パリのチェンジナウ サミットで、日本の起業家が感じたサステイナビリティへの意識。
Society & Business 2025.05.12
地球課題に取り組む世界の企業やチェンジメーカーたちが集うChange NOWサミット(以下、チェンジナウ)が4月24日〜26日、パリのグランパレで開かれた。今年日本で初開催されたケリング・ジェネレーション・アワードの受賞者たちも参加。世界のチェンジメーカーたちとの出会いで見えたものは?
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グランパレで開催されたチェンジナウ。地球の問題解決に取り組む世界のチェンジメーカーが集うサステイナビリティサミットだ。2017年にスタートし、気候変動、大気汚染、食糧生産、エネルギー消費など地球が抱える課題に取り組む革新的な企業や、影響力を持つ有識者・起業家を集め、産業や地理的な壁を超えて解決策を拡大・普及させることを目的としている。
8回目を迎えた今年は約400社がブースを出展し、500人のスピーカーが登壇。カンファレンスやトークセッション、ワークショップなど多彩なプログラムで構成された。
ファッションやジュエリー、ビューティにおいて名だたるグローバル・ラグジュアリーブランドを擁するケリングは、2018年に初めて支援を開始し、その後6年連続でチェンジナウを支援している。3月に日本で開催されたケリング・ジェネレーション・アワードにて受賞した4組が、このサミットに参加。同アワードで1位に輝いたファーメンステーション代表の酒井里奈に話を聞いた。

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「地球規模の解決策」を考えるサミットで、禁じられていることとは?
食品廃棄物を機能性バイオ素材に変えることで、さまざまなモノやコトが再生・循環する社会を目指すファーメンステーション。代表の酒井は以前からチェンジナウに興味を抱いていたという。
「スタートアップ向けの展示会にはいろいろ参加してきましたが、チェンジナウのテーマは地球規模。全体のテーマは"地球のための解決策"です。志を同じくする人たちとのコミュニケーションの場として期待を持って臨みましたが、非常にインスパイアリングな体験となりました」
ブースを出展するにあたり、事務局とのやりとりにおいても学ぶことが多かったという。
「運営面でも、環境負荷をかけないための配慮が徹底されていました。紙の配布物は禁止、大きすぎるパネルも不可、ダンボールなど再利用できる素材を使います。サミット全体でCO2排出量を計算しているので、飛行機は極力使わないようにといったアドバイスもありました。フードコートは難民支援団体が運営していて、食材もサステイナブルな観点から選ばれている。すべてに学びがありました」

100以上の未利用資源を微生物の力でバイオ原料へ転換しているファーメンステーション。ブースではさまざまなサンプルを展示した。
「いま、世界では石油に依存しない新たな素材の開発が急務で、発酵技術はかなり主流になっています。多くの企業がしのぎを削っている分野なので、とても関心を持っていただき、手ごたえを感じました」と酒井。
米ぬかからミルクのフレーバーを作ったり、リンゴやユズ、コーヒー粕から香水の原料を生み出すなど、ファーメンステーションが作る植物ベースの原料は多くの反響を呼んだ。

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香水の本場フランスで感じた、サステイナビリティの意識。
フランス滞在中は、招聘元であるケリング社による、香水の製造工程を紹介するプログラムにも参加した。
「フランス人にとって香水は文化です。香水の産地であるグラースの工場を訪ねたり、世界的に著名な調香師の方に私たちの原料を試してもらいました。どの工程においても生物多様性やサステイナビリティの意識が素晴らしく、会社が一丸となって取り組んでいる熱意が伝わってきました」
日本ではあまり意識することが少ない水の問題にも、世界では多くの国が切実に取り組んでいることを実感した。「社会にとって水の課題は死活問題です。ファッションブランドは製造過程において非常に多くの水を使いますが、そこに対していかに技術を応用していくかも問われていると感じました」
気候変動がビジネスに与える影響の大きさを肌身で感じた酒井。事業を続ける上で余計なゴミを出していないか? との質問も多く受けた。
「私たちはゴミと思われているものを原料に変えている。それでも事業を進める上で環境に負荷をかけていないか? と、日本ではなかなか問われることがない鋭い質問を受けました。弊社では残さを飼料や肥料にするなど無駄なものが出ない製法を心がけていますが、これからも常に強い意志を持って自らを律していかねばと思いました」

金融機関でのキャリアを経て、30歳を過ぎてから全く異なる業種で起業した酒井。新たな挑戦をすることで、もうひとつの世界を見ることができたという。
「ケリング・ジェネレーション・アワードをきっかけに、自分が信念を持ってやっていたことがイノベーティブであると認められ、チェンジナウに参加できた。いままで遠い世界だと思っていた海外の人たちと対等に向き合うことができたんです。チェンジナウには女性の登壇者も多かったのですが、みんなが口を揃えて言ったのが『Act now』。そのうち、じゃなくて『いまやろう』と。今回インスパイアされたことを胸に刻み、これからもソーシャルな課題に共感する国内外のパートナーとともに、新しい市場を開拓していきたいと思っています」
text: Junko Kubodera