ウイルスと闘う世界のいま。#17 草原の真ん中に誕生した、世界一安全なレストラン。
Travel 2020.05.21
文・写真/神 咲子(在ストックホルムコーディネイター)
まず最初に少しオカタイ話から。スウェーデンの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策はあまりに独特で、全世界からの注目をいい意味でも悪い意味でも浴び続けている。最初はどちらかといえば非難轟々、少し前まではポジティブな見解。そして現在は、結局どれがいいかは断言できないので様子を見ましょうという感じだ。
ひとつ確認しておきたいのは、スウェーデンは最初から「集団免疫獲得」を目指していなかった事。なぜかやたらとメディア上では、「スウェーデンは集団免疫獲得を狙っているためロックダウンはしていない」などと取り上げられていたが、どこからその話が持ち上がってそこまで広まったのか?と当のスウェーデンはどちらかと言えば困惑気味。「平坦化戦術」が当初からの基本対策で、ロックダウンによる経済的&精神的ダメージを避けるために、閉鎖はしていなかったのだ。
ただ、死者数は5月20日時点で3700人超に達し、10万人当たりの死者数は36人(デンマークは同9.4人、ノルウェーとフィンランドは同4~5人)と、ロックダウンした隣国諸国と比べるとかなり高い。以前も書いたが、ロックダウンしていないとはいえ自宅自粛勧告があり、国外への渡航は基本禁止だ。航空会社をはじめとする交通関係は運行数を大幅に減らし、ホテルやレストラン業界も閉店に追い込まれ、失業者も増加を辿るばかり。経済的にも、他国と比べていい結果を望めそうなわけではない。
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でも、ピンチや逆境の時こそ最大のチャンスとはよく言ったもので、こういう最中に素晴らしいアイデアが出てくるのはうれしい限りだ。そのなかでもユニークなのが、5月10日からサービスを開始した「Bord för En」(一人用テーブル、の意)。
スウェーデン中央部ヴェルムランド県ランセーテル村のまさに“なにもない場所の真ん中”に誕生したのが、一人用テーブル1台に椅子1脚の野外レストラン。料理は前菜・主菜・デザートの3品で、キッチンがある近くの小屋の窓から滑車を使いカゴでサービスする。料金は客が自ら決め、支払う。
「コロナ禍で肉親を失ったり職を失くしたりと、被害の大きさは計り知れません。だからここではそれぞれのゲストに値段を決めていただきます」と企画者のひとりは語る。先の見えない不安な状況に生まれるアイデアと、そのベースにある良心に心が温まる。ちなみにこちらのコンセプトは「世界一安全なレストラン」だ!
上から前菜、メイン、デザート。
またストックホルム市内にあるバー「Tjoget(ショーゲット)」では、エスプレッソマティーニなどカクテルテイクアウトと称するキットを販売。アルコール規制が厳しいスウェーデンでは「国営販売所」以外でのアルコール販売は違法。こちらのキットはアルコール飲料以外のすべてが揃っており、家で蒸留酒などを入れて混ぜるか振るだけで、プロ並みのおいしいカクテルの出来上がり。おつまみキットも追加注文できる。
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texte et photos : SAKIKO JIN, title photo : alamy/amanaimages