましくも愛らしい幸せなカントリースタイルです。クリスマスのシーンの食卓も、おいしい幸せに満ちている。その食卓のおいしいものたちを、困っている人たちを助けずにはいられない母親(ローラ・ダーン、うまし!)の提案で、貧しい一家に運んでいきます。そんな「人が共に生きていくってどういうことか?」を表現する場面でも、しめっぽくないところがグレタ・ガーウィグらしいところです。

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作家になる野心を心に秘めたジョー。

主人公のジョーはお金を作るためと自身が強くなる願いを心に秘めて、自慢の長い髪を切ります。家族だからこその遠慮ない図々しさで、妹のエイミーは姉のジョーを妬んで原稿を燃やしてしまったり、湖にスケートに出かけたジョーを罪悪感から追いかけたエイミーは薄氷が割れて溺れ、瀕死状態に・・・・・・など、結構激しい姉妹関係も描かれます。ふたりの片想いをぐるりと一周させる真ん中にいる男性が金持ち隣家の御曹司ローリー(ティモシー・シャラメ)。ティモシーはこの6月、ウディ・アレンの『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』にも主演で話題が続きますね。

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末っ子のエイミーを演じたフローレンス・ピューは『ミッドサマー』にも出演していた最注目の若手女優。

ローリーにずっと恋心を抱き続けてきた四女エイミー。ローリーと友情でしっかり結ばれながらも、恋愛も結婚も、人生の目的として認めきれなかった次女ジョー。結婚に対するアプローチだって、疑問を持ったり、渇望したり、一人ひとり異なる考え方が昔からあったのです。

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今作が抜きんでて優れているなあと感じたのは編集。四姉妹に″ある悲劇″が起こるまでの、過去と現在を交錯させて繋いでいく編集によって、登場人物たちの想いがより鮮やかに強調されたと思います。そこから一気にラストへ走っていくのです。
どれだけ女性の物語は描かれてこなかったのか、をジョーは出版社や世間に問うていきます。ようやく自身の本が出版されることになり、印刷から装丁されるまでを追うシーンは、編集者であり出版社に勤める自分としては泣けました・・・・・・。書物が出来上がるということ、伝えたいことがある人の言葉が本というプロダクトによって広められるということの重さと期待が詰まったシーンです。

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では、ところ変わって現代。グレタの夫、ノア・バームバックはこれまた直球タイトル『マリッジ・ストーリー』を撮りました。ノアのかつてのパートナー、ジェニファー・ジェイソン・リー(ノアは本当に女性の好みがセンスいいですね)との離婚の時のことや、本作に主演するスカーレット・ヨハンソンの離婚の時のことなどが反映された、ちょっとした歪みとすれ違い(もはや勘違いの域)から、夫婦の泥沼関係までの物語なのですが、なんとも愉快で目が離せない。決して眠くならない映画です。

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夫婦は息子の親権を巡ってこの後闘いを始める。

大都会に暮らしていると、人って、動物的な自然なことを少しずつ失っていってしまう。ごまかしがなければないほど、イライラした自分をコントロールできなくなるし、コントロールできないまま不器用人間でもいいのかも・・・・・・。そんな感想を抱きました。離婚を考えている友人が『マリッジ・ストーリー』を観て、スカヨハとアダム・ドライバー演じる離婚協議中の夫婦が怒鳴りあい、互いの欠点を指摘して罵り合う場面を、いたく羨ましがっていたからなのです。
「あの夫婦が羨ましかった。私もダンナとあんなふうに本気でぶつかり合えれば、もやもやした感情もなく、離れても一緒に子育てを協力し合える関係を築けるかも、と期待できるのに」 by 友人(小学校の時からの)。
この友人の感想がずしんと私にも響き、映画が観客に与えるメッセージの同時代性やシンパシーのパワーをあらためて体感したのです。

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ジェニファー・ジェイソン・リーのような個性がある女優から、グレタ・ガーウィグのような自身も演じメガホンもとる映画作家へ、パートナーを移した監督ノア・バームバックの人生とも重ね合わせて観てしまいますよね。

2020年の米国アカデミー賞作品賞に、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』、『マリッジ・ストーリー』2作ともノミネートされました。主演&助演女優賞も。そして2作品ともに出演するローラ・ダーン(『マリッジ・~』では妻側の弁護士役)が助演女優賞を受賞。ほかにもさまざまな部門にノミネートされていました。

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ローラ・ダーン、今年のアカデミー賞では注目でした。デヴィッド・リンチの『ワイルド・アット・ハート』(1990年)など、妖しげな天然系の印象が強いのですが。

ハリウッドでも注目されるセレブな映画作家たちという目線ではなく、「地に足がついていて、人間を描くことに長けたクリエイターたち」という意味で、グレタ&ノアは、本当に素敵です。今年のアカデミー賞の話題が集中したのは韓国映画『パラサイト 半地下の家族』でしたが、自分たちの人生や生きる場所、そして同時代性を映画に見事に表現した点では、この2作もひけをとりません。
ぜひ2作品とも観てください。
この創り手たちがカップル! 何度も言いますが、本当に素敵です。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
●監督・脚本/グレタ・ガーウィグ 
●出演/シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、フローレンス・ピュー、ティモシー・シャラメ、エリザ・スカンレン、ローラ・ダーンほか 
●2019年、アメリカ映画 
●135分 
●配給/ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント 
●全国順次公開中
『マリッジ・ストーリー』
●監督・脚本/ノア・バームバック 
●出演/アダム・ドライバー、スカーレット・ヨハンソン、ローラ・ダーンほか 
●2019年、アメリカ映画 
●136分 
●Netflix映画『マリッジ・ストーリー』独占配信中
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