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かわいい子には旅をさせよ、『哀れなるものたち』のベラが旅路で見た世界は?

第96回アカデミー賞にて作品賞を含む11部門にノミネート、そして第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門では最高賞の金獅子賞、第81回ゴールデングローブ賞では作品賞と主演女優賞を受賞した、いま大注目の『哀れなるものたち』。

本作は、『籠の中の乙女』、『ロブスター』そして『女王陛下のお気に入り』を監督したヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンが再びタッグを組み生み出した前代未聞の話題作だ。原作からファンだった編集RFがその魅力に迫る。

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photography: ©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

舞台は19世紀のロンドン。若きベラ(エマ・ストーン)は不幸な死を遂げる。外科医ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)の手で蘇生したベラは、身体は大人で頭脳は新生児の姿となる。その回復と記録を見守るマックス・マッキャンドレス(ラミー・ユセフ)は、やがてベラと恋仲となり婚約するが、ベラは「世界を自分の目で見てみたい」と弁護士のダンカン・ウェダバーン(マーク・ラファロ)とヨーロッパ横断旅行へ出発。ベラが見た世界とは?

成長しきった女性の身体で世界をまっさらな状態でみるベラの視点は、子供のころの「なんで?」を思い出す。「なぜお皿は割ってはいけないのか」「なぜ欲望に溺れてはいけないのか」「なぜ貧富の差があるのか」「なぜ女性は医師にはなれないのか」現代の人々に植え付けられた "普通は"という当たり前の常識にベラは真っ向から不思議がる。その姿は、私たちを自由な思考へ解放してくれる。

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photography: ©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「かわいい子には旅をさせよ」というが、世の中を知らないベラが旅に出て、成し遂げたかった「世界を自分の目で見る」ことで、この世界をよくしたいという気持ちに目覚め、そしてこの男性社会での生き抜く方法を見つけ出す。旅を通して自らのアイデンティティをかたちづくり、更新し続けるその姿をみると、ベラにこの言葉がピッタリだと思う。
奪われた自分の権利を身体を自分の経験と頭脳で取り返すベラの姿は頼もしく、エンパワーメントされる。

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photography: ©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンの再結集で、公開前から注目を浴びていた。奇書で知られる原作「哀れなるものたち」を映像化した本作は、このふたりでないと実現できなかったのではと個人的に思う。

2018年に数多くの映画賞を受賞した『女王陛下のお気に入り』では、ランティモスの作家性とダークで難解な世界の中で生きるエマ・ストーン演じるアビゲイルの姿が印象的だった。18世紀初頭の王室で女性たちの生活を描き、いわばイギリス版大奥の中で生き抜くアビゲイルは、美しく若い女性であるが故に女王にある"搾取"をされる。そんな彼女が、演じるからこそベラの存在が際立つ。

「アラスター・グレイの作品好きそう」と友人に勧められて映画を観る前に読んだ原作は、奇妙で複雑に構成された作風、そしてグレイ自身が描いたエキセントリックなイラストのパワーに押しつぶされそうになった......。が、そのエネルギーこそが『哀れなるものたち』の本質なのだと思う。魅力いっぱいの映画、そして原作を楽しんで!

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哀れなるものたち
監督/ヨルゴス・ランティモス
主演/エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、ジェロッド・カーマイケル
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
全国公開中
https://www.searchlightpictures.jp/movies/poorthings
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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