あなたは職場で泣いたこと、ありますか?

Culture 2017.11.13

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職場で涙を見せるのは罪ではない。Ⓒcaiaimage/amanaimages

同僚の前で泣くことがたいしたことではないとしたら? 
コーチング事務所イタックの創業者のシルヴェーヌ・パスキュアが説く、会社内での涙の効用とは。

始まってしまった。目がむずむずして、下唇が小刻みに震える。一瞬虚空を見つめ、込み上げる涙を止めようとしてみた、が、無理だった。涙がこぼれてしまった。同僚たちに見られてしまった。上司にも見られたかもしれない。実際のところはわからない。ウサイン・ボルトなみのスピードでトイレめがけて走るのに必死だったから。丸裸になったような気がしてくる。まるで、自分の最もプライベートな部分が人目にさらされてしまったような気分だ。避難場所から出てきたあなたは、いつもの表情を、そして自分のキャリアを取り戻すにはどうしたらよいのだろう、と自問する。仕事場で泣くのは自分の弱さを証明していることになると考える向きは多いが、パスキュアは、誰にでも会社内で感情を表現する権利があると唱える。「マイナスの感情を表に出さない人は、悩み事のない人、仕事を余計に押しつけてもかまわないロボットと見なされてしまいます」。仕事場で泣いてしまってもたいしたことではないばかりか、生産的な面もあるのだとしたら?
 

 

もちろん、仕事場で感情を表しても構わないのだけど……

涙が頬につたった途端、いつもは顎を上げて両腕いっぱいに資料を抱え、磨き上げたハイヒールのかかとで敷石をカツカツ鳴らしているあなたも、不安定な心を抱えた、欠陥だらけの、あの人間という生き物に戻っている。そんな時は、少し落ち着いて考えてみることだ。パスキュアはこう語る。「涙は人間らしさを取り戻させてくれます。涙をごまかす手段を探し求めても何の役にも立ちません。いちばん大切なのは、泣きたい時は泣くことです」

とはいえ、オープンスペースの禿鷹たちが、自分が通り過ぎた後にどんな悪意に満ちた言葉を囁き合うことかと、想像してしまうかもしれない。「ソフィって、金曜日に泣いていた人?」とか、「ソフィには優しくしないとだめよ。あの人、傷つきやすいから」とか、「岩みたいに頑丈な人だと思ってたけど!」など……。 

こういう言葉はきっとあなたの頭の中には浮かんでいるだろうが、他人はあまりそういう風には考えないものだ。同僚たちはたいがいあなたに対して共感してくれる。「ときには、人の好意を信じることも大切です。気持ちが弱っている時に被害妄想の傾向が強くなると、どんどん自分の殻に閉じこもって 、マイナスの感情ばかりが大きくなってしまいます。それまで堪えていたものが限界に達してしまったら、我慢せず、泣いてしまいましょう」
もし会議中だったら、気力を振り絞ってひとこと断ってから、ハンカチを探しに行くといい。

例:「すみません、ちょっと、感情が抑えられなくて」とひとこと言って、その場を後にすれば十分。これで周囲の共感は得られる。特に気をつけておきたいのは、同僚に優劣を測る物差しを与えないようにすることだ。もしあなたが、「いま、仕事が多くて、ストレスが重なって、ギリギリ状態なんです」などと言ったら、同僚のなかのうぬぼれさんたちを「私たちもそうだけど、こっちは泣いてないわ」と得意にさせてしまう。とやかく言わずに自分だけに関わる範囲で断りをいうだけにしておくこと。


それでも”部署の泣き虫女”にはならないように

もちろん、ちょっと批判されただけですぐ泣いたりしてはいけない。ビジネスランチや、同業者同士の会合や、上司との会議のときには我慢しよう。「単に注意を受けたことが辛いといった場合は、トイレに行って傷つきやすい自分を慰めればすむことです。何でもないことで泣いていると、凡庸な人と思われてしまう。しまいには、プレッシャーに弱くて頼りない“部署の泣き虫女”になってしまいます」

たとえば、あなたが毎週木曜日の午後、慰めの言葉も尽きて、ため息まじりに励ましている同僚のナディーンように。いずれにせよ、それは何の役にも立たない。「いつも泣いている人というのは、人から認めてもらいたい、注目してもらいたいだけで、具体的な解決策を求めているわけではないのです」

備考:涙を流すのは、せいぜい1年に1、2回にしておくこと。ナディーンに対しても同じ。彼女を励ますのは、年に2回までにしておくこと。多分そのうち泣き言を言うのを止めるだろう。


結論を引き出す

分析に勝る再発防止策はない。自分自身を見つめてみよう。自分を苦しめたものは何だったのか? 泣いた理由をどう説明したらいいのか? 自分は何を必要としているのか? 自分には何が欠けているのか? 
「泣いた後は、泣き崩れる以外にどうしようもなかったのはなぜなのかを自分自身に問うことが大事。この機会に膿を出して、あなたを傷つけた人、あるいは上司と話し合いをするきっかけにするのです」

 

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打ち明け話をしても悪口は言わない

涙を見ると人はつい色々と詮索したくなるもの。同僚たちが、あなたの背中をなでながら、なんだかんだと聞いて来ることだろう。同僚も親切な人ばかりではない。あなたの弱みを自分の出世のために利用しようとする職場の毒人間もいるから気をつけよう。心を打明ける時には、冷静になるように心掛けること。「もし上司との関係が理由で泣いたのなら、同僚にはそのことは話さない方がいい。犠牲者ぶって悪口を言ったりするとイメージが悪くなるだけです。心のつかえをおろしてすっきりするかもしれませんが、問題の解決にはなりません」

理由が個人的なものなら、もう少しオープンになっても大丈夫だ。「プライベートが大変な時期にあるなら、同僚にそう伝えておいた方がいい。あなたに仕事の負担がかかり過ぎないように配慮してくれるかもしれません」

 

涙で相手の心情につけこむのは厳禁

「涙を濫用しても、ガラスの天井を強化するだけ」

ふと、涙は仕事場で人の心を操る強烈な武器になるのでは、という考えが浮かんでくる。そうした考えは改めるべきだ。めそめそ泣いて要求を通しても、何にもならない。「どんなやり方であれ、人の心を操ろうとしてはいけません。相手の感情につけこむやりかたは、結局自分にかえってきます。男性は会社内であまり泣くことはありません。男性は別のやり方で問題を乗り切っているのです。時には攻撃的な手段に訴えることもありますが。涙は”女の手口”と見なされるゆえんです。涙を濫用しても、ガラスの天井を強化するだけ。何かにつけ涙を利用しているうちは、普通の社員としての扱いを期待することはできません」

 

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texte : Lucile Quillet (madame.lefigaro.fr)

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