万博だけじゃない、熱気に満ちた対話を生んだ大阪での時間。
在本彌生の、眼に翼。 2025.12.28
写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回は日本・大阪の旅。

おなじみの大屋根リング、こちらの写真は4月に撮影。この頃はまださほどの混雑はなかった。雨上がりの夕焼けが美しくて思わず撮った一枚。
大阪、デザインと対話の街で。
vol.34 @ 日本・大阪
開催期間が残り少なくなった大阪・関西万博だけが理由だろうか、大阪はものすごい人出だった。9月中旬でも残暑は厳しく、新大阪駅に降り立ち「34度」とのデジタル文字を見て少し気が遠くなった。それでも活気あふれるこの街にいま、世界中から人が集まっているのだから、ここで新刊写真集『リトアニア リトアニア リトアニア!』の出版記念展覧会を開いてたくさんの人に作品を見ていただこうと意気込んで準備した。中之島のgraf porchに滞在しながらの展示だったので、10日余りの大阪暮らしを楽しんだ。何度か撮影の機会にも恵まれちょっとした二拠点生活体験だった。
ビッグイベントは万博だけではなく、かつて造船所だった大きなスペースを会場にした「DESIGNEAST」も9年ぶりの開催で、全国からたくさんの人が集まっていた。デザインとは、プロダクトや誌面を作るだけでなく、ライフスタイルそのものを創造すること――それを多角的に見せる展示やトークイベント、フードイベントが行われていた。会場では久しく顔を合わせていなかった友人たちとの偶然の再会が重なって、この街の引力を実感したのだった。大阪の人たちはたいそうよく話す。イタリア人は一緒にいて口数が少ないと「どうした? 具合でも悪いのか?」と言ったりするが、同じようなノリを大阪の人たちに感じることがある。話すことで楽しくコミュニケーションを取りそこから学びを得る、ここでは新しい発想が対話から生まれているように感じる。展示中、在廊をしてもお好み焼きを食べに行っても、会話から作品も人も繋がっていった。

「DESIGNEAST」の会場。中に入るとすぐに目に入ったのが食にまつわる展示と出展。巨大な建物の中で友人たちと連続してうれしい再会。ローマを拠点に批評家として活動する多木陽介さんとも久々に対面、しばし立ち話。彼の著書『失われた創造力へ』で、イタリアデザイン界の巨匠たち、A・カスティリオーニ、B・ムナーリ、E・マーリ等の言葉に目が覚める。日常を問い直し、発見するおもしろさ。いまの私たちが忘れてはならないことだろう。

鉄板料理店、やきやき晴の花にて。店主のはるさんがお好み焼きを焼く姿はライブパフォーマンスさながら。思わず見入る。
多木陽介編訳著
どく社刊 ¥3,300
東京生まれ、写真家。
関西で聞く言葉の軽快さ、親しみやすさが羨ましい。東京弁で喋る自分の言葉の温度が低くて少し寂しく感じるのは私だけではないはず。
*「フィガロジャポン」2025年12月号より抜粋
photography & text: Yayoi Arimoto







