ウイルスと闘う世界のいま。#02 森と湖の国スウェーデンからも、トイレットペーパーが消えた。
Travel 2020.03.25
文・写真/神 咲子(在ストックホルムコーディネイター)
「鎖国」「世界恐慌」とはまさにこういうことを言うのかと、身をもって感じ始めたのが3月9日あたりから。イタリアの完全閉鎖に始まり、隣国デンマークとノルウェーが国境をクローズしてからというもの、ありとあらゆるイベントが中止になった。それに伴いホテルはガラ空き状態。航空関係がいちばんひどいけれど、交通手段はキャンセルに次ぐキャンセルで客なし状態に。3月25日現在、スウェーデン国内における新型コロナウイルス感染者は約2300人に上り、死者数は40人とされている。
いちばんびっくりしたのは、スーパーの棚からトイレットペーパーが姿を消していたこと。気持ちはわからなくもないが、なぜにトイレットペーパー? スウェーデンは世界有数の製紙業国。資材の木(森林)はこれでもかというほどあるし、国内の流通も特別問題は起きてない。しかもトイレットペーパーってかさばるのでは?と余計なお世話!的な心配をしてしまう。
すべてなくなったスーパーのトイレットペーパー売り場。ほかには小麦粉、乾燥パスタ、缶詰類がかなり品薄に。
前例がないとはいうものの、新型コロナウイルスへの反応や対応はトイレットペーパーに限らず混乱している。スウェーデン政府は学校の閉鎖を検討しているが多くの問題が浮上し、いまだにはっきりとした解決策は見えていない。というのも、学校を閉鎖して自宅学習にすれば親が仕事を休んで付き添わなければならない。もしその親たちが、いまこの状況でいちばん必要とされる医師や看護師、救急隊員や研究者などの場合、休まれては困るという悪循環に繋がるからだ。
また、すべての子どもたちが学校ではなく家で過ごす余裕を持っているわけでもない(食事問題など)。そんなことも考慮しなければならないという、解決の糸口のない8の字状態。
3月20日、政府は高校以上にはリモート授業への切り替えを勧告。高校未満への閉鎖勧告はいまのところ見合わせている。
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政府からの「公共の場での人との接触は避けよう」という提言で、週末の夜なのに繁華街はガラガラ。地下鉄もガラガラ。バスは運転手を感染から守るため、乗客は後ろのドアから乗り降りし、テープを貼って運転手に近づかせないようにしている(タダ乗りする人がいっぱい出てきそうだなぁと思いつつ、客いないからあんまり変わらないか、と訳のわからない自問自答の繰り返し)。
そんなわけで、稀にみる晴天も手伝ってか、平日の昼近くにもかかわらず自宅近辺の郊外の散歩道にはこれでもかというほどの人が行き交っていた。春の訪れを思わせる花々の芽吹きにちょっとした安心感をもらうとともに、せっかくだからふだんは予約するのが難しいおいしいところにでも食べに出かけようと考えている私はやはり甘々なのか……? でももし、明日何かあって死んだとしたら、その前においしいものを食べていい気分であの世に行きたいって食い意地張ってるだけ?
外出禁止令は出ておらず、多くの人が春の陽気を楽しんだ。ちなみにこの日、3月22日の気温はいまだに1度と寒い。
不安なニュースが流れる中、長く暗い冬から明るい春をもたらす野の花の開花には、ついついニコリとうれしくなる。
texte et photos : SAKIKO JIN, title photo : alamy/amanaimages