WeWorkでの出会いが広げる、新たな食の可能性。

Society & Business 2022.09.22

全国各地でフレキシブルオフィスを展開しているWeWorkの都内のオフィスには、メンバー同士が交流できるカフェスペースが設置されている。このカフェを運営し、オリジナルメニューで利用者に安らぎのひと時を提供しているのが、早稲田を本拠地に都内でカフェを展開するフォルスタイルだ。

代表の平井幸奈さんは、大学在学中にカフェを創業、それからさまざまな食のブームを生み出してきた。常に話題を生み出す実業家としてひた走ってきた彼女だが、WeWorkを通して、飲食に対する考え方、そして“働くこと”に対する考え方に変化が起こったという。彼女のキャリアの転換点は? 話を聞いた。 

photo_photo-forucafe東京ワールドゲート(WeWork神谷町)にて.jpgWeWork 神谷町トラストタワーのカフェスペースの運営もするフォルスタイル代表の平井幸奈さん。phorogarphy : Foru Style

平井幸奈(ひらい・ゆきな)
株式会社フォルスタイル代表取締役。1992年、広島県生まれ。アルバイトを通じて飲食に携わる仕事に関心を持ち、早稲田大学政治経済学部在学中の2013年、日本初のブリュレ フレンチトースト専門店「forucafe」をオープン。その後、フォルカフェとして法人化し、グラノーラやドラフトコーヒーサーバーなどさまざまな食のトレンドを生み出す。2019年からは原宿のWeWork アイスバーグをはじめとし、都内のWeWork内のカフェを運営している。現在1児の子育て中。フォルスタイル : https://forucafe.com/

 

■食のブームを手がけた学生起業家の“不安”

小さな頃から食べることが大好きだったという平井さん。大学進学後はフレンチレストランでアルバイトをするが、「もっと日常に密着した料理を知りたい」と、“世界一の朝食”と話題を呼んだシドニー発のレストラン「bills」日本1号店で、オープニングスタッフとしてアルバイトを始める。そこで提供されるシンプルながら洗練されたメニューとアットホームな厨房に魅せられ、大学2年生の時には、ワーキングホリデー制度を使って単身オーストラリアへ。憧れのbills本店での勤務を通じて、料理は国境を越えると実感し、「自分も食文化を発信する仕事がしたい」と心に決める。

bills in SYDNEY 一緒に働いていたシェフたち.jpg のコピー.jpgオーストラリアのbillsの厨房。「シェフもとてもフレンドリーで、アットホームで素敵な職場でした」と平井さん。photography : Courtesy of Yukina Hirai

帰国後、夢の実現の第一歩を踏み出そうと、友人向けの料理教室をスタート。平井さんが作る料理は口コミでに話題になり、知人の飲食店を定休日だけ借りて週末限定のカフェを開くことに。billsでの経験をもとにメニュー開発やPR戦略を練り、2013年、日本初のブリュレフレンチトースト専門店「forucafe」をオープンした。店はSNSで瞬く間に広まり、1カ月先まで予約で埋まる日々が続いた。

初期に開発したブリュレフレンチトースト.jpgforucafe創業時に開発した看板メニュー、ブリュレ フレンチトースト。photography : Foru Style

その後、“学生が始めたお店”で終わらせたくない、とカフェ事業を法人化。新しい食文化を発信したいと、グラノーラのオリジナルブランドを開発したりドラフトコーヒーサーバーを導入したりと、食のトレンドを次々と生み出してきた。その一方で、ある不安にさいなまれる。「商品を作って、PRして、メディアに出たら売上もどんと上がるけれど、翌月にはがくんと下がる。だから、常に新しいブームを作らないといけない……。当時はブームを作ることや流行を生み出すことに魅力を感じていたけれど、一方で、“これ、いつまで続けるんだろう?”という不安もありました」(平井さん、以下同)

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■コロナ禍で気付いた、古くも新しい飲食店のあり方。

卒業後も、平井さんはカフェ経営に実直に向き合い、forucafeを都内に3店舗に展開するなど、着実に事業を広げていった。しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで状況は一変した。2020年の緊急事態宣言時には、当時運営していた3店舗のうち、2店舗が施設側の都合で突然営業ができなくなった。助成金の仕組みもまだ見えていなかった状況で、仕事も売り上げも収入源も突然絶たれてしまった。

当時第1子を妊娠中だったという平井さん。大きなお腹を抱えながら、銀行を回って融資を依頼し、スタッフにも一人ひとり事情を説明し……と、「ぐちゃぐちゃの毎日だった」と振り返る。「それまでは好きなことを仕事にすることにやりがいを感じていたし、多少大変なことでも乗り越えられると思っていたけれど、コロナ禍は精神的にも本当にきつくて……。そもそも私はなんでこの事業を始めたんだろう? と自問自答していました」

そんな時に心の支えになったのは、店を訪れるお客さんの温かい声援だった。「『がんばってね』という声はもちろん、『何かできることはある?』『クラウドファンディングで支援するね』などと温かい言葉をいただいて、これはお店を辞めるという選択肢はないな、と」

forucafe本店の食事.jpg「あなたのために(for you)」という思いを込めて名付けたforucafe。シンプルでありながら丁寧なメニューの数々で人気を集めている。photography : Foru Style

