避妊:女性たちにのしかかる精神的、肉体的な負担。

Society & Business 2021.09.21

9月9日、フランスのオリヴィエ・ヴェラン連帯・保健大臣は、来年1月1日から25歳未満の全女性の避妊治療を無料化すると発表した。費用、苦痛、精神的負担、避妊治療による副作用。女性にのしかかる重荷はカップルの関係にまで影響を及ぼす。

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ステディな関係のカップルにおいても、避妊は女性だけの負担になっていることが多い。photo:Getty Images

来年1月1日から、25歳未満の全女性を対象に避妊を無料化する。9月9日朝、テレビ局フランス2に出演したオヴィリエ・ヴェラン連帯・保健大臣は、こう発表した。「ホルモン剤による避妊法、それに伴う検査、診察、処方、そのほか避妊に関わる治療全般が無料で利用できるようになります」。

フランスでは現在、避妊は未成年のみを対象に無料化されている。「避妊法の利用は減少している。その一番の要因は、経済的な理由です」とヴェラン大臣は対象年齢を25歳に引き上げる根拠を説明した。低所得層にとって心強い措置ではあるが、今回の施策が対象とするのは女性の避妊のみ。カップルも含め、多くの場合、精神的負担から副作用まで、避妊に関わる不都合なことは女性がひとりで引き受けているのが現状だ。

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ひとりで抱える負担

「ピルをはじめて体重が10キロ増えた」、「これまで3回ピルを変えた。婦人科医も3人目。どの医者もちっとも私の話に耳を傾けてくれなかった」、「かかりつけの婦人科医は、私が無理を言っていると言う。“何もかも思い通りには行かない”って」。SNS上では、#PayeTaContraception(避妊治療費の支払い)のハッシュタグをつけて、女性たちが続々と証言を寄せている。

経口避妊薬や子宮内避妊具による副作用、黙って耐えなければならないという重圧感、相談に乗ってくれる医療関係者の不足。1967年に避妊法が合法化されて以来、バースコントロールは主に女性の問題として扱われてきた。特定の交際相手がいるかどうかに関わらず、女性だけに負担がかかっている現状に、多くの女性が不満の声を上げている。

「避妊しないで性交渉をした後に何をしなければならないかと聞いた男性はひとりもいなかった」とルイーズは言う。23歳の学生で特定の交際相手のいない彼女は、性交渉を持った相手は誰ひとり避妊のことなど気にしていないときっぱり。普段はコンドームを利用するが、そうもいかなかった場合(こういう夜は、必ずしも話し合う時間が取れるわけではない)は、ひとりで望まない妊娠の不安を抱えることになる。

「ある男の子とコンドームなしでセックスをしたことがあった」とパリに住む彼女は語る。「あまりに不安で眠れなかった。それなのに彼はすやすや眠っていた。私は翌朝早く起きて、アフターピルを買いに行ったというのに」。薬局から戻ると、目を覚ましていた彼がどこに行ったのかと聞く。「説明したけれど、気にする様子はこれっぽっちもなかった。ひとこと皮肉を言って、それでおしまい」。納得のいかない孤独感。「避妊しなかった自分を責め、アフターピルがますます罪責感を募らせる。こうしたことが私たち女性をいらだたせ、不安にする」

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“すべて段取りよくこなすのは大変なこと”

ルイーズと同じように、大半の女性はひとりで避妊に対処している。フランス公衆衛生局が発表した2016年の指標によると、避妊法を利用しているのはフランス人女性の71.9%で、71.8%が医療的手法(経口避妊薬、子宮内避妊具、インプラント、パッチ剤、避妊リング、注射、卵管結紮(けっさつ)術、あるいはパートナーの精管切除術)を利用している。ほぼ10人のうち7人だ。そして、望まない妊娠を防ぐための負担は多くの場合、女性が引き受けている。

パートナーである男性たちは、コンドーム以外の避妊法については関心を払わないという残念な傾向がある。「なかにはちょっと質問をする人もいましたが、それだけ。生殖の仕組みは誰でも学校で勉強したはずよと言っても、自分には関係ないと返されてしまう」と、25歳のジャーナリストのファニーは嘆く。4年前にインプラントを埋め込むまでは、経口避妊薬とパッチ剤を利用していた。ピルは飲み忘れがよくあった。パッチ剤は皮膚のかぶれと重い生理痛。それにどちらも公的医療保険で全額カバーされるわけではない。「これまで費用の半分を払うと言ってくれた男性はひとりもいません」と彼女は言う。

それというのも異性カップルの大部分で、生殖に関する健康管理は女性の責任と考えられているからだ。とりわけフランスは「いまも経口避妊薬を避妊法の中核に位置付ける硬直化したモデルから脱却していない」と、国立保健医学研究所研究部長で社会学者のナタリー・バジョは説明する。

