【35歳の卵子凍結】凍結を終えて、気持ちは楽になったのか?
Society & Business 2021.12.10
20代半ばで多嚢胞性卵巣症候群と診断され、妊娠しにくい体質だと判明したAさんは、35歳になったことを機に卵子凍結を決心した。都内の会社に勤務しながら、杉山産婦人科に通い初めての採卵を行った。
無事、採卵を終えたAさん。体外受精による妊娠の可能性を考えて目標としていた10個には達しなかったが、8個の卵子を凍結することに成功した。「正直、10個以上採卵できたらいいなと期待していたので、決して満足できる凍結個数ではありませんでした。来月また採取することもできると言われましたが、お金もかかるし続けて行う気にはなれませんでした」
初診から合算すると、今回の採卵周期で約¥640,000を支払った。
>>【35歳の卵子凍結】採卵は痛い?手術と術後の現実。
「コロナで出費が減ったとか、無駄遣いではないとか、いろいろ自分に言い聞かせましたけど、やはり高額ですよね。もう少し普及して卵子凍結の費用が下がってくればいいのですが」。実際、今年から特定不妊治療費(体外受精と顕微授精)の助成は拡充され、2022年4月からついに体外受精などの治療に保険が適用となる見込みだ。
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将来のパートナーに求めるもの。
卵子凍結を終えて、気持ちの面ではどう変化したのだろうか。
photo: iStock
「かなり楽になりました。自分の中で35歳を妊娠のリミットにしようと考えていたのですが、気持ちに余裕ができたので、仕事やプライベートに集中できるようになりました。一方で彼ができた時は、どんなタイミングで卵子凍結について伝えればいいか考えてしまいます。まだ一般的とは言えないので、相手に理解と協力を仰がなくてはなりません」
凍結した卵子で体外受精を行うことに抵抗がある人とはパートナーシップを結べないというAさん。「せっかくお金をかけて卵子凍結に踏み切ったので、この卵子を使ってできるかぎり妊娠にトライしたいなという気持ちはあります。もちろん、この卵子を使っても妊娠にいたらない可能性もありますし、そこは未来のパートナーとじっくり話をしながら決めていければなと」。
恋人にいつ打ち明けるのか、タイミングについても慎重にならざるを得ない。「45歳までは保存の延長が可能なので、この先の約十年、しっかり考えていきたいです。その間に、社会の目や制度が良いほうに変わるといいなとも思っています」
周囲の友人に対しては、卵子凍結したことを話しているAさん。「同性・異性を問わず、肯定的な意見が多かったです。IT企業に勤めている知人の女性は、会社で卵子凍結の助成金が出るのでやってみるつもりだ、と言っていました」
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卵子凍結を考える女性たちの状況は単純ではない。
妊娠適齢期があるという現実を理解していても、子作りのリミットから解放されたいと願う独身女性は少なくないだろう。また、せっかく妊活をしても、卵子の老化という現実に悩むケースも。両方の可能性を考えて Aさんのようにいまできることを準備しておくという考え方は、女性にとっての選択肢のひとつであるといえる。「いちばんのハードルは資金ですよね。そのハードルを下げてしまうと、若い人が子どもを産まなくなってしまうと危惧している人たちがいるのでしょうが、状況はそれほど単純ではありません」。
女性のライフプランは千差万別。妊娠年齢の幅を少しでも広げられれば、女性はもっと生きやすくなるはずだ。30代から40代で変化していく自分の身体とライフスタイルの選択肢を考える上で、最新医療の現場を知ることがその第一歩となるだろう。
体外受精のいま。
1978年、世界で初めて体外受精を成功させたのは、イギリスのエドワード博士。初の体外受精児であるルイーズ・ブラウンはすでに結婚し、自然妊娠を経て出産をしている。この功績を認められ、博士は2010年ノーベル生理医学賞を受賞。日本産科婦人科学会の最新データ(注)によると、日本でも71万人以上の子どもが体外受精によって誕生している。現在日本では体外受精が不妊治療の主流となっており、2019年に体外受精によって誕生した子どもの数は過去最多の60,598人。年間8,605,234人の出生に対して、年間出生数の約14人にひとりにあたる。また年間では約458,000周期の治療が行われており、体外受精件数としては世界第1位となっている。その背景には日本では高齢になってから体外受精を試みる女性が多いこと(平均39歳)、国内では法的整備がないため提供卵子が認められておらず、結果として同じ人が何回も体外受精を受けていることも挙げられる。
(注1)日本産科婦人科学会が学会誌で2021年9月号で発表した2019年の治療成績。累計数は、1983年に東北大で国内初の体外受精児が誕生してから2019年までの出生児数。
cooperation: Rikikazu Sugiyama(Sugiyama Clinic) text: Junko Kubodera