イギリスのクリスマス広告がオンエア中。今年の傾向は?
Culture 2024.12.05
12月となり、イギリスでは連日いくつものクリスマス広告を目にするようになった。今年はドリーミーでマジカル、ポエティックなものが多い。
多くの人たちが毎年楽しみにしているジョン・ルイスのCMは「ギフティング・アワー」というタイトルだ。ロンドンの目抜き通りオックスフォードストリートのジョン・ルイス本店に閉店15分前に駆け込んだサリーの目的は、妹へのクリスマスプレゼント探し。ところが服のハンガーの間から過去にタイムスリップしてしまう。C・S・ルイスの『ナルニア国物語』シリーズの『ライオンと魔女』の名場面を思わせるこのシーンから続く過去でもサリーはプレゼントを見つけることに苦戦しているが、最後に幼い頃の妹にヒントをもらい...。現実の戻り、無事に目的を果たして店を出たサリーを待っていたのは大人になった現在の妹。画面には「パーフェクトなプレゼント探しの秘密は、最適なお店を知っていること」との字幕が浮かび上がる。
バッググラウンドに流れているのは、リチャード・アッシュクロフトがこのCMのために制作した『ソネット』だ。ジョン・ルイスはこれまでクリスマス広告に名曲のカバーを使うことで知られていたが、今回は初のオリジナルとなる。アッシュクロフトは2025年のオアシス再結成ツアーのイギリスとアイルランド公演で前座を努めることが決まっている。
大手スーパーチェーン、センズベリーズの広告では作家ロアルド・ダールの児童小説『BFG』の主人公である巨人のBFGが登場。クリスマスを特別なひとときにするために、センズベリーズの店員ソフィーの助けを得ながらさまざまな人たちを訪れて彼らが欲しかったギフトを手渡していく。
イギリスのアウトドア・ライフスタイルブランドのバブアーは、昨年に続き今年も『ショーン・ザ・シープ』が出演し、楽しい情景を見せてくれている。屋外でキャロルの練習していたものの寒さで凍りつく彼らだったが、バブアーのスカーフが温かく包んでくれたことで素晴らしい歌声を披露する。
どれもハッピーなクリスマスの情景を映し出したものだが、実は戸惑いの声もある。特にジョン・ルイスのCMはこれまでメランコリックななかにもクリスマス本来の精神とも言える、困難な状況にある人への手助けや、ダイバーシティや新たな価値観への提案が折り込まれていた。しかし今年は「消費」することだけにスポットを当てているとも言えるからだ。それは物価高騰が止まらず、リテール業はどこも苦戦のために現実的に成らざるを得ないからだろうという推測も聞かれる。
ともあれ、これらのCMがこの季節ならではの気分を盛り上げてくれるのは間違いないだろう。楽しさの満喫する一方で、世界中の誰もが平和で心安らかなクリスマスを過ごすことへの願いも忘れないでいたい。
text: Miyuki Sakamoto