2016年の統計では、15~49歳のフランス人女性の33,2%が経口避妊薬を利用している。このことを「患者自身が話題にすることは滅多にありません。これが重要なことであるとは誰も想像していない」と性科学医でカップルセラピストのクレール・アルキエは説明する。「異性間性交渉をする女性はひとりで何とかすべき、という考え方が主流で、人々の意識の中に定着してしまっている」

しかし避妊は大きな負担になることもある。婦人科での定期検診、ピルの規則正しい服用、場合によっては薬の副作用……。「これらをすべて段取りよくこなすのは大変なことです。身体的、感情的、物質的、経済的、互いにぶつかり合ういくつもの負担に総合的に対処しなければなりません」とアルキエは言う。

2012~13年に経口避妊薬による健康被害が発覚して以来、注目されるようになったナチュラルな避妊法も負担が軽いわけではない。月経周期と排卵日を知るためには、「毎日きちんと身体に現れる症状をチェックする」ことが必要だと言うのは、自然な避妊法を実践する24歳のレア。「万全を期すなら、体温を測り、頸管粘液(子宮頸部の入り口で分泌され、排卵期に性状の変化が見られる)の状態を観察し、頭痛などの身体に起きる変化を普段からすべてメモしておかなければなりません」

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私の身体、私の問題

フランスで避妊薬の処方が合法化されたのは1967年のニュヴィルト法以来で、最終的に施行令が成立したのは1973年だ。「妊娠のコントロールが医療化され、主として女性に関わる科学的で効果的な避妊法が実用化されるようになりました。しかしこれは(自分の身体の自己決定権に関わる)政治的主張と結びついています」と、パリのフランス報道機関研究所講師で歴史家のビビア・パヴァールは説明する。

当初は「大きな自由」とみなされたものの、「1980年代には、女性が避妊の責任を負わなければならないという硬直した考え方に行き着きます。当時の女性の権利大臣イヴェット・ルディの主導で行われた、避妊に関する初の公的キャンペーンが女性だけを対象に行われたことは、それを雄弁に物語っています」。「選択できる」と題された問題のキャンペーンは1981年に開始された。アニエス・ヴァルダが制作したテレビ用スポット広告では、「避妊は権利である。誰もが情報を得ることができ、十分に理解した上で選択することができなければならない」と訴えている。

フランス国立社会科学高等研究院と超領域社会問題研究所の社会学博士課程に在籍するセシル・トメも、制約の「順応化」という表現を使う。つまり集合意識のレベルでは、女性が妊娠コントロールを引き受けることがいまや当たり前になっているというわけだ。子どもを産むのが女性である以上、「いずれにしても女性たちが責任を放棄するわけにはいきません」と、研究グループ「避妊とジェンダー」のメンバーでもあるトメは説明する。「おかげで男性たちがこの問題に関心を持たずに済んでいるのです」。

さらに経口避妊薬がフェミニストと医師の結束から生まれただけに、ピルが前提とする「生殖の医療化と、女性の身体の医療による管理が問い直されることはほとんどありません」とトメは指摘する。しかしバースコントロールが婦人科医療に属するというのは「フランスに特有の事情」で、イギリスやカナダでは男性も関与する仕組みになっていると彼女は言う。

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男性の“干渉”

オープンに話し合えるカップルのなかには、避妊を共通の問題としてとらえている人たちもいる。「夫婦として生活を始めるからには、夫婦生活に付随するすべてのことに関わるべきというのが夫の持論でした」とマリーは言う。外科手術を伴わない子宮内避妊器具エシュアのインプラント(2017年以降フランスでは禁止されている避妊法)を受けるまで、現在48歳の保育補助員の彼女は、20年近くの間、経口避妊薬を利用していた。「夫は私の産婦人科の通院日をすべてメモして、必ず付き添ってくれました。私が知っていることはすべて彼も知っていました」と母親でもある彼女は言う。

しかし男性がここまで避妊に協力するのは決して簡単なことではない。男性が避妊に関与することを、パートナーの女性だけでなく男性自身が「干渉と見なすこともある」とトメは言う。

アントワーヌのケースがそうだ。カップルで暮らして10年になる30歳のエンジニアの彼にとって、パートナーがピルをやめたいと言った時から、避妊はいたって日常的な話題になった。しかし彼は婦人科の診察に付き添ったことは一度もない。「彼女は、婦人科の診察はあまり好きではないとよく言っていました。でも一緒に行こうと考えたことは一度もない」と彼は認める。「第一に」スケジュールが合わないし、単なる「定期検診なら、僕がいる必要はないかなと」と彼は理由を挙げる。しかしそれだけではない。「彼女と婦人科医の間に入っても居心地が悪そう」とアントワーヌは説明する。

