10月17日から19日までの3日間、ニューヨークで年に一度のユニークなイベントが開催された。普段は立ち入ることのできない建築やアートスペース、公共施設など、約300カ所が一般に公開される「OHNY(オープンハウス・ニューヨーク)」だ。
映画『スパイダーマン』に登場する、ロックフェラーセンターの屋上庭園、「620 ロフト& ガーデン」。 photography: Rockefeller Center
今年はロックフェラーセンターの屋上庭園や南北戦争時代の要塞フォート・トッテン、市の堆肥施設、ワールドトレードセンターのプライベートギャラリーまで、通常は入れない場所が、開放される。ロックフェラーセンターの屋上公園は、映画『スパイダーマン』のロケ地としても有名だ。またゴワナス運河をカヤックで巡るツアーなど、建物を見るだけではなく、自分の身体で都市の空気や仕組みを感じられる体験ができる。
このプロジェクトは、単なる建築ツアーではない。市民が街のデザインの裏側に触れることで、「都市をどう生きるか」を問いかける社会的アートプロジェクトでもあるように感じる。再開発が進むニューヨークでは、家賃高騰やインフレが深刻化し、経済的に住むことが困難で、郊外に引っ越す人も多い。そんな中で、建築家や市民自身が、どのようにこの都市と共に生き、未来を描くのか、オープンハウス・ニューヨークはその問いを投げかけているように思える。
ブルックリンの陶芸スタジオ〈BAT Clay〉では、熟練の陶芸家たちが使う最新設備や手づくりの作業スペースを見学できる。 photography: Meg Metzger
このイベントはどのようにして誕生したのだろう?
オープンハウス・ニューヨークのアイデアが生まれたのは2001年。9.11の直後、警備が強化され、人々の移動が制限されていた時期に、建築家のスコット・ラウアーは「閉じた都市ではなく、ひらかれた都市を取り戻したい」と感じ、その思いから生まれた小さな試みが、2003年の初開催を経て、いまでは5万人が訪れる市民フェスティバルへと成長した。ラウアーはOHNYの創設者で、同団体の活動は、「この街をすべての人に開く」というシンプルで力強い、彼の理念がベースになっている。
目的は、建築を見せることだけではない。都市を支える仕組みや働く人々、その背景にある思想を可視化することだ。ウェブサイトの公式ミッションには「場所の質と暮らしの質の関係を探求し、すべてのニューヨーカーがこの都市を自分のものとして享受できるようにする」と記されている。また「私たちの活動は、自然と人工の両面からなる都市のインフラやシステムを探求しながら、公平性や気候危機といった課題に向き合うことを目的としている」とも。
このエネルギーあふれるスピリットは世界にも広がり、現在ではアテネやチューリッヒなどの約60の都市で「オープンハウス」イベントが開催されている。オープンハウス・ニューヨークの事務局長クリスティン・ラブズはプレスリリースの中で、こう語る。
「オープンハウス・ニューヨーク・ウィークエンドは、街を分かち合うという、シンプルでありながら革新的な行為に根ざしている。このフェスティバルは、好奇心旺盛なニューヨーカーたちに、この街を形づくる人やプロジェクト、場所を探索するための特別なパスを与える」
ゴッサムパーク内のBrooklyn Banks(ブルックリン・バンクス) は、マンハッタンのローワーイーストサイドにある伝説的なスケートスポット。 photography: Jay Maldonado
来月に市長選を控えるニューヨークでは、都市の未来をめぐる議論が再び熱を帯びている。オープンハウス・ニューヨークで、街を開くということは、都市をどう生きることか、を考えてみるのも良さそうだ。
OHNY
創業当時は84カ所だった公開施設も、いまでは約300カ所を超え、年間5万人以上が参加する規模に成長している。入場は一部無料、一部有料。事前予約が必要なところもあるのでウェブサイトで確認を。
会期:2025年10月17日~19日
https://ohny.org/