クリエイティブシーンを揺るがす音楽集団、Kroiの正体とは。

Culture 2020.01.09

2019年11月14日の夜、渋谷のミルキーウェイにてライブイベントが行われていた。音楽通の間ではすでに噂の5人組バンド、Kroiがステージに立つと、観客は自然に一歩前へと足を動かす。

ステージ右からギターの長谷部悠生、キーボードの千葉大樹、ドラムの益田英知、ベースの関将典。そして中央にネオングリーンのヘアが目を引くボーカル・内田怜央が入ると、ステージが始まった。

539D9537-2F34-4A96-9468-69B7B8038528.jpeg左から益田、関、内田、長谷部、千葉。

一音一音に力が込められた、しかし耳当たりの良い声色と、ブラックミュージックをルーツにした彼ららしい、遊び心あるリズムやサウンドで一気に観客を引き込む。終演後、すぐに彼らのもとへ駆け寄り取材をさせてほしいと頼むと、ステージ上のどこか距離感のある一面から一変、気さくな彼らは快く取材を引き受けてくれた。

12月某日、深夜の駒沢公園にて話を聞いた。

――今回が初の取材ということで、よろしくお願いします。 まずは、バンド結成の経緯を教えてください。

関(Ba.) (内田)怜央(Vo.)と(長谷部)悠生(Gt.)は中学からの同級生で、ずっと一緒にバンドをやっていて。俺と益田(Dr.)は大学が一緒だったけど、違うバンドを組んでいた友人同士で、大学卒業後にふたりでユニットを組んでいました。

で、ある日、悠生からいきなりインスタグラムでメッセージが来て。彼らがバンド編成を変えようとしていたタイミングだったみたいで、ベースを弾いてほしいと相談されたんです。

お互いたまたまフォローし合ってはいたんですけど、会ったことはなくて。じゃあ一度会おうかという話になり、4人でスタジオに入ってみたらすぐに意気投合して。お互いブラックミュージックが好きで、聞いてた音楽も同じだったりしたんですよ。その時がちょうど、益田と一緒にバンドをやり始めた頃だったので、「じゃあドラムも一緒に」ということでまずは4人で始まった。その1カ月後には、そのメンバーでのライブが決まってたね。

内田(Vo.) 持ち曲がなかったので、初めてのライブはカバー2曲と、お互いのバンドの曲を1曲ずつやりましたね。ボロボロだったけど、その日がすごい楽しくて。それが2018年の2月。

――それから1年、昨年はサマソニ出場もありましたね。バンドの方向性はどのように決まっていったのですか?

関(Ba.) 結成して初めて会った日、スタジオのあと中華料理屋に行って。俺らのルーツにブラックミュージックがあるから、暗黙の了解で方向性は決まっていたなかで、バンド名を決めようとなったんです。そしたら益田が「Kroi」というバンド名を挙げてくれて。

俺たちがこれまで聞いてきたブラックミュージックを、日本人の俺たちなりに昇華するという意味で、「ブラック」を日本語にして「Kroi(黒い)」。あと、色々な音楽のジャンルの色を取り入れていきたいという想いもあって。すべての色を混ぜると黒だから、Kroiという名前になりました。

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内田(Vo.) 曲に関しては、初めて作ったのが「Suck a Lemmon」。いまは基本的に俺が曲を作ってるんですけど、この時は益田さんが作っていて。

益田(Dr.) クラビネットの曲が欲しかったんですよね。

(Ba.) スティーヴィー・ワンダーの「Superstition」みたいな、鍵盤の曲を作りたいって話してたよね。

益田(Dr.) そう。軽くインストだけ作ったら、怜央が即興でラップをのせてくれたんです。それがすごい良くて、そのまま歌詞になりましたね。

(Ba.) もうひとつ「Affinity」という曲を作って、「出れんの!? サマソニ!? 2018」に応募したんですけど落ちてしまって。そこでかなりやられたけど、気合いを入れて、ライブにどんどん出て行こうとなって。

益田(Dr.) ただ、ライブするにも曲が足りなかったので、その時期は曲作りに励みましたね。「Custard」も僕が作ったんですけど、これは悠生のために作った曲です。カッティングが楽しいだろうなと思って。