女性の身体に関わることに男性が干渉するべきではないという考え方は「わりと簡単に取り払える思い込みです」と前述の性科学者でセラピストのアルキエは言う。カップルセラピーで避妊の問題に取り組むときは、「男性の側に、自分が関わることをパートナーが介入と捉えるかどうか尋ねるように促す」だけでいいとセラピストは言う。「パートナーの女性が、いいえ、逆にそうしてくれたら嬉しいと言える機会を作ってあげればいいのです」。通常、生殖に関する健康管理に「居場所がない」と感じている男性たちを取り込むには、多くの場合こうしたやりとりが唯一の手段となると社会学者のトマは話す。

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68年5月革命の男性たち

パートナーに積極的に寄り添うだけではなく、さらに先を目指す男性たちもいる。1968年の5月革命の理想がまだ鮮明な色合いを保っていた70年代、男女間の不平等是正に関心を持つ男性たちにとって、生殖に関わる問題は新たな考察のテーマとなった。

ジャン=リュックは自分自身が「まさに1968~70年のこうした動きののなかから生まれた」と言う。現在57歳の彼は避妊合法化初期の雰囲気を振り返る。「責任の分担をめぐって盛んに議論がされていた」頃、当時彼が仲良くしていたホモセクシャルやフェミニストの仲間たちは性の解放の最前線にいて、ティーンエージャーだった彼はさっそく男性主体の避妊法という考え方に興味を持つようになった。

「Ardecomが発行する新聞がその話題を最もよく取り上げていた」とジャン=リュックは語る。Ardecomは男性主体の避妊法についての研究と開発を目的とする非営利団体。定期刊行物の発行のほかに、男性によるグループディスカッションを主催して、性行動や妊娠の管理における男性の役割について議論する機会を提供していた。

Ardecomのメンバーのなかには、ジャン=クロード・スフィールとロジェ・ミウセのふたりの医師が開発したホルモン法や熱を利用した最新の避妊法(熱を発する下着を着用し、精子の形成を抑制する)を利用した人もいた。団体はいまも活動を続けており、性と生殖に関する情報提供を行うパリ市の非営利団体プランニング・ファミリアルが運営するセンターで毎月活動を行なっている。

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微小外科

2001年にようやく合法化された精管切除術は最もよく知られた男性の避妊法のひとつだが、多くの誤解もつきまとう。「このことを話すと、多くの女性が驚きます。でもそれは彼女たちが正しい知識を持っていないため」と、20年以上前に手術を受けたジャン=リュックは言う。「彼女たちは私が勃起や射精の問題を抱えていると思ってしまう」

身体への負担は少ないとはいえ(「局部麻酔で15分で終了、傷が塞がるのも早い」)、外科手術はやはり怖い。2013年の国連の調査によると、精管切除術を受けているのは男性の0.8%にすぎない。それに対して卵管を縛る卵管結紮を選択した女性は3.8%だ。

一度精管を切除をすると元に戻せないのが、多くの男性が手術をためらう要因だ。とはいえ手術を受ける前に精液を冷凍保存することは可能だ。また睾丸から外科的に精液を採取することもできる。外科手術によって精子が含まれる精液を運ぶ精管を切断するわけだが、改めて手術を行うことで精管を再び繋ぐことも可能ではある。

しかしこの微小手術は精密な技術を要するため、必ずしも機能が回復するとは限らない。ゆえに、精管切除術は一度受けたら元に戻せないと考えた方がいい。これは卵管結紮も同じだ。

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ホルモン注射

マテオも精管切除術を検討したが、今のところは後戻りできる解決法を選ぶことにした。25歳の舞台音響スタッフの彼とパートナーが経口避妊薬に代わる方法を探し始めたのは数カ月前のこと。週に一度ホルモン注射を受けるのは生活リズムに合わないため、彼はトゥールーズ大学病院のミウセ医師が実用化した電熱下着を試すことにした。純粋に機械的なこの避妊法は、1日最低15時間は下着を着用しなければならず、決して楽とはいえない。しかしマテオはこれを乗り越え難いハードルとは考えていない。「朝9時から夜11時まで履いています。ちょうど仕事の時間帯です」。

女性たちがこれまでずっと辛い思いをしてきたことには知らん顔して、大部分の男性が不快とかきついなどと悲鳴を上げるのに、マテオは「これを実行している自分を誇らしく感じる」と言う。同時に、自分が例外であることも自覚している。「実践している男は多くない。そして、そのことに気付いている男はもっと少ない」

※名前は一部、変更しています。

text:Sofiane Zaizoune (madame.lefigaro.fr)

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