フィガロが選ぶ、今月の5冊 アメリカの荒野で繰り広げられる、男たちの不条理劇。
Culture 2019.05.03
マッチョな価値観の終焉を、不条理劇に仕立てた傑作。
『ポイント・オメガ』
ドン・デリーロ著 都甲幸治訳 水声社刊 ¥1,944
ブッシュ政権で参謀的役割を果たした社会学者リチャード・エルスターは、職を解かれ、サンディエゴ郊外にある砂漠の家にやってくる。映像作家のジムは、彼の映画を撮ろうとする。ふたりの男が車で食料品の買い出しに出かけている間に、リチャードの娘が忽然と姿を消す。かくして戦争の片棒を担いだ男は、娘の失踪にうろたえる父親と化す。物語を縁取るのは、ヒッチコックの映画をモチーフにしたダグラス・ゴードンのアート作品『24時間サイコ』。アメリカ的マッチョなイデオロギーの限界と終焉の予兆を、男たちの不条理劇に仕立てたデリーロの傑作中編。
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*「フィガロジャポン」2019年4月号より抜粋
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