――ライブを見ていいなと思ったのが、ちゃんと一人ひとりがフロントマンになる瞬間がある。「悠生さんのために」というひと言、とても腑に落ちます。

内田(Vo.) ”全員が主役”というのは、めちゃめちゃ意識してますね。フロントマンしか見ないっていうのは違うと思っていて。メンバー同士のぶつかり合いを見るのがバンドのおもしろいところなので。だからライブは毎回セッションの感覚でやってて、その場で思いついたことも取り入れる。それをみんなに見てもらいたい。元々、自分が楽器スタートなのもあるので、フロントマンだけが目立つようなステージにはしたくないんです。

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(Ba.) ”生”感は大事にしてるよね。音源で聴いてた音楽と同じものをライブで聴かされても、何も感動しないというか。ライブに行ったからこそ味わえる感動や楽しみは、絶対に重視してますね。

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――Kroiのよさはライブに詰まっていると、一観客としても強く賛同します。歌詞は内田さんが書いているんですか?

(Ba.) たまに俺も書いてます。

益田(Dr.) 怜央が書いた歌詞を、関が部分的に広げていく。

(Ba.) 怜央が、デモでワンコーラスくらいアドリブで作った歌詞を、音取って言葉はめたり、2コーラス目だけ作ったり。でも、怜央みたいにシャレた比喩とかは使えないので、そこは羨ましいですね。

内田(Vo.) 歌詞は音先行で書いてます。耳に入ってきてかっこよくない音は、歌詞にしても絶対届かないので。音を聴いて思いついた言葉から、連想ゲームで繋いでく。あとは日頃から電車の中で書き溜めてたやつとかを、はまるように修正したり。

――ほかにインスピレーションのもとはありますか?

内田(Vo.) 自分からの言葉がほんとになくなる時があって。歌詞を考えようとしても、まったく何も出てこない時とかは、絶対に映画を観ます。SFが好きで、『ネバー・エンディング・ストーリー』とか。俺らの曲の中にも同じタイトルの曲があるんですけど、映画を観て浮かんだ曲なんです。

――一曲一曲でテンションがまったく変わるのも、Kroiの楽しさですよね。

内田(Vo.) それも意識していて。バンドって、自分が上手だなと思う音楽性が絶対あるんですよ。お客さんが好む感じとかもわかるようになってくる。ただ、それで固まっちゃうと同じような曲ばかりのライブになってしまう。それは高校の時から感じてて、どんなに好きなアーティストでも、1時間半のライブを見たら疲れちゃうというか。もういいな、って思ってしまう。Kroiに関してはそれは絶対に嫌だから、しっかり頭から楽しくて、「もう1回行きたい!」って毎回思うようなライブを絶対つくりたいと思ってて。

(Ba.) 怜央も言ったとおり、あるひとつのジャンルに偏ったような曲作りはしたくないですね。自由にいろいろな要素の曲をどんどんやっていきたい。でも、そこに俺らの手癖だったりとか、メンバーそれぞれの特徴があれば、それだけでどんなジャンルでも”Kroiっぽさ”っていうのは出るんじゃないかなと。それは音楽だけじゃなくて、アートワークとかMVも、俺らがかっこいいと思ってやってるものだったら、Kroiらしさは自ずと出てくる。

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内田(Vo.) その方が楽しいしね。自分たちとしても、似たり寄ったりな曲を永遠とやるよりも、毛色が違う曲を演奏する方が、ライブに楽しみができる。「今日この曲やりてえな」っていう。

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――まさに、ブラックミュージックの自由さに通ずるところですね。

(Ba.) そうですね。スタイルを固めるんじゃなくて、変動してなんぼだなと思います。怜央が主軸に置いてるMCっていうスタイルも、ヒップホップとしてブラックだけど、それをのせるアンサンブルは、ファンクだったりディスコだったり、別のブラックミュージックでもいい。

内田(Vo.) それこそいまは、ブラックミュージックやらファンクやら、ソウルとか言ってますけど、今後ゴリゴリのロックとか、重低音がすごい曲とかをやってるかもしれないし(笑)

(Ba.) その時にかっこいいと思うものをやりたいよね。結成した時からずっと言っているのは、「Kroiをバンドだけで完結させたくない」ということで。あくまでも、”ミュージシャン”というカテゴライズだけで終わらせると、いまの音楽シーンでは弱いなと。最近、キーボードで加わった千葉(12月より正式加入)は、デザインやアートワークもできる人間だったりするし。

