スーパーモデルブームを起こした彼女らに迫る。「ザ・スーパーモデル」は何を語るのか?
Apple TV +で「ザ・スーパーモデル」が配信されている。リンダ・エヴァンジェリスタ、シンディ・クロフォード、ナオミ・キャンベル、クリスティ・ターリントンがどうやって「スーパーモデル」と呼ばれるようになり、その後どんな人生を歩んだのかを描くドキュメンタリー。先駆けてUS・UK版「VOGUE」9月号のカバーで4人が久しぶりに揃ったことが話題になっており、どんな裏話を聞けるのかと鑑賞を楽しみにしていたのだが、パリコレクション取材を挟んでしまい、完走したのは10月初めパリのホテルにて。このたびようやく振り返ってみたいと思う。4人分の人生が交互に描かれ、登場する業界人も豪華絢爛。盛りだくさんの内容なのだが、ここでは個人的に印象に残った3つのポイントをお伝えしたい。
まずは、「スーパーモデル」がどれだけすごかったか。
彼女たちは1980年代から名を馳せてはいたが、番組によれば、その最盛期はピーター・リンドバーグがタチアナ・パティッツ(今年1月に病死)を含めた5人を撮影したUK版「VOGUE」1990年1月号に始まる。それを見たジョージ・マイケルが、彼女たちを「フリーダム!'90」のMVに起用(ちなみに監督は今をときめくデヴィッド・フィンチャーだった)。それからドナテラ・ヴェルサーチェが兄ジャンニに提案し、翌年3月のヴェルサーチェのショーでこの曲にのって4人がランウェイを歩いたのだ。このショーについて、ジャーナリストのスージー・メンケスが“ジャンニは「旬を捉えた(I mean, he really caught that moment)」”と語っていて、さぞショーが盛り上がったのだろうと想像がついた。この後、ル・ポールの「Supermodel(You Better Work)」も発売され、まさに社会現象だったのだろう。
私はといえば当時中学生とかで、MTVでそれらのMVを観たような記憶はあるが、ハイファッションにはまだ行き着いておらず、おってファッション誌でスーパーモデルの存在を認識した気がする。この後スーパーモデルの価値観とは相反するグランジの登場やインターネットの台頭等で雑誌の力が弱まり、90年代後半にはブームが翳りを見せていく。そして社会全体を動かすムーブメントが起きにくくなった今では、もう他のカルチャーも巻き込んで熱狂するようなファッションはそうそうない。スーパーモデル時代が最後のファッションの盛り上がりだったのだなと少しうらやましいような、寂しいような気持ちになってしまったのだった。
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次は、ナオミ・キャンベルについて。
4人の中で私が唯一生を見たことがあるのがナオミで、ステラ・テナント死去の際にブログで「ステラが出演した2020年春夏のサンローランのショーで、ナオミ・キャンベルはもったいぶった足取りで大御所感を出しながらフィナーレを飾った」と書いていたように、自信過剰なイメージがあってあんまり良い風には思っていなかった。いやしかし、それは彼女がブームが終わってもコンスタントに活躍しているから私が遭遇できているのであって、番組を見ると、人種差別にも屈せず努力の末に勝ち取っている立場であることがわかった。最新24年春夏ドルチェ&ガッバーナのフィナーレで50代にしてボディラインをキープし、堂々と歩く動画はさらに説得力がある。残念ながらパリで姿を見ることはできなかったが、ナオミさま、あっぱれです。今後は心を入れ替えて応援します。
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最後はリンダ・エヴァンジェリスタについて。
ぶっちゃけ、US&UK版「VOGUE」9月号の記事を見て一番気になっていたのがリンダだった。写真は不気味なくらい加工してあるが、舞台裏の動画を見て顔のラインの崩れに衝撃を受けていたのだ。記事にもなっていたように2016年に美容整形手術に失敗したこともあっての姿で、番組ではそのことについても赤裸々に語っている。「多様性」なんて言葉は見当たらなかった1980〜90年代、ひとつの「美」の価値観を押し付けられていると、老いを受け止められない人も出てくるのだろう。「美」にこだわったからこそ、4人の中で一番不自然な姿となっているリンダが何だか哀しかった。意外にかわいらしい声で、ところどころに心許なさが感じられる人柄も垣間見えたりして余計いたたまれない。
といったわけでとりいそぎ心に残ったベスト3を挙げてみたが、本当に盛りだくさんで「ギャラが1日1万ドル(円安の今なら約150万円!)以下ならベッドから出ない」といったスーパーモデルにまつわる逸話や4人は本当に仲良しなんだとか、有名デザイナーや写真家との蜜月関係とか見どころはいろいろある。ファッション好きならビンジウォッチング間違いなしです!
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