事業を続けることは、自分の大切な場所、そして大切な人々との関係を守ることだと気が付いた平井さん。それまでは「食のブームを仕掛ける事業を」という思いが強かったが、この経験を通じて、「日常に密着し、地域に愛される店を作りたい」と改めて感じたという。

「forucafeの本店がある早稲田には、特別なメニューがあったりメディアに取り上げられたりするわけではないけれど、週3回来てくれる常連さんが何十人もいるようなお店がたくさんあります。地元の人たちに愛されている周辺のお店を見ていて、これこそ“日常に密着した料理を作りたい”という、私がもともと目指していた飲食店の形なのではないかと思ったんです」

本店外観.jpgコロナ禍でテイクアウトのメニューもスタート。それをきっかけに地域の人との交流も増えたという。 photography : Foru Style

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■可能性を広げてくれたWeWorkでの出会い。

全国でフレキシブルオフィスを展開するWeWorkでの経験も、“日常に根ざした料理を”という思いの実現を後押しした。以前からケータリング事業などを通じて、同社とつながりがあったという平井さん。2019年からは原宿のWeWork アイスバーグでのカフェ運営を任され、自身も同オフィスのメンバーとして、デスクワークや商談の際は都内の拠点を利用していた。

forucafe原宿店.jpgWeWork アイスバーグ内にあるforucafeは、一般の人でも利用できる。photography : Foru Style

「WeWorkのオフィスが使いやすいのはもちろん、ほかのメンバーとの繋がりも生まれて、そこからさまざまな企画をご一緒する機会に恵まれました。たとえば、メンバーからWeWorkで食べたいメニューのご希望をいただいたり、メンバーの企業ロゴと同じ色のドリンクを作ってPRのお手伝いをしたり、イベントでその企業にあったお料理を提供したり……。ある時は、ペルー大使館の方からアボカドをたくさんいただいたので、それを使って一緒に何か作りませんか?とご提案いただいて、アボカドを使ったメニューをWeWork内のカフェで提供したこともありました」

メンバーさん(One Planet Cafeさん)とのコラボメニューのソイミートをつかったタコライス.jpgWeWorkメンバーとの交流がきっかけで生まれた「タコライス」。photography : Foru Style

さらに、今年7月には、WeWorkメンバーの地方3自治体と初めてのコラボレーションし、地域の魅力が詰まった「Conect Local カレーBowl」を、WeWork アイスバーグのカフェで期間限定で提供した。

974a7b7206c28fe36f4b57e0d68655cc6c1b4a50.jpegWeWorkメンバーの宮城県気仙沼市、福岡県北九州市、長崎県壱岐市の食材を掛け合わせた「Conect Local カレーBowl 〜古代米のメカジキココナッツカレー スイカと夏野菜添え〜」。各地域の生産者とオンラインで会議を重ね、新鮮な食材を最大限に活かし、幅広い年齢層に楽しんでもらえるメニューに仕上げた。photogaraphy : WeWork

今回のコラボレーションを通じて、おいしいものを作り届ける、だけではなく、カフェの経営者として「日本の地方の食材の豊かさや生産者にもっとスポットが当たるような仕組みをつくりたい」と感じたという平井さん。そのために、今後も自治体とコラボレーションしたメニュー開発に継続的に取り組みたいと意気込む。と同時に、彼女はさらにその先を見据える。

「数年前に娘が生まれて、彼女の未来がいまより良いものになってほしいと思っています。今後、子どもに向けた食育イベントやメニュー開発体験などを実現して、娘たちの未来に貢献できるよう取り組みもやってみたいと思っています。そして、カフェという枠組みを超え、食文化や食の未来をつくることに挑戦してみたいです」

forucafeshibuya.jpg子どもの未来が少しでも良くなるように、食で貢献していきたいと語る平井さん。photography : Foru Style

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■「自分の選択を正解に」

3年続く飲食店は3割、10年続く飲食店はわずか1割……。そんな統計もある中で、フォルスタイルは今年8月、創業10年目を迎えた。さまざまな壁にぶち当たりつつ、食の魅力を一貫して発信し続けてきた平井さんには、学生時代から大切にしてきた言葉がある。

「いろんな壁にぶち当たるたびに、起業する時にある先輩に言われた『自分の選択を正解にできるかどうかは自分次第だよ』という言葉を大切にしています。厳しい時や迷う時こそいろんな人の意見に流されがいだけど、最後は自分の気持ちに従うことが大切。『自分が選んだこの選択を絶対に正解にする!』という強い気持ちを持って臨むようにしています。

もちろんビジネスだけでなく、子育ても自分の生活も含めて、苦しい思いをしたり、いろんな選択をしたりしなければならないことがあると思います。でもそんな苦しい時こそ、『いまが自分が一番変われる時』とポジティブ捉え、自分の選んだ答えを正解にしていきたいです」

さまざまな困難に直面しても、自分自身が選び取った仕事だからこそ続けられる——。そう朗らかに笑う平井さんの強い意志とWeWorkでの新たな出会いが掛け合わさり、これからの日本の食文化、食のビジネスの可能性はより豊かに広がっていく。

■取材協力
フォルスタイル https://forustyle.com/
WeWork https://weworkjpn.com/

text : Toshiko Fujimoto

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