今回写真を撮ってくれた青木くんを始めとする写真家の人や、MVを撮ってくれる人、アパレルを考えてくれる人など、俺らに関わってくれる人全員が「Kroi」であるというスタンスでやりたくて。あくまでも俺らは音楽部門であって、アーティスト集団としてのKroiでありたいんです。

長谷部(Gt.) ライブにしても、照明さん、音響さんがいる。音楽はいろんなブレインが集まってつくり上げる総合芸術の場なんですよね。

(Ba.) たとえば映像やってる人が、こういう映像撮ったから曲つけてよってなったら曲つけるし、俺らがこういう曲作ったから映像つけてよってなれば映像を作ってくれる、そうやってお互いを補いつつ、お互いの作品をより良くする関係性が、「Kroi」の中で構築でれきばいいなと思ってます。

――そう思うようになったきっかけは?

(Ba.) カルチャーって、音楽だけじゃなく、イケてるものがめちゃくちゃあるんですよ、絶対に。

内田(Vo.) そこをちゃんとみんなに知って欲しいっていうだけだよね。

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(Ba.) 音楽にどハマりしている人にも、こんな別の世界もあるんだぜって伝えていきたくて。アーティストは、一般の人よりもアンテナを高く持って、いろいろなカルチャーを掲示していくべき存在でもあると思ってて。俺らこんなことやってるぜ、だけじゃなくて、俺らの仲間にこんなやつもいるんだぜ、どうよかっこいいだろって伝えていきたい。

内田(Vo.) やっぱりいまの時代、まったく新しいものを音楽で生み出すのはなかなか難しくて。たとえばそこに映像が入ることでクロスオーバーして、ひとつの新しい作品が出来上がる。オリジナルっていうものを追求していくと、俺らが知らないところのクリエイターを引き込むしかないんですよね。今後、写真や映像とのコラボレーションももちろんやっていきたいけど、演劇とか、そういう全く違うジャンルとも関われたらおもしろいなと思います。

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――12月から正式加入された千葉さんは、元々YouTuberで映像制作などもされていたんですよね。そうしたメンバーの加入はまた刺激があったのではないでしょうか?

(Ba.) 俺らは結成当初から、”生バンド”っていうものに重きを置いてやってきたんですけど、なかなかパートが集まらなかったから、妥協でシーケンスを使っていたんです。それにフラストレーションが溜まってきてて、いつかは誰かに鍵盤も生で弾いてもらいたいなって思ってたタイミングで、マネージャーの同居人だった千葉が鍵盤めちゃくちゃ弾けるのを目の当たりにして、これはたまんねえなっていう。

内田(Vo. & Gt.) 千葉さんほどクリエイターな人はいないっす(笑)。

千葉(Key.) ありがとうございます(笑)。もともと親がピアノの先生でピアノをずっとやっていたんです。でも、小学校の頃にやった発表会以来、人前で弾いたことはなくて。自分で曲を作ったり、友人の楽曲のアレンジをしたりはしてましたが、音楽でステージに立つことはなかった。

(Ba.) 最初は、俺らが9月に出したEPのミックス・マスタリングを担当してもらったところから縁が始まったんですけど、マネージャーの安藤のインスタのストーリーで、流れてくる曲に勝手にアドリブのピアノをのせる千葉さんの動画がよく上がってて(笑)。そんなに弾けるんだったらステージに立ってよって、9月末に初めてライブのサポートに入ってもらったのが始まりです。Kroiとして千葉の存在はサポートっていう立ち位置じゃなくなってきたので、12月から正式メンバーとして動いてもらってます。

内田(Vo. & Gt.) 千葉さんが入ってから、ライブの自由度が増したのもあって、いまライブが本当に楽しくて。やっぱ自分になかったアイデアを他の人は持ってて、俺が作った曲が他の人によってすごく良い状態になるっていう気持ち良さを、いちばん体験できる場所ですね、ライブは。

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(Ba.) オーディエンスの反応も含めね。千葉が加わったことでシーケンスの使用をなくせたので、より一層俺らのフリーキーさを出せたり、何にも縛られないライブができるようになったり、俺ら自身が楽しめるようになったよね。千葉、ありがとう!

千葉(Key.) いえいえとんでもない(笑)

――本当にみなさん楽しそう! 昨年12月には2ndシングル「Fire Brain」を発表しましたね。今後の目標はありますか?

(Ba.) 結成当初から、海外進出は視野に入れていて。グラミー賞を獲る、世界征服、月でライブが3大目標です。

内田(Vo.) 日本の音楽の底上げは、絶対にやらなきゃいけないことだと思ってて。日本語で、日本で生まれた音楽を、ちゃんと世界に届ける。それは俺らだけじゃなくて、日本のアーティストがちゃんと世界で評価されるような環境を、俺らが作らなきゃいけないなっていう想いはあって。

俺、日本語をめっちゃ崩してラップ作ったりするんですよ。それは絶対、耳あたりが良くないとっていうのがあって。俺らが洋楽聴くような感覚で、邦楽を聴いてもらうような未来を作りたい。

(Ba.) 俺の仕事の合間の楽しみは、怜央から上がってくるデモから歌詞を文字起こしすること。これこう言ってんのかな、って想像で書き起こすんです。あとから「この曲の歌詞ってこれ!?」って見せて、「うわ~それか!」みたいな(笑)

内田(Vo.) メンバーに歌詞の意味を直接伝えることはないですけど、歌詞をちゃんと知ってもらって、自分の中で解釈してもらって、それをしっかり演奏するっていう。お客さんがライブで関さんを見たら、関さんの解釈で歌詞がプレイから伝わってくるっていうか。

(Ba.) 怜央が書く歌詞、めちゃくちゃ好きなんですよね。怜央がどう考えてるかっていうよりかは、言葉の繋げ方とか、言葉の入れ方の理由をちゃんと考えるのが好き。

内田(Vo.) 俺、学がないからできるんじゃないかって思うんだよね。勉強したことなくて。

(Ba.) 学がないとは思わないけど、一理あるかもね。俺が歌詞を書くと、この言葉とこの言葉を繋げたらおかしくなるなとか、考えちゃうんですよね。怜央みたいな歌詞は書けない。真っ当な人生送ってきた人たちからすればめちゃくちゃ新鮮かもしれない。

内田(Vo.) 一つひとつ、ちゃんと意味はありますけどね。自分の書いた歌詞には自分の解釈があって、でもそれをメンバーやお客さんに聴いてもらうと、またそれぞれの解釈が生まれていく。俺らが作ったものだけで終らないで、アートが続いていくのが楽しい。

歌詞に限らず、自分が意図してなかったものが生まれるっておもろいんですよね。自分が作った曲の中に、こんなフレーズ入る!? とか。そういうのを生み出してくれるのがバンドメンバー。だから、バンドは楽しい。

(Ba.) 最終的に……

内田(Vo.) バンドは楽しい!!(笑)

(Ba.) ほんとにKroi好き。どんなファンよりも絶対俺の方が好きだ(笑)

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作詞作曲を手がけるフロントマンでありながらも、決しておごることなく、他者へのリスペクトを欠かさない内田。最年長の関は、アーティスト集団・Kroiの意思を揺るぎない言葉で語り、今後あらゆるクリエイターとの関わりにおいて支柱を担うだろう。

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そして取材中、話をふられると口を開くものの、端を好み寡黙に見守る長谷部。ステージ上では巧みなリズムとメロディアスな演奏で、圧倒的な存在感だ。大黒柱のドラムを担う益田は、独自のユーモアで場を和ませ、みなに愛されるマスコット的キャラクター。キーボードに限らずアートワークも手がける千葉は、密やかに培ってきたセンスでドラマティックな華をKroiに添える。

2020年、1月よりすでに多くのライブを控えているKroi。日本のクリエイティブシーンを揺るがそうと企む彼らの今後に、期待が高まるいっぽうだ。

Kroi
2018年2月に結成。内田怜央(VO.)、長谷部悠生(Gt.)、関将典(Ba.)、益田英知(Dr.)、千葉大樹(Key.)による5人組バンド。同年10月に1stシングル「Suck a Lemmon」をデジタルリリース。2019年8月、3000組以上のアーティストが参加するオーディションを勝ち抜き「SUMMER SONIC 2019」へ出場。翌月、1st EP『Polyester』をフィジカルリリース。19年12月、2ndシングル「Fire Brain」を発表。20年1月30日(木)には自主企画イベント「J.C.T.」を新宿ロフトにて開催。
https://kroi.persona.co/

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photos : SHUYA AOKI

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